五十九話 ドキドキ肝試し⑤
十五分ほど進んだところにて。
前方から、糸がものすごい勢いで走り込んでくる。
「理人お兄ちゃん~!」
理人に糸が思い切り抱きついてくる。
こんな勢いで抱きつかれたのは小学生以来だ……。
「ぶっ……糸ちゃんどうしたの? そんなに慌てて……」
理人は糸の顔を見る。
「お化けが出たんだよぉ。怖くて怖くて……」
糸は今にも泣きだしそうな顔をしている。
「えぇ! それは怖かったすね……」
理人が糸の頭をなでようとした時、左右から声が飛んでくる。
「理人! ドッペルゲンガーよ! 糸がお化けを怖がる訳ないでしょ! あの子、オカルト大好きなんだから!」
澄華が力強く言葉を発する。よく知っている妹のことだからこそ、強い言葉を使っているのが伝わってくる言い方だ。
「糸ちゃんはお化けと友達になろうとするような子です~! それになでなでは私の特権です!」
白百合も同様に糸のことを知っているからこそ、すぐに判断できたのだろう。
後半の特権についてはよくわからないが……。
「……ちっ。もうバレましたか……。折角、この子の願いを叶えてあげようと思ったのに……」
偽糸が舌打ちをしながら、澄華と白百合を見上げる。
「仮に糸の願いだったとしても、あなたに勝手に叶えられたなんて知ったら、糸が悲しむでしょうね。身勝手な怪奇現象さんには早いところ、ご退場願いたいわ……?」
澄華が怒りの色を覗かせながら、言葉を突き刺す。
「そうです~。糸ちゃんのことをわかった風なこと言って、すごく失礼なことしてます~! 早く消えちゃってください~」
白百合は軽蔑したような眼差しで偽糸を見据えている。
「ちょっと、ちょっと。会ってすぐにめちゃくちゃな言いようね……。私が本物だったら、どうするつもりよ……」
偽糸が本気で泣きそうな顔をしている。
ちょっとかわいそうだ……。
「糸本人だったら、もう泣いてるわ。それに、私達二人がいる前で抱きついたりしないでしょうからね」
澄華は機械のように淡々と言葉を吐き出す。
「そうです~。糸ちゃんはそんな子じゃありません~!」
白百合はやや高音の声で澄華に同意する。
「……あはは。随分、この子のこと知ってるのね。まあ、『色々』とわかってるみたいだし、これ以上は野暮ってもんね。続きのストーリーが気になるけど、私達ドッペルゲンガーは酷獄島に留まる存在。もし、決着がついたら、エンディングを教えてちょうだい。まあ、暇があればでいいわ。楽しみにしてるわね…………」
そう言い、偽糸は人魂になりふわりと消える……。
「二人共すごいっすね。あんな一瞬で見抜くなんて……」
理人はついさっきまで、胸元にいた偽糸の存在を思い、ただただ驚嘆している。
「理人……あなたは鈍感過ぎよ……。もう少し、周りの人の感情ってもんを考えなさい……」
澄華はキッと理人の目を見る。
「そうです~。青山先輩は鈍感過ぎです~。ちゃんと周りのことわかってないとダメですよ~」
白百合もゆったりとした口調だが、理人に深々と釘を刺す。
「え~と、すみません。善処します……」
理人は素直に謝っておくこととした。
少しすると、前から糸が歩いてきた。




