五十六話 ドキドキ肝試し②
その時、大声が聞こえる。
「理人! そいつは偽物! ドッペルゲンガーよ!」
そこには、息を切らす澄華と白百合がいた。
「んぇええ⁉ ドッペルゲンガー⁉」
理人は思わず飛び退く。
「…………はぁ、もうちょっとだったのに……。まさかこんなに早く、本物が出てくるとはね……」
澄華……否、偽澄華が抑揚なく言葉を発する。
「ど、どういうことっすか⁉」
理人は口から心臓が飛び出そうになりながら、大声を上げる。
「そのままの意味よ! 全く……。面倒な怪奇現象があったものよ……」
澄華は恐怖よりも怒りが勝っているのか、恐怖している様子は見受けられない。
「青山先輩~。大丈夫ですか? 何もされてないですか~?」
白百合も間延びした声だが、心配を声にする。
「何も……どこまでを言うのかわかんないけど、大丈夫っす!」
理人は手を繋いだことは入れてよいのか、迷ったが、なかったことにした。
「ちょっと! まさか何かあったんじゃないでしょうね⁉」
澄華が顔を赤くして声を荒げる。
「だ、大丈夫っす! そんなことより、二人はどうしてここに?」
理人はしれっと話題を変えることとした。
「会長がすごくお化けを怖がってそうだったので、私、合流しようと思って待ってたんです。そうしたら、青山先輩が出てきて、『異能で何でも解決してやる!』って言いだして、おかしいなってことになって~」
白百合が時系列順に起こったことを教えてくれているようだ。
「わ、私はお化けなんて怖くないわ! な、何を言っているの白百合さん? ……まあ、いいわ。それで、理人じゃないでしょ! って詰めたら、人魂みたいになって霧散したのよ」
澄華が白百合に強めの語気で否定を入れる。その後、冷静なトーンで話の続きを紡ぐ。
「『詰めた』って会長はドッペルゲンガー相手にも容赦ないっすね……。その方が会長らしいけど……。じゃあ、あなたもドッペルゲンガーってことっすか?」
理人は苦笑いを澄華に向ける。そして、偽澄華に言葉を投げる。
「ええ、そうよ。私達はドッペルゲンガー。その人の潜在意識が具現化した存在……。つまり、あの女の子は……」
そこまで話した時点で澄華が声を上げる。
「ちょっと! 何めちゃくちゃなこと言ってるのよ! わ、私が理人のことを…………思ってるみたいじゃない!」
澄華は途中で口ごもり何を言っているか聞き取れなかった。
ただ、ブチ切れてるのはよくわかった……。
「うふふ。可愛らしいわね。でも、想ってることは伝えないと伝わらないわよ?」
偽澄華は含みのある笑みを浮かべる。
「余計なお世話よ! 私の姿なだけで、私のことをわかった風に語らないでちょうだい!」
澄華は芯のある声で返答する。
その姿はいつもの、自分の意志のある生徒会長を想起させる。
「そうかしら? 私はあなたの潜在意識が具現化した存在よ? まあ、今後どうなりたいかは、あなたが決めること。影ながら私は応援してるわ。……それじゃあ、ドッペルゲンガーだと見破られた時点で、私は消えちゃうから、そろそろね…………」
そう言い、偽澄華は人魂のようになり、だんだんと薄れて消えていく……。
「き、消えた……。本当に怪奇現象だったってことっすか⁉」
理人は目の前で起こったことについていけず、声を大きく出す。
「そういうことよ! ドッペルゲンガーが出るなんて……。最上先輩も教えてくれてたらよかったのに……」
澄華はブツブツと不平を零す。
「まあまあ。何が出るかわかっちゃうと修行にならないですから~」
白百合が澄華をゆったりとなだめる。
「……それはそうだけどね。しかし、ドッペルゲンガーが出るとなると面倒ね。早いところ、封霊石を回収して戻りましょう」
澄華が森の奥を見据えつつ、声を出す。
「あ、そうだ。青山先輩に言っておくことがあって、少しだけ青山先輩借りてもいいですか~?」
白百合が澄華の方を見る。




