五十五話 ドキドキ肝試し①
名巣の次に糸、次に白百合、その次に澄華が森に入っていった。
ついに理人の番だ……。
「……森……入りたくねぇ……」
理人はつい本音が出てしまう。
「おい、理人! てめぇまさか、男のくせにビビってんじゃねぇだろうな……?」
最上から強い口調で言葉が発せられる。
「いや、男とか関係なく、怖いものは怖いでしょ⁉」
理人はやや大きい声で答える。
「ったく、ビビってんじゃねぇよ。まあ、ビビってる奴ほど、修行の効果も大きくなるからな。つーことで行ってこい……! ヤバくなったら、俺が助けにいってやるからよぉ」
最上は胸を叩く。
「あはは……。そこはすごく安心してます……。……じゃあ、行ってきます……」
理人は鉛のように重たい一歩を踏み出す――。
薄暗い森の中は鬱蒼としており、非情に不気味な雰囲気だ。
月明りがあるのがせめてもの救いだ……。
「うぅ……。怖ぇ……。なんで、夜の森ってこんなに怖い雰囲気なんだ……」
理人は震える声で呟く。
虚しく森の中に理人の声のみが響く。
「にしても、異常に静かなような……。虫の音一つ聞こえないんすけど……。とりあえず、森の奥に行くしかないか……」
一人でいるためか、怖さのせいか、つい独り言が多くなってしまう。
五分ほど進んだところで「キャー!」という叫び声が聞こえてくる。
「この声は会長⁉ 怖いけど、行くしかないか……!」
理人は駆け出す。
五十メートルほど進んだところで、澄華がうずくまっているのが見える。
「会長! 大丈夫っすか? 何があったんすか?」
理人は澄華に近づき、しゃがんで話しかける。
「理人ぉ……。お化けが……。お化けがいたのよ……」
澄華は理人が後ろに倒れるほどの勢いで抱きついてくる。
「うおっ……。ちょ……会長そんなに怖かったんすか? らしくないっすよ」
理人は自分以上に怖がっている澄華を見て、冷静さをある程度取り戻す。
なんか不思議な感覚だ。
「血塗れのお化けがいたのよ……。怖いに決まってるじゃない……」
澄華はいつもの高飛車な雰囲気はなく、ガタガタと震えている……。
「だ、大丈夫っす。俺も一緒に行きますから!」
理人はドンと胸を叩いてみせる。
「理人……。ありがとう」
そう言い、再度澄華が抱きついてくる。
柔らかな感触が身体に伝わってくる……。
しばらく、澄華と二人で歩いていく。
途中で澄華から声がかかる。
「理人……。ちょっと言いにくいんだけど、手……繋いでくれない……?」
顔をりんごのように赤らめた澄華が上目遣いで尋ねてくる。
「んぇえ⁉ 手繋ぐんすか? ……まあ、怖いのは俺も一緒だし、いいっすよ……」
理人は心音が上がり、大音量のBGMが流れだす。
そっと手を繋ぐ。
澄華の手はひんやりと冷たかった。
澄華と手を繋ぎながら、更に森の奥に進んでいく。
すると、視界の隅を光る何かが通り過ぎる。
「か、会長。今何か通り過ぎなかったっすか……?」
理人は震え声で確認する。
「きっと、お化けよ……! 怖いわ……!」
再度、澄華が抱きついてくる。
「わ! そんなに怖いなら、封霊石早く持って帰らなきゃっすね……!」
理人は覚悟を決める。
すると一瞬、澄華の瞳に寂しさのような色を感じた。
気のせいかもしれないが……。
だんだんと、森の奥に入っていく。
「そろそろ封霊石の所まで、辿り着くっすかね? 会長?」
理人は隣を歩く澄華を見つめる。
「……封霊石なんてどうでもよくない……?」
澄華が赤くなった顔で理人の瞳を射抜く。
「え……? それってどういう意味っすか?」
「そのままの意味よ……。このまま二人で…………」
そう言い、澄華はだんだんと顔を近づけてくる。
「え? え? 待ってください。怖すぎておかしくなっちゃったんすか⁉」
理人は恐怖が吹き飛び、単純な焦りで脳が満たされる。
「私はおかしくないわ。ずっとこうしたかった……」
澄華はゆっくりと目をつむる。
「会長…………」
理人は目の前の出来事に脳がついていかない。
……コレって……? まさか……。




