五十四話 精神修行研修 六日目! 肝試し!
精神修行研修六日目。
「おうおう、てめぇら! 昨日は愉しかったな! 元気かコノヤロー!」
最上がいつものように大きな声で挨拶をする。
「はい!」
全員が大きい声で返答する。ただ、いつもよりはボリュームが小さい。
全員昨日のハリセン組手で筋肉痛になっているからだ……。
「おいおい、そんな声で大丈夫か? まあ、今日は身体使うというより、精神力を使うことになるだろうけどな……!」
最上がニヤリと笑う。
「最上先輩、今日は一体何をするのでしょうか?」
澄華が少しばかり声を震わせつつ尋ねる。
「夜の肝試しだ……!」
「イヤッフッゥゥゥウウウウウウ!」
名巣が急に奇声を上げる。
「おい、うるせぇぞ、名巣……!」
最上がすぐに大声で注意する。
「いやぁ、やはりというか、必然というか……。オカルトゴッドの言ったことは正しかったのだわ! これは楽しみ過ぎる……!」
名巣がいつになくテンションを上げている。
もはや走り出しそうな勢いを感じる。
「ったく……。まあ、いい。〝酷獄の森〟の奥には出るんだよ……」
最上は含みを持たせた言い方をする。
「出るって何がっすか……?」
理人は震えつつ尋ねる。
「出るっつたら、一つだろ? 霊……怪奇現象だよ」
最上は淡々と答える。
「イヤッフッゥゥゥウウウウウウ!」
再度、名巣が奇声を上げる。
「名巣、てめぇ一旦黙ってろ……!」
最上が名巣を睨み付ける……。
「れ、霊が出るなんて、楽しみ過ぎます。どうしよう、オカルトグッズ持っていこうかな」
糸が目をキラキラと光らせて、嬉しそうにはしゃぐ。
「そういえば糸ちゃんもオカルト好きっすもんね。会長もこういうの平気ですか?」
理人は単純に気になったことを尋ねる。
「だ、だだ、大丈夫に決まってるでしょ! 怪奇現象なんて、ありえないわ。科学が発展した現代でそんなもの……」
澄華は青ざめた顔で虚勢を張っているように見える。
「会長……お化けとか苦手そうっすね……」
理人は淡々と応じる。
「なっ……そんな訳ないでしょ! お化けなんていないんだから……。あ、でも柴助さんはいるのか……。と、とにかく、怖くなんてないわ!」
澄華は顔を赤くして叫ぶ。
「わ、わかったっす。会長はお化けも平気ってことで……。最上先輩、何時くらいから肝試し行くんすか……?」
「十九時くらいだな。肝試しでは、森の奥に複数ある、封霊石を一つ持って帰ってきてもらう。ちゃんと俺が元の場所に戻しとくから安心しろ」
最上はニカっと笑う。
「持って帰るのは問題なんじゃ……。いや、まあそれが肝試しか……」
理人は言葉に出しつつ納得する。
「そういうこった。肝試しは一人ずつ行ってもらう。まあ、先に行った奴と合流したら、そのまま一緒に行ってもらってもいいぜ。間隔は五分空けて行ってもらう」
「なるほど……。わかりました。全員で無事帰ってきましょう!」
市川がみんなを鼓舞するように声を出す。
「そうですな。皆で帰ってきましょうぞ!」
景伍も声を上げる。
「頑張りましょ~!」
白百合もいつも通りの間延びした声を上げる。
「楽しみ過ぎる……。どんな怪奇現象が待っているのかしら……」
名巣の不気味な言葉でその場は締めくくられる――。
◇◇◇
時刻は十九時。酷獄の森の入口にて。
「さてさて、てめぇら覚悟はいいか? 今から肝試しスタートだ! 誰から行く?」
最上が全員の目を見つつ尋ねる。
「はいはいはい! あちきから行きます!」
名巣が普段では考えられないテンションで応える。
「私も行きたいです!」
糸も同様にテンション高めに応じる。
「うっせぇぞ。てめぇら……。わかった。とりあえず、名巣から行くか……?」
最上は呆れたように声を出す。
「名巣部長からで大丈夫です! 怪奇現象楽しみましょうね!」
糸が輝く笑顔で常識からかけ離れた言動をする。
「そうね。ありがとう糸ちゃん。あちき、行ってくるわ……!」
名巣がスクっと立ち上がる。
「あ~、一応注意な。ここはマジで出る。だから、なんかあったら、てめぇらに渡してる発信機で俺を呼べ。ここの霊も一通りしばき回してるからよぉ……」
最上は冗談ではない口調で話す。
「最上先輩……。あなた、一体何者なんすか……」
思わず、理人の口から疑問が零れ落ちる。
「精神修行を極めれば、認識できねぇもんは減る。無論、霊もな……! さあ、てめぇらも精神を鍛え上げてこい……!」
最上の一喝が森を揺らす。
「はい! あちき、行きます!」
名巣が駆け出す。




