五十三話 Re.ハリセン組手 決着……!
「あと、一発! それで、ハリセン組手はクリアっすよ!」
理人が大きく声を出す。
「フンッ! あと一発入れれるといいな……!」
最上の雰囲気が変わる。
まるでそこに鬼が佇んでいるようだ……。
「みんな! 取り囲んで総攻撃よ!」
澄華の号令で全員が動き出す。
最上は囲まれる危険性を考えてか、各個撃破に切り替えたようだ。
最初に狙われたのは景伍だ。
「景伍ォ……。正直てめぇが一番面倒だ。動けるデブの厄介さがよくわかったぜ……!」
最上は景伍に一息で近づく。
「一騎討ちでござるな! 須和流ハリセン術――デブの舞、一閃……!」
「最上流ハリセン術――疾風迅雷……!」
二人が交差し、そして離れていく……。
「ぐっ……、これほどの速さとは……」
景伍は膝をつき、地面に倒れ込む。
「筋は悪くねぇよ……。まずは一人、次はてめぇだ、名巣!」
最上は高速で名巣に突っ込む。
名巣も同様に突っ込むが、今回はさっきとは異なる。
サポートが全くない状態で、最上の六連撃を喰らい、名巣は白目を剥き意識を失う。
「名巣部長……!」
糸の悲哀な叫びが響き渡る。
「あと、五人だ……」
短く一言、最上が発しただけだが、恐怖が腹の底から湧いてくる……。
「ここで諦めちゃダメよ! ロマンスゴッドにも言われたわ! 諦めたらそこで恋も終わりだって。だから、こんなところで諦めたくない……!」
澄華が声を上げる。
「澄華お姉ちゃんの言う通りだよ! ここで諦めない!」
糸も賛同する。
「その通りです~。まだ、勝負は決まってません~!」
守護霊憑依が解けた白百合も同意見のようだ。
「ハハハ! てめぇら、なかなか息合うじゃねぇか……。でも、一気に決めさせてもらうぜ……!」
最上が足に力を込めて、走り込もうとしているのが見える。
「みんな! 現状、一撃入れれる可能性が高いのは理人よ! 私達は理人を守る盾になりましょう! 理人! ちゃんと決めなさいよ!」
澄華がよく通る声で皆を鼓舞する。
「ほぅ……一番可能性が高い奴に託したか……。いい判断力だ……!」
最上が稲光のような速度で突進してくる。
「ここで止める……!」
市川と糸、白百合が三人で固まり迎え撃つ。
「勢いを止める気か……! オラァ!」
最上が神速の連撃で、三人の頭を叩く。
スパンッと高い衝撃音が三回鳴る。
最上は一気に三人を叩いたため、勢いが弱まる。
「理人!」
「はい、会長!」
最上に向かい、理人と澄華は攻撃を仕掛ける。
「いいタイミングだ……! 勝負……!」
最上がハリセンを構え直す。
理人は異能――視点先読み、身体強化を使用する。
才能Eでは数秒しか持たないだろう。
でも、この距離なら届く……!
「うぉぉおおおお!」
理人は雄叫びを上げる。
最上とハリセンを交える。
お互いギリギリの戦いが続く。
しかし、理人の異能のタイムリミットが近づく……。
「遅くなってきてんぞ! スタミナ切れか……? オラァ!」
最上の一撃が理人の頭に直撃する――寸前に澄華が飛び出す。
スパンッッという高音が鳴り響く。
「痛た……。決めなさいよ、理人……」
澄華が横に倒れていく。
「了解っす!」
理人が最後の異能の力を振り絞り、高速でハリセンを振るう――。
しかし、最上は間一髪で見切る。
「今のはよかったぜ……。だが、これで仕舞いだ……!」
パンッッ! 小気味よい音が響く。
「…………ハハハ。やるじゃねぇか……! 理人、澄華……!」
最上の踏み込んだ右足にハリセンが当たっている。
ちなみに、最上のハリセンは理人の頭の数センチ先で止まっていた。
「澄華が横に倒れた時に、『澄華のハリセン』を理人に渡してやがったな! 言わば二刀流。理人の攻撃に意識がいってて、気づけなかったぜ……。意識外からの足への一撃を狙った訳か……!」
最上は愉しげに、推測を述べる。
「その通りです。最も警戒している状態の、最上先輩に攻撃を当てるには、意識外から狙うのがよいと思いました。なので、最後の一撃はこの方法と決めてたんです」
澄華が作戦内容を凛とした表情で説明する。
「それを実現した訳か……。いやぁ、ヤラれたぜ……! 合格だ! てめぇら!」
最上は笑顔で合格宣言をする。
気絶している名巣以外の六人から、歓喜の声が上がる――。




