四十九話 精神修行研修 四日目! 滝行!
精神修行研修四日目。
「よう! てめぇら! 今日も張り切っていくぞ! 今日の精神修行は滝行だ! 滝行をしながらゴッドと交信してもらう!」
最上がいつものように快活な声を出す。
理人は思う。滝行はまだわかる……。ゴッドと交信ってなんだ……?
「これを着な!」
最上は全員に白い行衣と白いハチマキを渡していく。
「あの! 最上先輩! ゴッドと交信というのは、まさにそういうことですか⁉」
名巣が食い気味に尋ねる。
「まさにそういうことって、どういうことだ……? まあ、説明はするけどよ」
最上は疑問符を浮かべつつも、話を進める。
「てめぇらはゴッドの存在を信じるか?」
え……急に宗教勧誘始まった……?
「ゴッドは存在する。そうだよな! 澄華ァ!」
最上が声を直線的に澄華に向かい飛ばす。
「え? いる……のかもですね。正直わからないです……」
澄華はどう答えたものかと、迷いつつも言葉にしたようだ。
「そうか! まあ、直接ゴッドのお声を聞かねぇと信じられねぇわな! ってことで、滝行しながら、ゴッドと交信をしてもらう!」
最上は有無を言わせる雰囲気ではない。
「さあ、てめぇら着替えてこい! ゴッドがあらゆるモノに宿っていることを体験してもらうぜ!」
最上の掛け声で全員、着替えをしに行く。
◇◇◇
最上旅館から二十分ほど歩いた大滝前にて。
「あの~。最上先輩……。こんなデカイ滝で滝行するんすか……?」
理人は滝に入る前から、寒気を色んな意味で感じる。
「おう! 滝はデカけりゃデカいほどいい!」
最上はニカッと笑む。
「そんな……! カレーパンのような理屈なのでござるか⁉」
景伍が驚嘆の声を上げる。
カレーパンのような理屈の意味はわからないが……。
「そうだ、景伍! 食い物もデカイ方がいいだろ? それと一緒だ!」
「そ、その理屈を言われてしまうと、ぐうの音も出ないでござる……」
景伍は悔しそうに下を向く。
理人は思う。いや、反論の余地はいくらでもあるだろう……と。
だが同時に、最上に逆らったところで、滝に投げ入れられるだろうな……とも思う。
「あの! あの! ゴッドはいるんですよね⁉ あちきにもゴッドの声は聞こえるんですか?」
名巣が恋焦がれるように声を上げる。
「ゴッドはいる! ただし、声が聞こえるかどうかはてめぇら次第だ! 少し前にも言ったが、ゴッドはあらゆるモノに宿っている。その存在を感じろ! そして、なりたい自分を思い描け。ゴッドはそれに答えを用意してくれるだろう……」
最上は謎に説得力のある声色で語りかけてくる。
「わかりました! あちき、行きます!」
名巣が滝に入っていく。
「冷たっ……!」
一瞬で戻ってくる。
「最上先輩……。夏とはいえ、滝冷たすぎるのだけど……」
名巣は既に唇が紫色になっている。
「冷たくない滝なんてねぇだろ! 滝に給湯器でもついてると思ってんのかてめぇはよぉ!」
最上が大きな声でツッコミを入れる。
「滝の冷たさと、滝の重みに耐えねぇとゴッドの声は聞こえねぇ! わかったらいけ! 限界がきたと判断したら俺が助けにいく! だから安心してゴッドと交信してこい!」
最上のあまりに圧のある声に押されるように名巣を先頭に滝に入っていく……。
「つ、つ、冷たっ! これヤバいっすよ」
理人は既に身体が震え始める。
「拙者は肉の鎧がある分まだマシだが、みんなは大丈夫でござるか?」
景伍が心配して声をかける。
「さ、さ、寒いわよ……。これいつまで続くの……⁉」
澄華が半ギレで叫ぶ。
「あわゎゎゎ。冷たいし、水が重いよ……。潰れちゃう……」
糸が声を震わせながら声を出す。
気持ちの問題だと思うが、いつもより糸が小さくなっているように見える。
「冷たいです~。うぅ~、柴助助けて~」
白百合が柴助に助けを求める。
白百合の近くで浮かんでいる柴助が声をかける。
「柴も冷たいのは苦手ワン。白百合耐えるんだワン。耐えた先になりたい自分になれるワン。頑張れワン、頑張れワン」
柴助は白百合の周りをフワフワと浮遊し、懸命に応援している。
「心頭滅却、心頭滅却、心頭滅却…………」
市川はひたすらに心頭滅却と唱えている。
いつもの凛とした姿からは考えられない光景だ……。
「ゴッドよゴッド……どうかあちきに声を聞かせて……。あちきは怪奇現象の申し子。さあ、ゴッド……声を聞かせて。そして叶えてちょうだい。怪奇現象に囲まれた人生を生きることを……」
名巣は理人では理解できない願い事をしながら、必死にブツブツと呟き続けている。
全員反応が違うが、みんな思ってることは同じだろう……。
この滝冷たいし、重っ。いつまでやったら、ゴッドの声聞こえてくるんだ……!




