表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/71

四十五話 ドキドキ人工呼吸⁉

 糸の推測を頼りに、砂浜から五十メートルより少し手前で宝玉を探す。


「なかなか見つからないっすね~。海は広いし仕方ないか……」


 理人が軽く愚痴を零す。


「まあね。でも、糸ちゃんの推測があるおかげで、ある程度絞って探せるから助かるよ」


 市川は爽やかに微笑む。


「ありがとうございます、お師匠! でも、あくまで推測なので、間違ってたらすみません……」


 糸は少し自信なさげに言葉を紡ぐ。


「謝る必要なんてないさ。私達の行動指針になったし、理屈も通ってると思うよ。特に最上先輩が手前に宝玉を投げ入れるとは考えにくい」


 市川はクスリと笑う。


「あれ? あのキラキラしてるのって……?」


 糸が驚嘆混じりに声を上げる。


「あれは……。写真で見た宝玉みたいだね! お手柄だよ、糸ちゃん!」


 市川は糸の頭をなでる。


「わ~! ありがとうございます! お師匠!」


 糸は懐いた猫のように嬉しそうにしている。


「重かったらダメだし、俺が取るよ」


 理人は宝玉に手をかける。


 その時、足元が崩れ去る感覚がある。


「なっ……」


 次の瞬間には、海の中にいた。

 ヤバい……。足場が崩れた……。中が空洞だったのだろうか……。いや、そんなことより、マズイのが急な崩落で両足をつってしまったことだ…………。


 ゴボババババ……。

 声にならない音が鳴る。


 しばらくすると、目の前に糸が飛び込んできているのが見えた……。


 ダメダメ、糸ちゃん泳げないのに……。

 必死な表情をしているのを見るに、理人に異常があったことを知って咄嗟に飛び込んだのだろう……。


 直後、市川が飛び込んでくるのが見える。


 市川は糸と理人、二人を抱えて海面に上がろうとする。


 しかし、二人を引き上げるのは困難な様子だ。


 理人はジェスチャーで糸だけを助けるように伝える。


 市川は苦汁をなめたような表情をした後、糸を抱えて海面に上がっていく。


 よかった。とりあえず、糸ちゃんが無事ならそれでいい。


 何とかする異能はないのか……。


 焦る心を必死に制しながら、異能トリセツを確認する。


 まずいな……。何かないのか……。


 そうだ! 回復の異能なら……!


 その結論に至った時には、頭がうまく回らなくなってきていた……。


 ここまでなのか…………。


 意識がなくなっていく…………。



 ◇◇◇



 何だ……? 声が聞こえる……?


「迷ってる場合じゃないわ! 人工呼吸するしかない!」


「え、でも澄華お姉ちゃん、それって……」


「迷ってる場合じゃないです~!」


「あちきもそう思うわ!」


「そうだね、事態は一刻を争う」


「理人氏、しっかりしてくだされ!」


「じゃあ、私がするわ……」


「え! 澄華お姉ちゃんが……! それはダメ!」


「そうです~。ここは私に任せてください~!」


「ええ⁉ それもダメ!」


「争っている場合じゃないよ。みんな早く決めないと……」


「副会長……。もうこうなったら、じゃんけんで決めましょう。それが一番早いわ!」


「会長……そんなことしてる場合じゃないような……」


「じゃあ、景伍! どうやって決めるのよ……!」


「せ、拙者がすればよいでござる!」


「それもダメです~!」


「もう! 白百合氏まで! 理人氏の命が懸かってるのですぞ? 否、こうして争っている時間が無駄。もうじゃんけんするでござる」


「じゃんけんぽん!」


 その声が聞こえた後、柔らかい感触が唇を覆う。


 命の息吹が吹き込まれていく……。




「ごほっ、がはっ…………。あれここは……?」


 理人は目を覚ます。


「理人お兄ちゃん! よかった~!」


 糸が理人に抱きつく。


「ちょ、ちょっと。糸ちゃん⁉」


 急な事態に理人は焦る。


「本当によかったよ……」


 市川の瞳はキラキラと潤んでいる。


「あ……俺、宝玉取ろうとして、足元が崩れたのか……」


 理人の記憶がだんだんと鮮明になっていく。


「そうよ。全く心配させて……! でもよかったわ!」


 澄華が目に涙を浮かべながら、ややボリュームの大きい声を出す。


「みんな心配かけて申し訳なかったっす。…………でも、その……誰が助けてくれたんすか……?」


 理人は思わず赤くなる。先程の唇の感触があるからだ。


「俺だ! 全く命が懸かった場面でじゃんけんなんてしやがって……。まあ、俺の監督不行届もあるけどな……。大丈夫か? 理人」


 最上は理人の目を真っ直ぐ見る。


「おかげさまで大丈夫です! ありがとうございます! それと、何かすみません……」


 理人は唇の感触を思い出し、目を伏せ気味に伝える。


「ハッ! 気にすんな! 命懸かった場面だからな。……とりあえず、今日の精神修行研修は終わりだ。宝玉もちゃんと持って帰ってきたしな」


 最上の右手には緑の光を放つ宝玉が乗っている。


「宝玉も無事だったんすね。よかった……。じゃあ疲れたし、帰って休もうか。……そうだ、なんでみんなじゃんけんしてたの?」


 理人は最後まで聞くかどうか迷っていたことを尋ねる。


「え、え~と。それは…………」


 澄華が顔を桃色に染め、非常に答えにくそうにしている。


 あ、コレ聞かない方が幸せなヤツか……。みんなそんなに俺と唇合わせるの嫌だったんだ……。普通にショックだ……。でも、まあそりゃそうか。急な事態で焦っていて、かつ知ってる人にキスするようなもんだもんな……。


「あ~、やっぱりいいっす。変なこと聞いちゃってごめんっす」


 理人はそう言い、足早に旅館に戻った――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ