四十三話 レッツ! ウェルカムパーリー!
数時間後。
目の前にはとても美味しそうな輝く料理の数々が大テーブルに並んでいた。
黄金色に輝く松茸ご飯。素材の味をそのまま活かした松茸の土瓶蒸し。見た目だけでサクサク感の伝わってくる松茸のフライ。松茸の香りが鼻孔をくすぐる松茸入りお鍋などなど。
その他野菜やお肉も存分に使った豪華な料理が目の前に映る。
思わず、ヨダレが出てきてしまう……。
「なんすか、なんすか! コレ! めっちゃ美味しそうなんですけど!」
理人は思わずテンションが上がる。
「こんなに芳醇で良き香りがするのですな……。松茸というのは……。拙者もう待ち切れぬでござる……!」
景伍が既に箸を手に持っている。
「バカヤロー! まず、『いただきます』が先だろうが! デブだからって食のルールを破って言い訳じゃねぇぞ景伍……!」
すぐさま、最上が景伍をしかり飛ばす。
「こ、これは失礼した。あまりの匂いについ我を忘れて、野生のデブになってしまっていた……。失敬失敬……」
景伍が素直に謝る。
一体何なんだ……野生のデブとは……。
「じゃあ、改めていくぞ!」
最上の掛け声でみんな一斉に声を出す。
「いただきます!」
理人はまず、松茸のフライを口に入れる。サクサクっと音を立てて松茸が口の中で踊る。
うまい……! 塩で味付けしているだけなのに、後から後から、芳醇な味が追いかけてくる。シンプル故に味の奥深さが染み渡ってくる。
直後、松茸ご飯をかきこむ。これまた、うまい……! 出汁と松茸の奏でるハーモニーが食欲を刺激する。何度食べても飽きない。松茸の香りを堪能できる至高の逸品だ……!
「いやぁ、美味しい。美味し過ぎるよ……! 副会長! プロの料理人っすか? もう胃袋鷲掴みにされそうっすよ!」
理人はテンション高く、食いつくように市川に問いかける。
「理人君は大袈裟だな。ありがとう。料理は趣味でしてるだけだよ。でも、これだけたくさんの松茸を使った料理をできるなんて、私は幸せな気分だ……」
市川は微笑みを浮かべた後、夢心地のような表情をする。
「副会長、本当に料理が好きなんすね! そんな一面があったなんて知らなかった。植物の生態系に詳しかったり。なんか新たな一面が知れて面白いっすね!」
理人は楽しくて、早口で話を続ける。
「そうだね。ここに来て、みんなと過ごす中で色んな一面を知れるかもしれないね。そうそう、白百合さんもすごく料理上手だったよ。手際も良いしね」
市川は白百合の方をチラリと見る。
「ありがとうございます~。副会長に褒められるなんて、照れちゃいます~。でも、副会長は本当にプロレベルですよ。将来は料理人を目指すんですか~?」
白百合が嬉しそうに頬を桃色に染める。
「いや、料理人を目指すとは決めてないんだ。生態系を知るのも好きだしね。これから、決めていくよ」
市川は爽やかな笑顔と共に返答する。
「そうなんですね~。私も将来考えないとな~」
白百合が顎先に手を持ってくる。
「白百合さんは将来なりたいものとかあるんすか?」
理人が気になったことをそのまま尋ねる。
「う~ん、素敵なお嫁さんになりたいなって思ってます~」
白百合はふざけたように、いたずらっぽく笑う。
「ぶほっ……! お嫁さんっすか? なんか興味あることとかが返ってくると思ってたから、びっくりしちゃった。悪気はないんす……」
理人は予想外の返しに、食べていた松茸ご飯を噴き出す。
「もう~、バカにしちゃダメですよ~。それに青山先輩、副会長ほどじゃないけど、私料理できるんですよ~? 優良物件だと思いません?」
「それは良いことだと思うっす! きっと、良い人と縁があるよ!」
理人はニコニコと笑いかける。
そこに、澄華と糸が割って入ってくる。
「理人! 料理ができることだけがお嫁さんの条件じゃないでしょ? 言ってみなさい!」
澄華が強い口調で理人に詰め寄る。
「そこ気になるな~。理人お兄ちゃんはどう思ってるの?」
糸も同じように、理人に詰め寄る。
「ちょちょちょ。急になんすか⁉ あっ、もしかして二人共、将来の夢が素敵なお嫁さんとか……? それで、俺に意見聞きたいってこと……?」
理人は真面目な口調で尋ね返す。
「そ、そ、そんな訳ないじゃない! バカじゃないの⁉ 自意識過剰にもほどがあるわ! 私は理人のことなんて、なんとも思ってないんだからね!」
澄華が顔を真っ赤にしながら、叫びを上げる。
「理人お兄ちゃん、女の子をからかっちゃダメだよ?」
一方糸は静かに、ごくごく真面目なトーンで語りかける。
「んぇ……⁉ なんか怒らせちゃうようなこと言ったかな……。か、からかったりしてないっすよ……。なんかごめんなさい」
理人は状況がよくわからないながらも、反射的に謝罪する。
「おいてめぇら! うるせぇぞ! 飯くらい静かに食え!」
最上の一喝で場は水を打ったように静まり返る。
「すみません!」
全員が同時に最上に向かい声を出す。
「わかったならよし! 食え! あと、市川! 白百合! てめぇらの飯はめちゃくちゃうめぇ! よくやったぞ!」
「はい! ありがとうございます!」
市川と白百合の声が響く。
その後も静かに話しつつ、楽しい食事の時間は過ぎ去っていった。




