四十二話 料理得意系女子
「ようてめぇら! 無事帰ってきたみたいだな! 宝剣もあるしな!」
最上は宝剣を凝視する。
理人に一筋の汗が流れる。
異能で修復したとはいえ、完全なものかわからない……。
「よし! 問題ねぇな! 山にぶっ刺した時、強く刺し過ぎた気がしててなぁ。壊れてんじゃねぇかって心配ではあったんだ。壊れてたら、親父に半殺しにされるの決定だったからよ!」
最上はエネルギッシュに大声で笑う。
「それはそれは……。よかったっす……」
理人は小さい声で反応する。
「それと、その袋に大量に入ってるのはなんだ?」
最上が市川の持っている松茸に目をやる。
「これは松茸です! ここにいる名巣さんがダウジングで見つけてくれました! 彼女の素晴らしい能力です!」
市川は興奮気味に答える。
「副会長……あまり持ち上げられても困るわ……。ダウジングは怪奇現象を見つけるためのものだったし……」
名巣は口ではそう言っているが、どことなく嬉しそうな様子だ。
ニチャニチャと笑っている。
「ほう! ダウジングができるのか! てめぇなかなかすごいな! よし! 今日は松茸でウェルカムパーリーだ!」
最上が嬉しそうに声を張り上げる。部屋中がビリビリと揺れている。
「料理は任せてちょうだい!」
澄華がすかさず言葉を挟む。
「あ、ずるい! 私もする!」
糸も同調する。
「あ……いや、それは……。ちょっと……ですよな……理人氏……?」
景伍が顔を真っ青にしながら、理人の顔を見る。
命が懸かった場面のような独特な緊張感を纏っている。
「そ、そうっすね……。折角の松茸が台無し……じゃなくて、料理が上手な人がしないと最上先輩にも失礼かな~なんて思ったり……。とにかく、会長と糸ちゃんは手出し無用っす」
理人はしれっと澄華と糸が台所に立つことを拒否する。
なんせ命が懸かっているのだ、暗黒物質をもう食べたくはない……。
「うっ……それはそうね……。糸。今回は諦めましょう」
澄華も最上先輩に食べてもらうことを考えて、諦めてくれたようだ。
ありがとう、最上先輩が鬼怖くて助かりました。
「……うん。わかった、澄華お姉ちゃん」
糸は少し食い下がろうとする気配を見せるも、料理は諦めた様子だ。
「じゃあよ。誰が料理するんだ? まあ、俺は旅館で料理することもあるから、俺がしてもいいぜ」
最上が腕を軽く回す。
「では、私に料理させてください。料理は得意なので」
市川が手を挙げながら、透き通る声を出す。
「副会長! あなた料理できたの⁉ 前のクッキングバトルの時は全然だったじゃない!」
澄華が明らかに失礼な内容の言葉を口にする。
「あぁ~。あれは……その……。会長が料理ができると言っていたもので、一切口出ししなかっただけなんです。会長が調理を進める度に、食材が謎の黒い物質に変わっていくので、薄々気付いてはいたのですが……。会長の顔を潰す訳にもいかず……」
市川が言いづらそうに、結構辛辣なことを言う。
「……そうだったのね。副会長。あなたが気にすることじゃないわ! 私が未熟だっただけ! よければ今日の料理も見学させてもらえないかしら? 勉強させてほしいわ!」
澄華が真剣な眼差しで市川を見据える。
「もちろん構いませんよ。……ただし、絶対手を出さないこと。いいですね?」
市川は優しく……いや普通に釘を刺す。
「わ、わかってるわよ!」
澄華がやや顔を赤くし叫ぶ。
「あの! 私も見学していいですか?」
糸が小さな手を挙げながら質問する。
「もちろん、構わないよ」
市川は優しく微笑みかける。
「やった! ありがとうございます!」
糸はピョンと一度跳ねた後、深々と頭を下げる。
「あの~。副会長一人で料理するのは大変だと思うので、私手伝いますよ~?」
白百合が間延びした声で、市川の方へ声を出す。
「ああ、助かる。……ちなみに料理はできるのかい?」
市川がぎこちない笑顔で尋ねる。
「え~と……人並みにはできます~」
白百合が顔を上に向けて少し考えた後、答える。
「そうか。まあ、一緒に料理しようか」
市川が笑顔で答える。
「白百合さん、あなた料理ができるの⁉」
澄華が驚嘆の表情を浮かべる。
なぜ、そんなに強く反応しているのだろうか……。
「ええ、まあ人並みですけど~」
白百合は爽やかな笑顔を向ける。
「むむむぅ……。副会長! メモを取りながら、見学するわ! コツもよければ教えてちょうだい!」
「随分とやる気満々ですね、会長。いいですよ。じゃあ、早速準備しましょうか」
市川達が台所へ向かっていく。