三十六話 誤解されるアシスター系男子
「てめぇら、手出せ」
不意に最上が声を出す。
「押忍!」
全員が素直に両手を出す。
「念のため発信機を渡しておく。横についてるボタンを押せば俺に通知が来るようになってる。もし何かあったら、押すんだぞ!」
最上は一人一人に小型の発信機を渡していく。
「最上先輩、安全面の配慮ありがとうございます!」
澄華が大きな声で礼を伝える。
「おう! 裏山には、熊もいるからな。気ぃつけろ! まあ、ほぼ全個体俺がしばき回してるから、人間を襲ってきたりはしないと思うがな!」
最上は豪快に笑う。
理人は思う。この人……金太郎の生まれ変わりか何かか……?
理人達は相談し、三つにチームを分けることにした。
理人、澄華、白百合チーム。
景伍、糸チーム。
市川、名巣チームだ。
◇◇◇
理人達はどうやって宝剣を探すか相談していた。
「宝剣の写真は見せてもらったけど、どうやって探そうか。裏山はかなり広いみたいだし」
理人は頭を悩ませる。
「そうね。何か目印になるものがあればいいんだけど……」
澄華が顎に手を添え、頭を捻る。
「あの~。私、もしかしたら、役に立てるかもです~」
白百合が右手を挙げながらゆったりと話す。
「あ、もしかして……」
理人は思い当たるものがあり、声を出す。
「はい。ではでは、守護霊憑依~!」
白百合に柴助が入っていく。
「さっきの怖い女の匂いの残り香を追えばいいってことワン? 理人」
柴助が小首を傾げながら、尋ねる。
「そうっす! お願いできるっすか?」
「任せろワン!」
柴助は四足歩行で一気に駆け出そうとする。
「あ! ちょっと待って。柴助さん速すぎるから、ゆっくり行こう」
理人が慌てて止める。
しばらく、言葉を失っていた澄華が困惑気味に声を出す。
「え~と、こんなこといつもしてるの……?」
「いつもというか、必要に応じて?」
理人が疑問形で返答する。
「こ、この変態! ペットプレイを後輩にさせるなんて、そんな奴だとは思わなかったわ!」
澄華は顔を真っ赤にして、声を荒げる。
「んぇぇ⁉ そんなんじゃないっすよ! ちゃんと説明させてください!」
理人も顔を赤くしながらワタワタとする。
「何がちゃんと説明するよ! そんな趣味の奴だとは……」
澄華は露骨に軽蔑した表情だ。
「ちょっと、会長! 誤解ですって! 白百合さんの能力で柴犬の守護霊を憑依させることができるんす!」
「守護霊を憑依……? そんなことができるの……?」
澄華は疑いの目をジトっと向ける。
「し、柴助さん、説明してください! このままじゃ、俺が変態になっちゃいます!」
理人は藁にも縋る思いで柴助に頼み込む。
「理人の言ってることは合ってるワン! ちゃんと仕事をしたら、なでなでもしてくれるワン! だから、無理やりやらされてる訳でもないワン!」
柴助は至極真面目に回答したようだ。
「仕事をしたらなでなでをしてくれるぅ……? どういうことかしら、青山書記? 完全に服従させてるってことかしら……?」
澄華からピキピキと青筋を立てる音が聞こえてきそうだ。
「ちょ、柴助さん、誤解を招くようなことは……。いや、まあ事実だけど……」
「とりあえず、署で事情を聞かせてもらおうかしら……」
澄華が理人の両腕を掴む。
「嘘でしょ……⁉ 俺宝剣探す前に逮捕されそうなんですけど~⁉」
理人の悲哀な叫びが裏山の入口に響く。
そう、まだ山にすら入っていないのだ……。




