三十五話 スパルタ系女子
最上旅館と書いてある、旅館に到着する。
「こんにちは~。最上魔尾さんはいらっしゃいますか?」
澄華が受付で尋ねる。
「魔尾様でしたら、今は薪割りに行ってますよ」
受付の女性が優しく微笑みながら、地図で場所も教えてくれる。
「わかりました。ありがとうございます!」
澄華がお礼を言った後、旅館から出て、薪割りをしている所へ移動する。
◇◇◇
「こんにちは! 最上先輩!」
そこに最上魔尾という女はいた。
年は二十代前半ほど。真紅のロングヘアで、毛先が尖ったように束になっている。瞳も同じく真紅。鬼の瞳のように恐ろしくも美しい輝きを放っている。目も大きくじっと見ていると吸い込まれてしまいそうな錯覚を起こす。
プロポーションも抜群で、鍛え上げられた肉体にプラスして、出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。美しい肉体だ。身長は一七五センチメートル程だろう。
「よう! てめぇら元気にしてたか?」
最上が木を運びながらボリュームの大きい声で尋ねる。
「元気です!」
澄華が大きめの声で返事をする。
「おい、澄華ぁ。声ちっせぇぞ! もっと腹から声出せ! 他の奴らもボサっとしてねぇで答えろ!」
最上の強烈な圧のある喝を受けて、全員が大声で返事をする。
「はい! めちゃくちゃ元気です!」
「そうか……そうか……。そりゃよかった。今日から楽しい精神修行研修だ! 覚悟はできてるか?」
最上は満足そうに三度うなずいた後に、尋ねる。
「押忍! やる気満々です!」
澄華が普段では絶対出さないような大声を出す。
「よぉし! じゃあ、薪割りさっさと済ませて、修行するか! おい、景伍! 去年に薪割り『素手』だけでできたよな? 手伝え! 今は斧も何も持ってきてねぇからよ!」
最上は手早く、割る前の木を並べていく。
「押忍! 去年に最上先輩に『てめぇの重量がありゃ薪割りくらいできるだろ⁉ やれやゴラァ!』と言われてやってみたら、できたでござる!」
景伍は敬礼をしながら早口で答える。
「だよな。じゃあ、薪割りしていけ! 俺も素手で叩き割っていく。残りのメンツは割れた薪を集めて紐で縛っておけ!」
「押忍!」
急に軍隊に入ったのかと錯覚するような状況だ。だが、逆らえる雰囲気ではないため、全員最上の指示に従う。
「よし! 薪割り終了だ! てめぇら担げ! 旅館まで運ぶんだ!」
最上の号令で全員、薪を担ぐ。
ちなみに、最上は自分の背丈の二倍ほどの薪を背負っている。
「さあ、俺に続け野郎ども!」
最上に全員ついていく。
理人は思う。いつから軍事訓練を受けだしたのだ……と。
◇◇◇
薪を運び終えて、全員は旅館の一室にいた。
「自己紹介がまだだったな。初めて見る顔もいたのにすまねぇな。俺は最上魔尾だ! この旅館で働いている。ちなみに、両親がこの旅館を経営している! 今年も恒例の生徒会精神修行研修の指導者を務めることになるから、よろしくな!」
最上はニカッと豪快に笑う。
糸達会ったことがないメンバーが自己紹介を済ませる。
「おう。よろしく! さて、今日から一週間は旅館はてめぇらだけしか使わない。特別に休みにしてもらってるからな! つまり、客も来ない訳だ。修行に集中できる環境は十分に整っている。あとは、てめぇらのやる気次第だ!」
「最上先輩、毎年ありがとうございます!」
澄華が礼を大声で述べる。
「いいってことよ! じゃあ、早速修行するぞ! 全員動きやすい服装に着替えろ! まず最初の修行は、俺が裏山のどっかにぶっ刺した宝剣探しからしてもらう!」
最上の気合が獣の咆哮のように部屋に響き渡る。




