三十三話 妹系女子にとってのお兄ちゃん
理人と糸はバスケ部を後にし、一緒に帰っていた。
理人は身体中の筋肉が損傷しており、糸に肩を借りていた。
「ごめんね、糸ちゃん。肩借りちゃって。ある程度は動けるから、支える程度でいいよ」
理人は異能で修復しきれなかった身体を引きずるようにして歩く。
「理人お兄ちゃん、そんなこと気にしないで! あれだけ動いたら、すごい筋肉痛にもなるよ! というか、あんなに動けたんだね! びっくり!」
糸は素朴に驚いているようだ。
「あはは。無我夢中ですれば、何とかなるもんだね~」
理人は異能のことを、澄華以外には口外するつもりがないため、適当な相槌を打っておく。
理由は無用な混乱を避けるためだ。
「あと、今日は本当にありがとう! おかげで、友達もバスケ辞めないと思う。神代先輩も戻ってすぐにみんなに謝ってたし!」
糸は安心と喜びの混ざった、純真な可愛らしい笑みを向けてくる。
「よかったよ! 俺も一時はどうなるかと思った。身体中痛いし……。でも、本当に糸ちゃんが一緒にいてくれてよかったよ。俺だけだったら、神代先輩を納得させることはできなかったと思うから……」
理人はふわりと笑う。
「でもあの言葉って、小学生の頃に理人お兄ちゃんが私に言ってくれたことなんだよ?」
糸は昔を思い出したのか、口元に手を当ててクスクスと笑う。
「え? 俺そんなこと言ってた?」
正直覚えていない。
「もう~。言ってたよ? 覚えてない? 昔から澄華お姉ちゃんと比べられることが多くて、何もできない自分が大嫌いな時期があったんだ。そんな時に理人お兄ちゃんが言ってくれた。
『みんな違うからこそ、大事にすべきは個性』だって。それに、私は努力家さんだとも言ってくれた。私、理人お兄ちゃんにそう言ってもらってすごく救われたんだ!」
糸はまるで、太陽のように明るい笑顔を向けてくる。
「言われてみれば、言った気もするな……。よく覚えてたね糸ちゃん」
「当たり前じゃん! 理人お兄ちゃんのこと、お兄ちゃんって本気で思うようになった出来事だもん! まあ、今はお兄ちゃんというより…………」
糸は話している途中から歯切れの悪い話し方になる。頬は桃色に染まっている。
「ん? お兄ちゃんというより……?」
理人は続きが何なのかと思い、質問する。
「好……好……スクールアシスターさんだって思ってるよ!」
糸は何か他のことを言おうとしていた様子だったが、途中で桃色の顔のまま叫んだ。
「お~! これはこれは。糸ちゃんにスクールアシスターとして、認められちゃったっすね。いやぁ、頑張ってきたからかな? よかった!」
理人は素直な笑みをこぼす。
「……理人お兄ちゃんって本当はわかってるのに、もてあそんでたりしない……?」
糸がジトっとした目で理人を見る。
「ええ⁉ もてあそぶって何を? お、俺何かしちゃったっすか……?」
理人は焦って早口になる。
「……その反応だとわかってないんだよね……。はぁ……まあ、いっか。理人お兄ちゃんらしいし……」
糸は理人の方を見て、再度輝く笑顔を向けた――。