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三十二話 クールビューティ系女子の真意

 バスケ部の部室で話す。


「いやぁ、神代先輩が話聞いてくれるとは……。あと、再起不能になってた俺を運んでくれてありがとっす!」


 理人は神代に素直な笑顔を向ける。


「ふん。あのままコートにいられても邪魔だから、運んだまでよ。……で? 話って?」


 神代は話を聞くために理人と糸の方へ身体を向けてくれたようだ。


「話はとある人から聞いたんすけど、練習中の神代先輩の指導が厳し過ぎるそうっす。まあ、今日の練習の様子見てても思いましたけどね。なので、なんでそこまで厳しく指導するのか、よければ、理由を教えてほしいっす」


 理人はできるだけ穏やかな口調で伝える。


「楽な練習してたら強くなれないでしょう? 以上よ」


 神代は一言で返答する。これ以上は踏み込むなと言うように。


「でも、厳し過ぎる練習で精神が疲れちゃったり、退部する人が出てるんすよ? 神代先輩は何も思わないんですか?」


「辞めた子達はそこまでの覚悟だったというだけよ」


 神代は何の抑揚のない声で答える。


「それ、本気で言ってます?」


 理人は少しばかり、怒りの色の混じった声を出す。


「……本気よ。私は全国大会を本気で目指している。そのためには厳しい指導が必要だと思ってる。私の前の部長……マイと約束した……。必ず全国大会に出場するって……」


 神代は過去を想い、宙を見上げている。まるで、夢の世界に没入しているようにすら感じる瞳だ。


「……マイさんとの約束を大事にしてるのはわかりました。それでも俺は……」


 理人が話している途中で、神代が大声を出す。


「だったらどうしろっていうのよ! マイは難病にかかって余命がもうあまりないのよ……! マイと夢見た全国大会のために必死に努力したらいけないの⁉ 『私達』には時間がないの!」


 神代は今までのクールな印象とは真逆の、熱意を剥き出しにした表情をする。


「そんな事情が……」


 理人は思わず口を閉ざす。


 代わりに糸が口を開く。


「だったとしても、今のやり方は間違ってます。私の友達が言ってました。神代先輩はとってもバスケが上手で、バスケのことを愛してるって。そんなバスケが大好きな人なのに、あなたは楽しそうにバスケをしていない! まるで、マイさんのためだけに自分に鞭を打ってバスケをしてるみたいに見えます!」


 糸は珍しく、声を荒げる。自分が気づいたことを伝えることが、使命だとでもいうように……。


「…………私の気持ちなんてどうでもいいのよ……。私はマイが生きてるうちに全国大会を見せてあげたい。そのためなら、みんなにどう思われようと、自分がバスケを楽しめていなかろうと、どうでもいいのよ!」


 神代は魂の咆哮をあげる。


「ダメです! そんなの絶対ダメです! 神代先輩の気持ちがどうでもいいなんてこと絶対にありません! マイさんがそんなこと望む訳がないじゃないですか!」


 糸も同じく魂の咆哮をあげる。


「……マイが優しい子なのは私が一番知ってる。親友だもの。マイが今の状況を望まないことだって心のどこかではわかってる。それでも、私は何かしないと……何かしてないと……心が持たないのよ……」


 神代は静かに涙を流す。美しい光の筋は神代の頬から地面へと落ちていく。


「……神代先輩の気持ちは痛いほどよくわかりました……。でも、神代先輩がバスケが好きで、バスケが得意なように、みんなそれぞれの想いや得意分野があるんだと思います。『みんな違うからこそ、大事にすべきは個性』なんじゃないかなって私は思います」


 糸は一息の間を空け、言葉の続きを紡ぐ。


「今の練習は『全てできないと否定される』環境です。そうじゃなくて、人それぞれができることをして、力を合わせることで、全国大会への道も拓かれるんじゃないですか……?」


 糸は神代を説得したいなどとは思っていないのだろう。ただ、自分の思っていること、こうあったらいいな、と思うことを愚直に述べている印象だ。


「…………それもそうかもね……。マイだったら同じこと言いそうだわ……。ありがとう。あんた達のおかげで、間違ってたことに気づけた。部活を辞めちゃった子達にも、戻ってくる気がないか聞いてみるわ。もう、遅いかもしれないけど……」


 神代は次から次へ溢れてくる涙が更に増える。


「あの! これ使ってください!」


 糸がハンカチを差し出す。


「……ありがとう」


 神代はただ一言伝え、ハンカチを受け取り、しばらく泣き続けた……。


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