三十一話 対決! クールビューティ系女子
理人と神代はコートに入る。
「あたしがオフェンスでいい? 無駄な時間かけても仕方ないから」
神代はバスケットボールを指先で回しつつ、余裕を覗かせながら尋ねてくる。
「いいですよ。俺がボール取ればいいだけっすから」
理人は軽く準備運動をしながら、答える。
「あっそ。…………じゃあ、始めるわ」
一気に神代が加速する。ボールを持たずに、全速力で突進してきていると錯覚するほどのキレとスピードだ。
速い……。でも、負けられない。異能――神経伝達強化!
反射神経をはじめ、運動能力に関わる神経を引き上げる。
今の状態なら、神代の動きが視える、読める……!
理人は神代の前に躍り込む。
「行かせねぇっす」
「よく反応できたね。でもこれ以上は無理だろ……?」
神代は更に二段速度を跳ね上げる。
理人は玉のような汗を飛ばしながら、必死に喰らいつく。
嘘だろ……。まだ、そんなにスピード上げれるのかよ……!
でも、まだ……!
身体中が悲鳴を上げている。当たり前だ。こんなに運動したり普段しないからだ。
それでも、何とか神代に喰いついていけているのは紛れもなく、異能のおかげだ。
その代わり、身体中の神経が痛む。筋肉が引きちぎれていくのを感じる……。
「ここで止める……!」
理人は神代に生まれた一瞬の隙を衝き、ボールを弾いて飛ばす。
おそらく、予想以上に理人が動けたため、驚きの感情が生じていたのだろう。その隙がないと、確実にボール奪取は不可能だった……。
理人は神代よりも早く、ボールを何とか手元に手繰り寄せる。
「ゴールを決めて、俺の勝ちっす……!」
神の気まぐれか、ボールは理人が攻める方向に飛んで行っていた。
ここからなら、何とかシュートを放てる……!
「これで終わりだぁぁぁあああ!」
シュートのためにジャンプした途端に理人の身体中の力が抜ける……。
理人の〝一応〟放ったシュートはへにゃへにゃと、地面に吸い込まれる。
へ? 何だこの感覚……。足にも指先にも力が入らない……。
まさか、〝タイムオーバー〟……?
才能Eの理人の異能はそこまで長くは持たない。それに、筋肉が限界を迎えたようだ。
身体中の筋肉という筋肉が絶叫を上げている。
力無く、理人は床に倒れ込む。
素早く神代がボールを回収する。
「随分と無理をしていたみたいね……。このまま決める……!」
神代はゴールまで電光の如く移動する。
そして、レイアップシュートを決める。
「あぁぁぁ! クソッ! 負けたっす! 神代先輩すごいですね!」
理人は身体を動かしてハイになっているのか、素直に熱意のこもった言葉が口から溢れ出た。
「……ふん。あんたもまあまあ、すごかったわ」
神代からは淡々とした言葉が返ってくる。ただし、見る目が最初とは変わっている。スポーツを通じた絆のようなものをたしかに感じる。
周りでは女子バスケ部員達が「あの人すごい!」「あの神代部長と一瞬互角に戦ってた!」など口々に賛美の声を上げる。
「うるさいよ! あんた達! この後、しばらくは私抜きで練習してて。私はこのへなちょこシュート小僧と話があるから」
神代はすぐに部員の声を制する。そして、理人の目を真っ直ぐ見つめる。
「んぇ……? ってことは……」
理人は思わず、驚嘆を漏らす。
「……はぁ……。だから、話くらいは聞いてあげる。何か私に言いに来たんでしょう?」
神代は動き回って、紅色に染まった顔で理人を見下ろしながら、言葉にする。




