二十八話 姉妹の静かなる想い
理人は何とか、二つのナニカを胃袋に収める。
だがまだ、胃が小刻みに震えてる気がする……。
「ふぅ……。普通に死を実感したな……。無茶はしちゃダメっすね~」
そこに、糸と澄華がやってくる。
「理人お兄ちゃん大丈夫? 顔色悪いけど……」
糸が心配そうに声をかける。
「理人……ごめんね。あれは流石に、食べ物と呼んでいいかすら怪しかったわ……」
澄華はしおらしい態度だ。
「二人共、気にしないで! 今こうして、元気にいる訳だし! ただし、糸ちゃんはもう、名巣部長の調味料で料理しちゃダメっすよ! あれインパクト強烈過ぎだから……! あと、会長は料理練習しましょう。黒炭こくたんは食べ物じゃないです!」
理人は笑顔を作った後に、テンション高めに二人に注意する。
「わ、わかったよ。理人お兄ちゃん。私も料理練習するね」
糸は反省したように、下を向く。
「……理人にダメ出しされる日が来るなんてね……。まあでも、事実だから、練習しておくわ……」
澄華は意外と凛とした表情だ。
流石、超絶自信家……。
「女の子は料理できた方が、男からポイント高いっすからね~。もちろん、男も料理できた方がポイント高いけどね」
理人は自然な笑みを浮かべる。
「……理人お兄ちゃんは、料理できる女の子の方が好き……?」
糸が上目遣いで尋ねる。
「え? そりゃ、できないよりはできた方が嬉しいっすね。俺、食べるの好きだし!」
「……私、すごく料理の練習するよ! 理人お兄ちゃんがびっくりするくらい、上手になってみせる……!」
糸が燃え上がる炎のような熱意をもって、言葉を発する。
「私も負けないわ……糸。何でもできる、お姉ちゃんのすごさをわからせてあげる……」
澄華もやる気に火がついたようだ。
「急に二人共やる気っすね……! 料理できるのはポイント高いと思うんで、良いことだと思うっす!」
「…………理人お兄ちゃんって超鈍感なのかな……?」
糸が不意に声を出す。
「さあ……? 鈍感男の感じる世界なんてわからないわ……」
澄華がやれやれと両手を上げている。
「んぇ……? どういうことっすか?」
理人は頭に疑問符を浮かべながら、尋ねる。
「そういうところよ……。まあ、いいわ。今日は体育祭で色々とご苦労様。……あと、料理食べてくれて嬉しかったわ……」
澄華は話している途中で顔を少し赤らめる。
そして、そのまま立ち去っていく。
「私の料理も食べてくれありがとね! 理人お兄ちゃん! また、食べてくれる?」
糸が理人を正面から見据える。その瞳にはたしかな期待の色が滲んでいた。
「ええっと……。名巣さんの調味料使わないなら、いいよ……!」
理人は軽く汗を流しながら、答える。
「やった! いっぱい練習するからね。絶対だよ!」
糸はそう言い、澄華とは逆方向に歩いていく――。




