二十六話 ハイパークッキングバトル!
クッキングバトルの設営が終了した。
澄華は緊張した表情をしている。
コトハの澄み渡るような掛け声がかかる。
「それではスタートです!」
「副会長! 私は料理に自信があるわ! サポートをお願い!」
澄華が市川に指示を出す。
「わかりました、会長。サポートはお任せを……!」
オカルト研究部の方を見てみる。
「部長! 私、お姉ちゃんに負けたくありません! すごいの作れますか?」
糸は両腕を曲げ、負ける気がないことを身体中から伝える。
「流石糸ちゃんだわ……。ここでアピールしたら、オカルト研究部にまだ部員が入るかもしれないものね。よし、そうと決まれば。あちき特製のスペシャル調味料を使いましょう……」
名巣は不気味な笑みを浮かべる。
コトハが実況する。
「両者共に物凄くテキパキと動いております! ただ、一点気になるのが、鼻を刺激する香りです。何でしょうか? 香辛料でしょうか? ……おっと、実況をしている間に、料理が出来上がったようです! では見ていきましょう! まずは、生徒会チームから!」
コトハが近づいていき、無言で立ち尽くす……。
「…………こ、これは……。ええっと……オムライス……ですよね?」
「ええ、オムライスよ。少し焦げちゃったけど……」
澄華はどこか言いにくそうに話している。
「少し……。なるほど。とりあえず、みなさんにも伝えないといけないので、率直に言いますね。目の前には暗黒物質のようなモノがあります……。卵は完全に焦げてもはや炭。ライスはなぜか、異様にテカテカとしてます。ただし、真っ黒です」
観客達がざわつき始める。
主な内容は「アレ……誰が食べるんだ……」「俺は食べたくないぞ……」といったものだ。
「で、ではオカルト研究部チームの方へ行ってみましょう」
コトハが移動する。またも、言葉を失い立ち尽くしている。
「あの……オムライスってこんなのでしたっけ……?」
コトハは動揺を隠しきれていない。
「ええ、オカルト研究部特製のオムライスよ。どう? 不可思議な香りが食欲をそそるでしょう? ちなみに、調理は糸ちゃんが担当したわ」
「はい! 頑張りました! どうですか?」
糸は目を輝かせてコトハの言葉を待っている。
「……まず、これはオムライスではないナニカですね……。なんか見た目がオムライスじゃない。ちょっとドクロっぽい煙出てますし。というか、なんで料理から煙出てるんですか? 卵は緑色に変色していてちょっとスライムっぽいです。ライスは何故か、赤青黄紫など色鮮やかですね……」
「はい! え? これオムライスじゃないってことですか⁉」
糸は身体をのけぞらせて驚嘆を体現する。
「ええっと……。見ようによればオムライス……かな? ま、まあ、クッキングバトルは味で勝負ですから! ……え~と、誰が食べましょうか? 挙手制か、ルーレットか……」
観客から悲鳴が聞こえてくる。
「いや、流石に食べれないぞ」「身体が拒否反応を示している」などなど……。
「どなたか、実食してくださる方はいませんか……?」
コトハは藁にも縋る思いで声を上げているように見える。
理人が声を出す。
「俺が食べるっす!」
ほぼ同時に景伍からも声が聞こえてくる。
「拙者が食べよう……」
「え? 景伍……。でも、大丈夫っすか?」
「何を言う? 理人氏の方が大丈夫ではなかろう。拙者は普段から、デブとしての研鑽を怠っていない。もちろん食事についてもだ。鍛え上げられた胃袋を持つ拙者なら、耐えきれるはずだ……!」
景伍の瞳には覚悟が宿っている。死の可能性を直感しながらも、食べるという選択をしているのが痛いほどに伝わってくる。
「……景伍……。でも、その風船のように膨らんだお腹じゃ……。これ以上無理はさせられないよ……!」
「……それはそうでござるが…………」
「景伍! 救急車を呼べるようにだけしておいてくれ……。あとは何とかするよ」
理人は努めて笑顔を作る。
「理人氏……。必ずや無事でご帰還くだされ……!」――。




