十九話 高飛車系女子を守れ!
生徒会室にて。
「会長! おはよっす!」
早めに登校した理人が澄華に挨拶する。
「あぁ……。おはよう。青山書記……」
澄華の目の下にはクマがある。声にハリがなく、今にも消え入りそうな返答だ。
「ちょ、ちょっと! 会長大丈夫っすか? 顔色悪いですよ?」
理人は心配で思わず声が大きくなる。
「大丈夫よ……。理人が心配することはないわ……」
澄華は取り繕ったような笑顔を向ける。
「…………会長は俺が異能使えるの知ってますよね? 心のゆらぎを捉えることはできます。恐怖に近いゆらぎを何となく感じます。……何かあったんですか?」
理人は澄華の脳に集中し、できるだけ詳細に心のゆらぎを把握しようとする。
「…………理人が異能を使えるのが厄介だと思う日がくるとはね……。……本当は相談するつもりはなかったのだけど、隠しても一緒か……」
澄華は観念したように、言葉にする。
「教えてください」
「ええ……。実は私、多分ストーカー被害に遭ってるのよね……。一週間前くらいから違和感があったんだけど、最近後をつけられてるように感じる。それに、何度か勝手に写真を撮られたと思う…………」
澄華はいつもの快活で傍若無人な様子はなく、ただただ、不安を感じている少女のように見える。
「それは許せないっす! 警察には行った?」
理人は怒りで語気が強くなる。
「警察にも行ったけど、現状では事件性までは判断できないって言われた……」
澄華の目が光を反射しているのか、キラキラと揺れ動いているのを感じる。
「……会長が困ってる時こそ、スクールアシスターの出番でしょう……? もっと俺を頼ってください!」
「……でも、今回のことで理人が危険な目に遭うと思うと……」
澄華は目線を下げる。
「バカ! 会長はバカっすよ! だからって自分が危険な目に遭うかもしれないことを受け入れるんですか⁉ そんなの俺が許さないっす! 会長は俺が守ります!」
理人は昔から大切にしていたものを壊されるような恐怖に襲われ、大声を出す。
「ちょ……バカとは何よ、バカとは……! 私は賢いわ! 理人のことを思って……」
澄華は頭に血が上ったのか、声を荒げる。
「そういうとこがバカって言ってるんす! 困ったことがあったら、お互いに支え合うって小学生の時に誓ったじゃないすか! そのこと忘れちゃったんですか⁉ それに、会長は女の子なんです。相手が男だったら、力ではどうしても勝てない。俺が会長を守りますよ!」
理人は心配を通り越して、怒りに近い感情で、澄華に自分の想いを吐露する。
「なっ……なによ……こんな時だけ女の子扱いして……。……バカ理人……」
澄華は顔をぼうっと赤くし、俯く。
「……会長、約束忘れてなかったってことでいいですか? まあ、会長が忘れてても俺がずっと覚えてますけどね~」
理人はいたずらっぽく笑顔を作る。
「なによそれ……。まるで、告……。いや、何でもないわ。…………じゃあ、私のことを守って、スクールアシスター理人! ただし、危なくなったらすぐ逃げて。最悪私はどうなっても構わないわ!」
澄華は顔を赤く染めた後、冷静な顔で指示を出す。
「何言ってるんすか。会長を守るために俺がいるんです。何とかしますよ」
「……人の気も知らないで…………。とにかく、無理だけはしないで!」
「わかったっす。俺も怪我とかしたくないので」
理人は自然な笑みを作る――。