十八話 正反対の姉妹
翌日。
糸が改めて、生徒会室を訪ねてきた。
「理人お兄ちゃん! コレお礼です! 紅茶の詰め合わせセット!」
眩しい笑顔で糸が紅茶を見せる。その後、紙袋に入れ直し渡してくる。
「おお! ありがとう! …………嬉しいけど、受け取れないんだ。生徒会は報酬をもらう形で動く訳じゃないからさ。それに、公平でないといけないから……」
理人は思う。この場に会長がいなければこっそりもらいたいくらいだ。いいなぁ。この美味しそうな紅茶飲みたい……。
「そうなんだ……⁉ それは残念です……」
糸は悲しげに紙袋を手元に戻す。
「糸。最近、部員集め頑張ったそうね。青山書記から聞いたわよ?」
澄華が糸に声をかける。
「澄華お姉ちゃん! うん! あのままじゃ、オカルト研究部が廃部になっちゃってたから大感謝だよ! 理人お兄ちゃんが色々手伝ってくれたおかげ!」
糸は身振り手振りを交え、明るく話す。
「そう。それはよかったわ。青山書記は動き回れるのが、評価できるポイントだから、存分に使い倒しなさい」
澄華はさも当たり前のように言葉を紡ぐ。
「会長……? 俺の人権無視されてないっすか?」
理人はすぐさま、問いかける。
「最大限の敬意を払っているわよ?」
澄華は本心とは思えないような軽い返しをする。
「なんか、動き回ることしか能がないみたいじゃないっすか。会長は思いやりが圧倒的に足りないっすよ。ねぇ糸ちゃん?」
「うふふ。澄華お姉ちゃんは、理人お兄ちゃんのことすごく想ってますよ? 素直じゃないだけで……」
糸はいたずらっぽく笑う。
「ちょ、コラ! 糸! そんな訳ないでしょ! 勝手なこと言わないでちょうだい!」
澄華は頬を桃色に染め声を荒げる。
「……会長。そんな本気で怒らないでも……。ちょっと悲しいかも……」
理人は肩を落とす。
「あ、理人お兄ちゃん……。澄華お姉ちゃん! ダメだよ。理人お兄ちゃんがしょんぼりしちゃったよ。いいの? このままで?」
糸が焦りながら、声量を上げる。
「……な、なんで私が……。本当のことを言ったまでよ……」
澄華は居心地が悪そうな表情をする。
数秒無言の時間が続き、糸が澄華の方を見続ける。
「あぁ~もう! わかったわよ! 糸が言うから、訂正するだけよ! 勘違いしないでよね! 私は理人のことを評価してるわ! 困った人がいたらすぐ助けようとするし、行動も早い。何よりその優しさでたくさんの人に光を届けたわ。私はそういうとこ良いと思ってるわ!」
澄華は顔がだんだん赤くなりながら、声を上げる。
「会長……。そんな風に俺のことを思ってくれてたなんて……。俺感激っす……」
理人は涙を静かに流す。
「うふふ。澄華お姉ちゃんは素直じゃないんです」
糸は二人のやり取りを見て、微笑ましい顔をしている。
「糸……あまりからかうと怒るわよ……? もう! 私が理人を評価してることがわかったなら、それでいいでしょ! ……あと、糸の持ってきた紅茶はもらっていいわ。生徒会に対してではなく、友人にプレゼントをしたんだものね。そうでしょ? 糸?」
澄華は糸に自然な流れでウィンクをする。
「…………そうです! これは友人へのプレゼントなのです! さあ、理人お兄ちゃん受け取ってください!」
糸がルンルンという音が聞こえるような足取りで、紅茶の入った紙袋を渡す。
「会長……! 糸ちゃん……! ありがとう! 嬉し過ぎる……! 今から紅茶いれるっすね~。ちょっと待ってて!」
理人は鼻歌を歌いながら、紅茶の準備をする。
三人で飲んだ紅茶はとても美味しい味がした。
頑張って、糸の困り事を解決したこと、澄華が理人のことを評価してくれていることがわかったからだろう。
だが、何よりも、昔から仲良くしているこの三人で紅茶を飲めていることが大きいのだろう。幸せな気持ちだ……。