十六話 目つき悪い系男子 処理オーバー
二日後。
生徒会室の扉がノックされる。
「理人お兄ちゃん~! 校内での占い活動承認されたよ~! ありがとう!」
満面の笑みの糸が現れる。
「おお、それはよかったっす! じゃあ、早速今日から活動開始っすね! 俺も見に行くね」
理人は微笑みながら返答する。
◇◇◇
占いコーナーの設営をして、〝タロット占いやってます〟という、のぼり旗を配置する。
「さて……と。始めるっすか……!」
理人は気合を入れる。
「準備はできたけど、人は来てくれるかしら……」
名巣は心配そうに呟く。
「名巣部長! 私、頑張って人連れてきます! いってきます!」
糸は笑顔を向けた後、走っていく。
正直、糸ほどの可愛らしい女子生徒が声をかけたら、興味本位でも人は集められると思うなぁ……。
「糸ちゃんはいい子ね……。あちきも準備をするわ」
名巣はタロットや水晶などを準備していく。
「じゃあ、俺も興味ありそうな人を探してくるっす!」
理人は歩き始める。
さて、折角異能が使えるんだから、オカルトに興味がありそうな人を探せそうな能力を見てみるか……。
異能トリセツを確認する。
才能Eでもできること……。
相手の興味があることがうっすらわかる能力か……。才能Aなら、完全に心を読むことができるんだな。
異能って改めてすげぇな。まあ、才能Eだから関係ないけど……。
「じゃあ、使ってみるか……。相手の脳に集中するイメージで……」
次の瞬間、目の前にいた八人の生徒の〝興味のあること〟が一気に雪崩込んでくる。
〝部活動で成果を出したい〟〝赤点を回避したい〟〝彼女ほしい〟〝眠い〟〝腹減った〟……などなど。
なんだコレ……。断片的だけど、想像以上に具体的に感情が入ってくる。脳がパンクしそうだ……。
理人はトイレに駆け込む。
そのまま、トイレで嘔吐する……。
「ゲホっゲホっゲホっ…………。……この異能……。俺には扱えない領域なのか……?」
異能トリセツを確認する。
才能Eの人は一人相手で、静かな場所でないと処理オーバーを起こして、不具合が生じます。例えば、全く相手の興味がわからなかったり、過剰に興味、感情が雪崩れ込む場合があります。下手したら、脳がイカれます。
「……え? ヤバすぎじゃん……。軽い気持ちで使ってたけど、危ねぇ……。うむむ……どうするっすかね……。静かで相手が一人である可能性が高い場所か……。あそこなら……」
◇◇◇
理人は図書室に来ていた。
ここなら、静かだし、一人でいる人も多い。
なおかつ、オカルト関係の本を読んでいる人がいれば、異能を使うまでもなく興味があることがわかるだろう。
「とりあえず、何人かに異能を使わせてもらおう……」
理人は静かに呟き、異能を使ってみる。
五人の興味を読み取った時だった。オカルトに興味がある人がわかった。
理人は目視で相手を確認する。
その相手は見知った人物であった。
「あれ? 青山先輩じゃないですか~。本探しにきたんですか~?」
白百合が間延びした声で微笑みかける。
「白百合さん。こんにちは。俺は本というか人探しできてて……。白百合さんは本を探しに?」
「そうです~。柴助のこともあるので、守護霊に関する本がないかなって思って~」
「なるほど。それでか……」
理人は顎に手を添える。
「ほぇ……? わかってたんですか~?」
白百合は不思議そうにゆっくりと頭を傾ける。
「あぁ、いや。白百合さんなら、柴助さんのために本を探しそうだな~って思って」
次の瞬間、柴助が姿を現す。
「白百合は優しい子だからワン! 何か良い本知らないかワン?」
柴助が少し理人に近づきながら、聞いてくる。
「う~ん、そういう本は知らないっすね。……あと、聞きたいんすけど、白百合さんって占いとか興味ある?」
理人はぎこちない笑顔を貼り付けつつ、尋ねる。
「占いですか~? 興味ありますよ~」
「マジすか! じゃあ、ぜひ来てほしいところがあるんだけど!」
理人は思わず、白百合の手を取る。
「きゃ……。青山先輩……そんな大胆な……」
白百合はぽっと頬を染める。
「コラ理人! 隙を見つけて、白百合に触るなんて! 場所を考えるワン!」
柴助が大きい声を出す。ただし、霊体なので、周りには声は聞こえない。
ただ、静かな図書室でこのようなやり取りをしているため、ざわざわと騒いでいるのが聞こえてくる。
「やば……。ごめんなさい白百合さん。とりあえず来てほしいっす!」
「ほぇぇ……。あの、はい……。どこなりと……」
白百合は不思議な返答をしている。
◇◇◇
白百合を連れて占いコーナーへ戻る。
すると、三人程の列ができていた。
「糸ちゃん、人来てくれたんだね!」
理人は手を振りながら声をかける。
「あ、理人お兄ちゃん! そうなの! 頑張ってたら五人連れてこれたんだ!」
糸はくしゃっと笑みを作る。
「妹さんですか~。私、瀬奈白百合っていいます~。よろしくお願いします~!」
白百合が糸を、理人の妹と勘違いして自己紹介をする。
「あ、糸ちゃんは妹じゃないよ。昔からの知り合いで、理人お兄ちゃんって呼んでくれてるんす」
理人が急いで訂正する。
「そうだったんですか~。それじゃあ、よろしくお願いしますね? 糸ちゃん」
白百合が穏やかな笑顔を向ける。
「はい! よろしくお願いします! 白百合さん!」
糸も穏やかな笑顔を向ける。
……どことなく、雰囲気が怖いような……? 気のせいだろうか……?