十三話 妹系女子
放課後。
理人は生徒会室で身体を伸ばしていた。
「最近、色々な困り事の依頼が来てて、疲れた~。今は生徒会室に誰もいないし、ゆっくりできるっすね。あ、そうだ。この前美味しそうな紅茶見つけたから、買ったんだった! たまにはゆっくり紅茶でも嗜むか~」
理人はお湯を沸かし、ティーポットに注ぐ。そこに、ティーバッグを入れて蒸らす。
「お茶菓子あったっけ? お! チョコバーがカバンから三つ出てきた」
一人お茶会の準備をしていると、扉がノックされる。
「お客さんかな? はい、どうぞっす!」
扉が開き、見知った顔が見える。
「あれ? 糸ちゃん。どうしたっすか?」
ゆっくりと生徒会室に、高校一年生の如月糸が入ってくる。
名字の通り、如月澄華の妹だ。
糸は小柄で、身長が一四五センチメートル程。本人は身長が低いことがコンプレックスだと言っているが、目がクリクリとしており、より可愛らしさが引き立っている印象を持つ。髪はショートカット。全体的な雰囲気は、大人しくて優しげだ。
「理人お兄ちゃん! お久しぶりです。学校でもすごく人気になってるよ! スクールアシスター青山理人って」
糸は素朴な笑顔を見せる。
「いや~。人気……なのかな? まあ、でも困ってる人の役に立てるなら、嬉しい限りっす。そうだ。糸ちゃん紅茶飲む? ちょうどいれたてのがあるんすよ!」
理人はティーポットを、軽く持ち上げる。
「わ! 美味しそう! 理人お兄ちゃん、昔から紅茶好きだもんね。あ、でも、今日は相談があって来たんです」
糸は少しばかり、真面目な表情になる。
「ほうほう。大丈夫! 相談乗るっすよ!」
理人は軽く微笑む。
「わゎ……。かの有名なスクールアシスターさんに相談に乗ってもらえるなんて……。ありがとうございます!」
糸は冗談ではなく、素直に言葉を出している様子だ。
「そんなに真面目に構えないで大丈夫っすよ? 小さい頃からの仲だし」
「それもそっか……。いや、でも改まって相談するとなると、少し緊張します……」
「そう? 糸ちゃんは本当に真面目っすね。姉の澄華さんにも見習ってほしいくらい。マジで……」
理人は苦笑する。
「そんな! 澄華お姉ちゃんに見習ってほしいなんて、とんでもないです! 澄華お姉ちゃんは素晴らしい方ですから」
糸は興奮気味に言葉を紡ぐ。
「いやいや、会長、かなり無茶苦茶っすよ? まあでも、勉強もスポーツもできるし、人望も厚い。完璧人間ではあるか……。……というか、糸ちゃんのお姉さんのこと悪く言うのはよくないっすね。ごめんなさい」
「平気です! このやり取りも昔から何回もしてる気がするし!」
糸は昔を思い出したのか、クスクスと笑っている。
「言われてみれば、たしかに……。あ、そこの椅子座ってね。紅茶とチョコバー食べながら話聞いてもいいっすか? 食べながらが難しかったら、先に紅茶だけでも飲んでもらったら」
「ありがとう、理人お兄ちゃん。紅茶とお菓子いただきながら話したいです」
「わかった。じゃあ、準備するね」
理人は手早く紅茶を注ぐ。そして、チョコバーを二つ糸の前に置く。
「あれ? 理人お兄ちゃんの方がチョコバー少ないんじゃ……?」
「ん? あぁ~、実はさっき一つ食べたんす。だから、気にしないで」
本当は食べていないが、昔から妹のように可愛がってきた子だ。
特に損をしたなどとは思わない。むしろ多めに食べてほしいと思う。
「いや、でも悪いよ……」
糸は遠慮気味にチョコバーを一つ返してくる。
「本当に大丈夫だから。それより、早く紅茶飲もう! 冷めちゃうと、もったいないっすよ!」
理人はチョコバーを糸に渡しつつ、紅茶を飲む。
アールグレイに使用される、ベルガモットの香りが鼻孔をくすぐる。甘味があり、飲みやすく美味しい……。
「理人お兄ちゃん。昔から、紅茶美味しそうに飲むよね」
「顔に出てた? 紅茶飲むと落ち着くんすよね~。……おっと、紅茶とチョコバーの組み合わせが美味し過ぎて、相談聞けてなかった……。ごめんっす。改めて、どんな相談なの?」
「実は、私の入部したオカルト研究部が廃部になりそうで……」
「ありゃ、それは困るっすね……。廃部になりそうな理由って?」
「部員不足が理由なの……。最低でも三人いないとダメなんだけど、二年生の部長と私しかいなくて……。今月中にもう一人部員を集めないと廃部になっちゃうんです……」
「今月中ってことは、あと二週間くらいか……。ヤバめっすね」
「そう。ヤバめなのです!」
糸は少し身を乗り出す。
「う~ん。オカルトに興味ある人、知り合いでいたかな……? とりあえず、どんなことしてるのか見たいな。部長さんにも挨拶したいし」
「手伝ってくれるの⁉ ありがとう、理人お兄ちゃん!」
糸は理人の手を両手で掴み、ブンブンと振る。
「糸ちゃんって、スイッチ入ると、パワフルっすよね……」
理人は笑いながら、腕を振られ続ける。
「わゎ、ごめんなさい。ついつい、テンションが上がって……」
糸は恥ずかしそうに、顔を赤らめる。
「全然気にしてないから、大丈夫っすよ~!」
「……全然気にされないのも、ちょっと寂しいかも…………」
糸は独り言のように、ぽつりと呟く。
「ん? 糸ちゃん、何か言った?」
「何も言ってないよ。じゃあ、行こっか! あと、紅茶とチョコバー美味しかった! ありがとうね、理人お兄ちゃん!」
「いいっすよ。一人で食べても味気ないと思ってたとこだし。……でも一つだけ。生徒会室で紅茶飲んでたことは、会長には内緒ね。会長絶対怒ると思うから。あと、下手したら紅茶強奪されそう……」
理人は身体を震わせる……。
糸はキョトンとした後、笑う。
「あはは。言わないですよ。澄華お姉ちゃんが知ったら、たしかに紅茶取られちゃうかもですね! このことは二人だけの秘密ということで……」
糸はどこか嬉しそうに、人差し指を口元に持ってきている。
「信頼してるっすよ、糸ちゃん。そんじゃ、紅茶の片付けサクッと済ませるから、ちょっと待っててね」――。