十一話 犬系女子
「ダメだ……。見当たらないっすね……」
理人は一時間程、一年生の棟をうろついたが、ラブレターらしきものは見つからなかった。
理人がどうしようかと考えていると、後ろから声がかかる。
「青山先輩。 何かあったんですか~?」
聞き覚えのある間延びした声だ。
「白百合さん。こんにちは。実は今探し物してて、ピンクの封筒とか見てたりしないっすか?」
理人は白百合にラブレターであることは伏せて尋ねる。
「ピンクの封筒ですか~? う~ん、見てないですね~」
白百合は頭を捻りながら回答する。
「そうっすよね……。さてどうしたもんか」
「お困りみたいですね~。私も探すの手伝いますよ~」
「いや、悪いっすよ……」
理人が言葉を発している途中で、視界に映る人影があった。慌緒だ。
「青山先輩ぃぃぃ。見つからなかったですぅぅぅ。どうしよう。もう諦めるしかないのかな……」
慌緒は涙目になっている。
「青山先輩~。探し物でしたら、私、力になれるかもです~」
「え? 白百合さん、まさか千里眼使えるんすか……?」
「ほぇ……? 千里眼は無理です~。 でも、柴助と協力すれば解決できるかも」
「柴助……? え? でもあの時消えちゃったんじゃ……」
「いえ、いますよ。視えませんか……?」
「いや、どこに……?」
理人は目に力を入れるイメージで異能を使い、周囲を見渡す。
すると、だんだんと、白百合の後ろに柴助が浮かんでいることが分かった。
「柴助さん! まさか、白百合さんの地縛霊になったんすか⁉」
「開口一番がそれかワン! 全く、失礼なオスだワン。地縛霊じゃなくて、『守護霊』だワン!」
「あ、守護霊か……。たしかに、その言い方の方が良く聞こえるっすね」
ここで、取り残されている慌緒が声を出す。
「さっきから、地縛霊とか守護霊とかどういうことですか……?」
「それはっすね……」
理人がどう答えたものかと悩んでいると、白百合が話し始める。
「私、霊感強いから、守護霊の柴犬と話せるの~。柴犬の柴助と協力すれば、君の探し物も見つけられるかも~」
「嘘っ! それすごい助かる! ぜひぜひ!」
慌緒は、藁にも縋る表情で頼み込む。
「分かった。柴助、お願い~。守護霊憑依~!」
白百合の中に柴助が入っていく……。
「…………白百合の頼みだから、仕方なしで手伝ってやるワン。感謝するんだワン。くんくん……」
白百合の姿で柴助が話す。
おっとり系女子から、〝語尾ワン女子〟へと変貌した……。
明らかに異常な状況だ……。
慌緒もあまりの変わりように、口を大きく開けたままだ……。
「ふむ。大体の場所が分かったワン。というか、お前どこにピンクの封筒落としたんだワン? 封筒が移動し続けてるワン」
「ええ! 移動し続けてる⁉ あ! まさか、風に飛ばされてる……⁉」
慌緒は白百合の変わりようは一旦気にしていない様子だ。
――ちなみに、俺は全く馴染めない――。
「いや、そんな感じじゃないワン。まるで生き物が持ってるような動きワン! こっちだワン!」
柴助は〝四足歩行〟で走り出す。
「あ! 柴助さんダメっすよ! パンツ見えちゃいます!」
理人は急いでスカートを押さえる。
柔らかな心地良い弾力が返ってくる……。
「何するんだワン! この発情したオス野郎ワン!」
柴助は後ろ蹴りを放つ。
理人は顔面にモロに蹴りを喰らい、その場で倒れる……。
「痛いっすよぉ……。もう、女の子なんだから、はしたないことしちゃダメっす!」
「はしたないオス野郎はお前ワン! 柴なのか、白百合を狙ったのか知らないけど、お前がそんな奴だとは思わなかったワン!」
「いや、今のは事故っすよ……」
「じゃあ、なんでそんなに顔が赤いんだワン!」
「いやそれは……。フィフティー、フィフティーっつうか……。いや! 柴助さんが蹴ったからっす!」
理人は手に残る心地良さを棚に上げておくことにした。
「……どうだかワン。とりあえず、パンツが見えないように走るワン! ついてくるワン!」
柴助はそう言い、四足歩行で走り出す。
「おいぃぃいいい! 結局そのままじゃないっすか! もういいや。走るっすよ。桐上さん!」
理人と慌緒も一緒に走り出す。