(7)
「お……おい、まさか……広域組対の猿渡の……」
「当然ですよ」
「あと、声がデカ過ぎ」
俺の問いが終らない内に、K−SATを名乗った2人は、そう答えた。
「ふざけるな……あいつが警察官の風上にも置けない腐れ外道だとしてもだ、一応は法の裁きを……」
「はっ?」
「あんた、頭、大丈夫か?」
またしても、俺が言いたい事を言い終える前に……そして、今度は……何と言うか……クソ頭がいい上に腕っ節も強い優等生が、腕っ節もクソ弱い劣等生を見るような表情。
「あのさ、あいつを刑事起訴してみろ……下手したら、福岡県内の警察がヤー公に金玉握られてる事が民間人にバレるんだぞ。そんな事になったら、治安は崩壊する」
「あんたも警察官だろ。少しは現実って奴を見ろよ」
……あ……えっと……。
有益な忠告かも知れないが……俺は……今、現実から目を逸らした方が……この状況を打開出来る確率が高そうな気がしてきた。
ともかく……エラそうにそう言ってる公安野郎の背後で起きてる「現実」に、なるべく視線を合わせないように……。
「うわっ⁉」
異様に長く伸びた2本の腕が、K−SATの片方のズボンのベルトに、こっそりフックを引っ掛けていた。
そして、フックから伸びるワイヤーが巻き上げられ……。
「あああ……ええええ?」
唖然として……突入用装備の1つで宙吊りにされた相棒を見上げるK−SAT隊員の片割れ……。
「おいッ‼」
次の瞬間、そのK−SAT隊員の片割れを乱暴に呼び付ける声。
「だ……誰……ふにゃ?」
ドン……K−SAT隊員は地面に倒れ伏し……。
「え……えっと……金縛り?」
「いや……外聞が悪いんで、あんまり言いたくね〜んだけど……俺、『肉体干渉』系よりも『精神干渉』系の『魔法』の方が得意なんすわ……」
そう答えたのは……俺が入院中に久留米支局に配属になってた特務要員の和田さん。
ああ、なるほど……だから、気絶させる奴に「心理的な空白」みて〜なモノが出来たタイミングを狙……おい、ちょっと待て……。
いや、ただでさえ、「精神操作」なんてフィクションなんかだと悪役の技な上に、二〇〇一年の例のニューヨークの事件を起こしたのは精神操作系の異能力持ちだったんで、この手の能力はイメージが悪く……。
どうやら、そんな事を思い浮かべたのが表情に出たよ〜だ。
「あ……『精神干渉』つ〜ても、精神操作系は、すげ〜細かい職人芸が出来ねえと無理なんだけど、俺、そ〜ゆ〜のが苦手なんで、俺に出来るのは精神破壊ぐらいで……」
……。
「あの……こいつ、元に戻……」
「……多分……」
「多分?」
「おい、それよっかさ……」
上の方から、声がする……。
声の主は……伸縮自在の腕で、窓枠にブラ下がっている、これまた特務要員の秋光さんだった。
ぐい……。
秋光さんの片方の腕は、ワイヤーで逆さ吊りにされてるK−SATの喉元をつかみ……。
声は、良く聞こえないが、何か尋問をやってるらしい。
「しかし、俺達も事情が判んねえんだけどさ……何で、広域麻取がウチに喧嘩売って来たんだ?」
……。
ちょ……ちょっと、和田さん……な……何を言って……?
「あ……あのおッ‼」
俺は、上でK−SAT隊員を尋問してる秋光さんにも聞こえるように大声で……。
「こいつら、広域麻取じゃないですッ‼ 広域公安ですッ‼」
あ……しまった……。
時刻は普通の会社や役所の退勤時間帯……。
しかも、ここは市役所の裏手……。
俺が入院する事になった例の事件以降、異常事態慣れしつつ有るらしい久留米市民の皆さんも……警察関係の建物の窓枠に逆さ吊りになってる背広姿の男を眺めてたり……挙句の果てには、携帯電話で写真に撮ったりしてる所に……。
ザワ……っ。
ザワ……っ。
ザワザワ……。
どうやら……公道で堂々と警察官同士が何故かドツキ合いをしてた事を察した奴も出たらしく……。
「どうなってんだ、一体?」
通行人の1人がボソっと呟いた。
うん。
俺も何がど〜なってるか知りたい。




