(10)
普通に俺達のオフィスが入ってるビルに玄関から入り、普通にエレベーターで、俺達のオフィスが有る階まで上り……。
「先輩ッ‼ ここの小隊、どうなってんですかッ⁉」
オフィスに入った途端に、新人の松尾の悲鳴。
「えっ?」
「これ、自白剤?」
「だとしても、迂闊に使うんじゃねえ。自白剤で得られる『自白』は『本当の事』じゃなくて『尋問してる奴が本当だと思ってる事』になる危険性が高えからな」
黒ずくめの2人組が、注射器を見ながら、そう会話している。
覆面で顔が隠れて見えないが……声や体型などからすると、背が高い若い男と、中年か……下手したら初老の背の低い男のコンビだ。
「畜生。やっぱ、複数の警察機構が手を組んで猿渡を消そうとしてるらしい。襲撃した奴は……顔認証で確認した限りだと広域麻取の突入部隊の奴らだけど……使ってた拳銃は、型式とシリアル番号で検索したら……」
「出所は、どこだった?」
黒ずくめの齢の小男の方がそう訊いた。
「佐賀県警の証拠保管庫に有る筈のモノだ。半グレ同士の抗争で使われたヤツだ」
「ところで……これ……誰です?」
俺は、当然ながら訊かなきゃいけない事を……ちょっと訊くのが遅くなった気もするけど……隊長に尋ねた。
「あ、お前が入院する事になった事件の時に知り合った。お前が気絶した後に『正義の味方』と協力する事になってな……」
「待って下さい。それって、こいつら、俺達が取締るべき……」
「だから、どうなってんですか、この支局ッ?」
今度叫んだのは……新人の山下。
「あのな……何、尻の青い事言ってんだ? ここをどこだと思ってる? 九州三大暴力団の中でも最強の組織の総本部の御膝下だぞ。綺麗事でやってけるよ〜な土地じゃ……」
「あのね……」
今度は、黒ずくめの若くて背の高い方。
「僕達が、こ〜ゆ〜事言っても、説得力無いけど、そんな事言ってる内に、引き返し不能地点を、あっさり超えちゃった警官が、どんだけ居ると思ってんの?」
いい台詞だ。
説得力がハンパない。
警察官の新人教育で真っ先に言って欲しい事だ。
その御高説をたれてるのが、人の10人や20人平気で殺せる鬼畜どもさえガクブルする違法自警団のメンバーなのが、若干の問題点だけど……。
「だけど……」
「今回、問題になってる猿渡とかいう組対の刑事も、チンピラ・ヤクザから、しょ〜もない小遣い稼ぎをやってるだけのつもりだったのに、全部、罠で、結局、警察内部のスパイになったんでしょ? 気を付けないと、その内……」
その時、エレベーターが開き……。
って……俺、今、何やろうとした?
反射的に上着の内側に手を突っ込み、拳銃を取り出そうと……。
異常だ。
これが現実じゃなくてラノベか何かだったら、タイトルは「入院してる間に職場が異常な事になってた件」だな。
そして、俺も、たった1日で、その異常事態に順応しつつ有るようだ。
部外者に見られちゃマズい光景が職場で起きてたんで……思わず、それを目撃した部外者の口を封じ……。
「すいません、運送屋です。荷物を引き取りに……」
そこに居たのは……馬鹿デカい木箱を台車で運んで来た4人組。
「あ……そこに転がってるの引き取って下さい」
「は〜い」
そして運送屋は……。
「どうするんですか、あれ?」
「知らない方がいい」
運送屋に変装してる正体不明の連中は、気絶して床に転がっていた、ウチのオフィスを襲撃した連中を木箱に押し込め始めた。