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09:カトブレパス牧場突破RTA ANY%



 はい、よーいスタート。

 のんびりした牛さんたちを絶滅するまで討伐するRTA、はーじまーるよー。




 ということでね、まず森を出て草原が見える位置まで来たら地面にアライバルウェッジを打ち込みます。ここから計測スタート。


 最初に草原にいる牛さんたち二十四匹の位置と向きと目の開き具合を覚えます。

 大事なポイントではありますが、ここで時間をかけすぎると最初の即死が飛んできて終了してしまうので気をつけよう(一敗)。

 できる限り一瞬で覚えて最初の安置に向かいます。今回は左側で一番近くにいる牛さんの体のさらに左側。


 ここまで一旦移動したら一呼吸。

 この時間を使って今回のレギュレーションについて解説していきます。


 この牛さんの名前はカトブレパス。

 みんな座り込んで頭を地面につけていて、こちらに対し物理的な攻撃はして来ません。どころかほとんど動きません。してくることはただ一つ。

 閉じた大きな一つ目を、時間経過で開けたり閉じたりする。

 それだけ。


 ただし、カトブレパスが完全に目を開けたとき、その正面60度の射角にいると即死します。嘘みたいな本当の話。じゃあどうすればいいか考えました。そして閃いた。

 カトブレパスは仲間のカトブレパスの視線を受けても即死しない。即死耐性を持っているんですね。なら、こいつらを盾にしながら一匹ずつ倒していけばいいじゃない。


 時間がちょうど良くなってきたのでそろそろ攻撃を開始します。



「七星神流が四星――蛇霊の太刀(オロチ)



 横薙ぎに放った斬撃は、しかしカトブレパスの皮膚に弾かれる。

 厳密には十の力のうち七が返ってくるような感覚。イメージとしては車のタイヤを素手で殴ったのと似ているか。

 さほど効いていないのがわかる。実際カトブレパスの体力ゲージは全然減っていない。原因は二つ考えられる。

 単純にレベルが足りていないか。

 もしくは、弱点属性もしくは弱点部位を突けていないか。

 多くのゲームにおいて硬い敵は属性に弱く、また弱点部位が設定されていることも多い。それを加味すると後者の方が可能性が高いと思いたいが――


「――おっと、口調口調」


 はい。

 続き行くよー。


 攻撃は弾かれているものの、問題はありません。

 そもそもカトブレパスは反撃をしてくるモンスターではないし、それにオロチは弾かれることを前提とした技なのです。


 跳ね返ってきた力を利用して体を逆方向に回転。

 今度は反対側に横薙ぎです。

 跳ね返ってきた七の力。遠心力で追加される二の力。そして再び渾身を込めることによる十の力。

 都合初撃の倍近い威力が叩き込まれるわけですね。

 そしてそれが弾かれれば、再び逆回転。

 跳ね返るたびに威力を増し、絡みつくように攻撃し続ける――それがオロチです。


 相手の反撃がないのもあって、徐々にカトブレパスの体力ゲージは減っていき、そしてついに一匹目を撃破。カトブレパスのグラフィックが徐々に分解されていきますね。


 すばやく周囲を見回します。

 五番、十七番、二十一番が完全開眼。

 七番、九番、十一番があと十秒ほどで開眼。

 十六番、二十四番は完全に閉じているし、他はまだ余裕があります。


 オーケイここまでは計算通り。


 素早く二番の側面に移動して準開眼組からの即死を避けます。

 あとは同じように繰り返すだけ――なんですが、ほんの少しでも時間調整をミスるとカトブレパスのグラフィック消失時に視線が通って即死するので大変です。

 あとは、開始時点でのカトブレパスの配置によっては、どうやっても死角ができないパターンもあります。その場合はリセットです。


 さて、上手いこと三体目まで倒せたのですが――ほんのちょびっと時間調整をミスってしまったようです。撃破したカトブレパスの体が消えると同時に即死。





 ……視界が暗転し、気付いたときには荘厳な教会の礼拝堂の中。





『アポロニアの大聖堂で復活しました』

『『即死耐性』のスキル取得条件を満たしました』

『『折れない心』のスキル取得条件を満たしました』


 リスポーンで最初の街まで戻されました。

 だから最初にアライバルウェッジを打ち込んでおく必要があったんですね。


「これでロスなく再走はできるけど……さすがに厳しいかなあ、これは」


 もう二十回ほどチャレンジしているのだが、全撃破にはほど遠い。

 というわけで牛さん絶滅RTAごっこはいったん終わりにしよう。


「まあ、気が向いたらまたチャレンジしてもいいけど、それよりあの先がどうなってるかも気になるしな」


 実際、全部倒さなくていいなら突破は比較的ラクだ。

 すべてのカトブレパスの体を遮蔽として使えるし、入口から見て後ろを向いている個体はこの二十余回で一度も出ていない。一度抜けてしまえば問題なく探索できるだろう。


「んじゃ、そうと決まればさっそく行こう」









 かくしてカトブレパスの群れを抜けて、草原エリアを越えて、その奥へと進んできたわけだが――


 そこにあったのは不思議な光景だった。

 眼の前には切り立った崖。しかし崖の一部だけが組み上げられたレンガ状で、その中心には大きな穴が空いている。


「ダンジョンの入口……か?」


 そう見える。

 とすれば、このゲームで初めてのダンジョンハックということになる。

 一応死に戻りしたときに素材を少し売って回復アイテムを買っておいたのだが、武器や防具はまだ初期装備のままだし、準備が万端とは言いづらい。


 とはいえ、元々デスペナルティのないゲームだ。

 多少は出たとこ勝負でも面白い。


 入口周辺にアライバルオーブを探したがなさそうなので、入る前にアライバルウェッジを地面に打ち込んでおく。


「さーて、鬼が出るか蛇が出るか。吉と出るか凶と出るか」


 すべてを天に任せて、腰の刀一本を頼りに。

 オレは穴の中へと足を踏み入れるのだった。



■アイテム解説■

『アライバルウェッジ』

握りこぶし2個分くらいの黒いくさび。

地面に打ち込むことでその場所をアーツ『アライバル』のワープポイントとして設定できる。

打ち込んでいる間はアイテム欄から消え、その地点へ『アライバル』で移動すると自動でアイテム欄に収納される。街中やダンジョン内、および一部マップでは使用できない。

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