06:検証と戦闘と
――ただの斬撃で確殺だったのに、『スラッシュ』を使ったときだけ討ち漏らした。
普通に考えればこれはおかしい。
技を使った攻撃の方が威力が低いなんてゲームは聞いたことがない。
だからそれがただの偶然なのか、それとも仕様によるものなのか、検証する必要があったわけだが。
結論から言おう。
これは仕様だ。乱数のせいでもバグでもない。
『スラッシュ』を使ったときのダメージは、明らかに普通に攻撃したときより低い。ではどういうダメージ計算がなされているのか。これを確かめるためにオレは検証を兼ねた戦闘を繰り返した。
その結果わかったことがある。
このゲームのダメージは物理演算に準拠している。
つまり、物理的に理に適った動きをすれば高いダメージが出るゲームなのだ。
『スラッシュ』はAIアシストにより剣の心得がない人間にも強制的に理に適った動きをさせることで高いダメージを出す。
しかしオレの場合、そのAIアシストよりも効率的な身体操作ができるので、自分で刀を振ったほうが高いダメージが出てしまう、というわけだ。
武器に攻撃力の数値がなかったのもそういうことだ。武器そのものに攻撃力があるわけではなく、それをどう振るうか、どんな動きでどこを殴るかでダメージが決定されるからだ。
一方で、受けるダメージに関しては攻撃とはまた違った仕様になっていた。
防具には防御力の数値が設定されており、装備してれば肌の露出した部分だろうと防御力の恩恵を受けられるのだ。
まあ、アクションRPGではよくある仕様だな。
敵側には弱点部位や当たり方補正が存在するが、プレイヤー側はどこをどう殴られても防具の防御力が参照される。某モンスターをハントするゲームみたいな感じだ。
まとめ。
攻撃はどこをどんな風に殴るかでダメージが決定される。
防御はどこをどう殴られても防具の防御力でダメージが軽減される。
「――というわけで、以上検証終わりっと」
オレは今、街の南にある森まで来ていた。
ツノウサギでは体力が低すぎて検証の精度を担保できなかったので、より体力の多いモンスターを求めて移動した結果だ。そしてその副産物として周囲にはイノシシの牙だの大蛇の鱗だのがボロボロ転がっている。
それ自体は喜ぶべきことなんだろうけれども、実は未だにアイテムを収納するやり方がわからず、仕方なしに道着の胸元に突っ込んでいる。
「ここがパンパンになったらどうしようかな……」
街を出る前にポーチなりバッグなりを買っておくべきだったか。
仕方がない。いったん戻るか。
オレがそう思ったとき――
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
すごい咆哮が森の奥から聞こえてきた。
……ふむ。
森に入ってから遭遇したどのモンスターとも違う声だな。レアモンスターか、はたまたレアイベントか。
選択肢は二つ。
行くか、行かぬか。
「まあ、行くよな」
検証中にレベルも5まで上がったし、もっと強い敵とも戦ってみたいと思っていたところだ。これで弱かったら肩透かしだがそれはそれで問題はないしな。
そんな風に考えて、オレは意気揚々と森の奥に駆け出した。
森の奥に進むにつれて咆哮は大きくなり、何かを振り回す風切り音も聞こえ始め、そのおかげもあってオレは無事目的地にたどり着いた。
そこにいたのは、黒いチェインメイルを来た筋肉質な人型モンスターだった。
肌は灰色に近く、鼻が潰れていて、耳の先が尖っている。
何かの映画で見たことがあるなと思ったが、体力バーと共に表示された名前で思い出した。
――レッサーオーク。
ファンタジーと言えばの定番モンスター、オークさんだ。
レッサーとついてはいるが、その迫力は今まで戦ってきたモンスターとは比較にならない。手に持っている無骨な剣も手入れされていなそうだが、鈍器としては十分に脅威だ。
でもって、そのレッサーオークがなぜ吼えていたのかというと――
『グオオオオオッ!』
「うひゃー!」
振り下ろされるレッサーオークの剣を紙一重で避け続ける男が一人。
口元をマスクで隠し、紫がかった装束で身を固めたその姿はまるで――
「……ニンジャ?」
つぶやいたオレの声が聞こえたのか、紫の忍者がこちらを向く。
「そこの御仁! いいところに! 拙者ご覧の通り大変難儀しておりましてな――うひゃっ!?」
おお、こっちを見てしゃべりながら剣を避けた。
さらにそのままゴロゴロと転がってオレのそばまで来る。
「意外と余裕そうだな」
「そう見えたのなら眼科の検診をオススメしたいところでござるが、その前によければ助太刀いただけないでござろうか?」
「ふむ――」
まあ強いモンスターと戦えるなら吝かではないのだが。
「一応確認したいんだが、あとで我々のコリブリだったとか言わないよな?」
「言わないでござるよ。拙者経験値やアイテムよりこの場の命が大事ゆえ」
「そういうことなら、了解」
MMOで先殴りされているモンスターに横槍をいれる行為はトラブルになりやすい。
だが、言質は取った。
ならばもう後顧の憂いはない。
『グオオオオオッ!』
吼えながら突進してくるレッサーオークの、その軌道上に身を滑り込ませる。
そうして振り下ろされる巨剣の横っ腹に、抜刀の勢いのままの刀を叩きつける。斬撃は曲がり、オレと忍者の右側の地面に巨剣が突き刺さる。
『グ……オ……?』
「振り下ろす剣は横からの力に弱い」
だから相手の斬撃を横に逸らす技というのは各流派にあるのだが、さすがにこうして直接ぶつける技はない。
現実でやったら刀が折れかねないからだ。だが、この武器ならその心配もない。
そして、剣の戦いは最初に相手を呑んだ方が勝つ。
「その辺、お前の師匠は教えてくれなかったのか?」
『グ、グ……グオオオオッ!』
レッサーオークは飛び退き、改めて剣を構えて吼えた。
「オーケイ、やる気は十分だな。それじゃあ第二ラウンドと行こうか」
ここは深い森の中だ。
鏡なんてあるはずもないし、もしあっても見ることはないが――
今のオレはきっと、楽しそうに笑っているだろう。




