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52/52

52:戦闘準備



 ――剣士と忍者の違いとは何か。


 使う刀の違いだとか身分の違いだとか、そういう話じゃない。

 もっと本質的なものの話だ。

 剣士は戦うことが本分だが、忍者は役割を果たすことが本分だ。つ(・)ま(・)り(・)手(・)段(・)を(・)選(・)ぶ(・)か(・)選(・)ば(・)な(・)い(・)か(・)。その違いはとても大きい。

 オレは手段を選びたい。


「絶対着ないぞ」


 だから確固たる決意のもと、そう宣言した。

 布マスクに巫女服を着た山風に対して。


「しかし、防御力が80も上がるでござるよ?」

「防御力以上に失うものがデカすぎるんだよ!」


 いかんいかん。

 思わず吠えてしまったが、落ち着こう。

 落ち着いて状況を確認していこう。


 オレたちがいるのはジュピトリスにある武具屋。

 スフィンクス戦に向けて装備を買い揃えにやって来たのだ。

 そこまではいい。

 まともな布装備がなくて、山風が後衛用の防具を見始めた。それについても咎められない。気持ちはわかる。

 だから巫女服を装備した山風を止めはしなかった。

 けれどもそれが自分にも及ぶとなると話は変わってくる。


「お前は若いからまだ格好がついてるけど、男子高校生が巫女服なんか着たらそれはもう事案なんだよ!」


 というか、いくら小柄でガリガリだと言ってもさすがに違和感なさすぎてちょっと怖いぞ。似合いすぎている。グッズとか出したら教えてくれ。

 だが男だ。


「仕方ないでござるな。ではこちらのシスター服を――」

「同じだそんなの!」


 第二の街にいた山風からしたらジュピトリスの装備は完全に段違いの性能しててテンション上がっちゃうんだろうけどさ。


「せめて神父服をくれ!」

「神父服はガイヤールだね。欲しければピュートーンを倒さないと」

「よしじゃあピュートーンから倒しましょうウィスタリアさん」

「ダメだよ。スフィンクスが先だ」


 きっぱりと却下された。


「アタシのローブの予備貸してやろーか? 地味めのヤツを」

「いや、それもちょっと……」


 見た目的には一番マシだが、運動に向くデザインじゃないんだよな。ジュピトリス解放後もオレが防具を変えてなかった理由がそれだ。

 布製で、見た目も問題なくて、性能もいい防具があればいいのに。


「あ、いや、待てよ。もしかして――」


 ふと思った。

 アポロニアの武具屋では店内に刀はなく、店主に聞いたら奥から出してきた。

 砂漠前の村の店でも和服はないかと聞いたら店主が引っ張り出してきた。

 ひょっとして店内に展示されてないだけで、オレの希望するような防具もあるんじゃないか?


「店主」

「なんだ」


 黒い肌で精悍な顔つきの男性店主がこちらを見る。


「値段は問わない。布製の装備で、イースタンスタイルのものはないか?」

「あるぞ」


 うわ、本当にあった。

 なんでも聞いてみるもんだな。


「それを見せてくれ」

「それは構わないが……本当に値段は問わないんだな?」

「ああ」

「わかった。少し待て」


 店主が店の奥から折りたたまれた布を持ってくる。


「こいつだ」


 受け取ると詳細が表示された。



――――――――――――――――――――――――――――


【光絹の小袖・灰】

 防御力:50 耐久力:200 レアリティ:A


【光絹の袴・紺】

 防御力:50 耐久力:200 レアリティ:A


【光絹の羽織・黒】

 防御力:50 耐久力:200 レアリティ:A



 聖蚕の紡ぐ光絹で作られたイースタンの衣服。

 この装備はセットで着用した場合に限り、装備者に以下の

 EXスキルを与え、防御力耐久力は以下の数値になる。



【行動不能耐性:Lv5】

 麻痺・睡眠・石化を受ける際、50%の確率でそれを無効化し、

 無効化に失敗した場合でも効果時間を半減する。



 防御力:200

 耐久力:400



【試着】【購入】


――――――――――――――――――――――――――――



 おお、めちゃめちゃ強いじゃないか。

 二度と脱げない呪いの装備になるレベルで優秀そうだ。


 行動不能耐性も好みのスキルだ。

 ソロでゲームやるときって麻痺ったり眠ったりすると回復手段がなくてそのまま死ぬから対策必須なんだよな。

 で、このEXスキルってのはなんだろう。複合スキルのことか?

 なんにしても、素材よし、見た目よし、性能よしで求めていた条件はすべてクリアされている。

 いちおう試しに試着しておくか。

 試着ボタンを押す。

 瞬時に衣服が切り替わる。

 うむ。着心地もめっちゃいいし、動きも阻害されないな。


「気に入った。これをもらおう」

「即決とは大物だな。では支払いを」

「おう」


 ギルドカードを出して購入ボタンを押す。

 支払いによって残高の数字が動く。

 と、同時にシステムメッセージが流れる。


『『行動不能耐性』のEXスキル取得条件を満たしました』

『EXスキルは取得にSAポイントが2ポイント必要になります』


「――これは」


 装備によるスキルの強制取得で本来の取得条件を踏み倒したのか。

 EXスキルは複合スキルというより上位スキルっぽいな。それが装備を買ってつけるだけで取れるなんてずいぶんお得な感じがする。


 多少高くたって十分いい買い物だったな。

 そう思いながらカードの残高表示を見ると、なんとまだ動いていた。

 ぐるぐると動く。動く。まだ動く。


「……あれ?」


 数字はそのままごりごり減り続け、残り450万のところで止まる。

 元の残高は確か800万くらいあった。

 と、いうことは――


「さ、さんびゃくごじゅうまん――」

「そんなに高かったでござるか!?」

「私たちの装備が100枚ぐらい買えちゃうねえ」

「おいおい……金の使い方はもう少し考えた方がいいぞ」


 ごもっともだ。

 オレだって値段を事前に見ていたらさすがに躊躇した。……まあ、躊躇した上で最終的には買ったと思うけど。いやしかし……350万か。リアルマネーを支払ったわけでもないのに謎の喪失感がある。


「他に欲しいものはないか? ついでだ。倉庫の中からでも出してくるぞ」


 店主がウキウキした様子で提案してくる。


「そうだな。じゃあ刀を」

「任せておけ」


 店主は一度奥へと下がり、しばらくして二振りの刀を持って戻ってきた。


「これが今うちにある二本だ」

「二本だけか?」

「だけだ。仕入れ元がマルシスなんでな」

「なるほど……」


 マルシスは未だ都市封鎖中だ。

 たぶんオレたちがスフィンクスを倒すまで、それは続くだろう。


 スフィンクスを倒せば武器が大量に入荷されるかもしれないが、そのスフィンクスを倒すための武器を今求めているわけで。

 これはちょっとした堂々巡りだな。


「しかも一振りは直刀か。じゃあこっちだけもらうよ」

「そっちなら40000だ」

「そうか、これだっていい刀なのに――」


――――――――――――――――――――――――――――


【錬鉄の真打】

 腕利きの鍛冶師が技術を尽くして打った刀。

 刀身がやや薄く、軽さと切れ味に重きを置いている。


 耐久力:120 レアリティ:D


――――――――――――――――――――――――――――


 これがたったの4万か。

 いや、アポロニアの刀は8000だったから、高くはなっているんだが、完全に金銭感覚がぶっ壊れてしまった。


「では拙者は残った直刀の方をもらうでござるよ」

「わかった。35000だ」

「承知」


 山風もギルドカードで清算している。


「ウィスタリアさんたちは買わないんですか?」

「私は店売りよりいい装備で固めてるからね」

「アタシはもう購入済だ。街に入ったら最初に装備を更新するのは常識だろーがよ」

「なるほど」


 であれば、だいたい準備はそろったことになる。

 ポーションも買い込んだし、装備もそろったし、あとは戦うだけだ。


 ……いや、スキルアーツも少しいじっておくか。

 せっかくポイントダダ余ってるし、初のEXスキルだし、伸ばせるだけ伸ばしてみよう。


―――――――――――――――――――――――――――――――


 スキル:

【守勢の極意】【剣に生きて死ぬために】【アイテムストレージ:Lv2】

【祓魔剣】【一騎無双】【窮地の輝き】【HP増加】

【跳躍強化】【ナインライブズ】


 EXスキル:

【行動不能耐性:Lv10】



 アーツ:

【スラッシュ】【アライバル】

【オーバーリミット】【ワールドブレイカー】【落下制御】


―――――――――――――――――――――――――――――――


 まあ、こんな感じでいいか。

 そういや結局使い道がわかんないんだよな、この【ワールドブレイカー】ってアーツ。

 使用しようとすると『現在特別なワールドルールは敷かれていません』っていうメッセージが出て不発になる。

 ウィスタリアさんにも聞いてみたけどわからないって言うし。

 いずれわかるときが来るのかね。


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