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05:初めての戦闘






 ゲーム最初の拠点になるアポロニアという街には四つの門があった。

 それぞれ北門、南門、東門、西門だ。身分証さえあればどこから入ってどこから出てもいいそうだが、オレのスポーンした冒険者ギルド第七支部は街の南にあり、だから素直に南門から外に出た。


 すると、出入り口にまず鎮座していたのはアライバルオーブ。

 絡まる植物の蔦のような柱の上に大きな赤い水晶玉が乗っかっている。いや本当に水晶かどうかはわからないが。水晶っぽい玉ということでひとつ。

 いちおう冒険者ギルド前のものにも触っておいたが、念のためこれにも触れておく。


『新しいアライバルオーブが登録されました』

「これでよし、と」


 そうして改めて街の外を見渡すと、ゲームでお馴染みのファンタジー世界が広がっていた。

 門から伸びる長い長い街道。

 馬鹿みたいに広大な草原。

 彼方に見えるのは鬱蒼とした森や山頂を白く染めた山脈。

 空が果てしなく広く感じるのは、ビルや電柱のような高い人工物がまったくないからだろうか。


 まあでも、とりあえずは目前の草原か。

 街の周りだけ手入れされているのか草の丈が低く、靴が隠れるかどうかくらいで見晴らしがいい。そんな始まりの草原では、オレの先輩であろうプレイヤーたちが武器を振るっていた。


「てやっ!」

「とおっ!」

「『スラッシュ』!」


 先輩方が相手にしているのは角の生えたウサギだった。

 それがすごい形相でプレイヤーたちに襲いかかり、噛みついたり角を突き刺したりしてきている。それをプレイヤー側は盾で受けたり剣で弾いたりして、一進一退の攻防が繰り広げられていた。実に楽しそうだ。


「それじゃあ、オレも仲間に入れてもらうか」


 刀を抜き、草原に足を踏みれる。

 すぐに背を向けているウサギを一匹発見した。静かに近づいていくと頭上にモンスターネームと体力バーが表示される。名前は『ツノウサギ』か。

 見たまんまだな。


 そのままさらに近づくと感知範囲に入ったのかウサギが振り返った。

 こちらに気づいて牙を剥く。

 ……牙?

 草食動物になぜ牙があるのか。いやもしかするとウサギと呼ばれているだけで肉食なのか。さっき見かけた噛みつき攻撃はもしかして食べようとしているのか。

 そんな風に頭の中ではぐるぐるととりとめのない考えが浮かぶ。

 一方で体は冷静に刀を構えた。



 ――ツノウサギが飛びかかってくる。



 こいつ死ぬほど目つき悪いな。やっぱり肉食動物なのかな――そんな風にどうでもいいことを考えながらも、体は神妙に動いた。

 全身の駆動域を連動して刀を振るい、ツノウサギの首を薙ぐ。

 巻藁を斬ったときとよく似た手応えがあり、ツノウサギの体力ゲージが一気にゼロになった。


「――ふむ」


 刀は確かに薙いでツノウサギの首を通過したが、首が胴体から離れることはなく、まるで透過したみたいに傷のないツノウサギの肉体が地面に落ちる。

 そして数秒の後、グラフィックが解けて角だけがその場に残る。

 けれどもドロップアイテムの角よりも、思い通りに体が動いた感動の方が、オレにとっては遥かに大きかった。


 感触を確かめるべく数度刀を振る。

 ――いい。すごくいい。まったく現実と遜色ない。握りの力のかけ方も、脱力による力の伝達も、丹田を利用した重心制御も、全部がちゃんと刀に乗る。

 ぞくぞくとした感覚が背中を走る。


「――神ゲーだ」


 側面から襲ってきたツノウサギの攻撃を避け、返す刀で斬撃一閃。草の中に転がる二本目の角。同時にピロリンという音がしてレベルアップを告知する。


『レベルが2に上がりました。SAポイントを1獲得しました』


 やはり最初は上がりやすいのだろうか。たった2回の戦闘でレベルが上がってしまった。

 そうだ。ステータスを見て思い出した。まだアレを試していない。


 周囲を見回す。

 いた。三匹目。いや、ウサギは羽と数えるんだったか。じゃあ三羽目だ。

 近づくとアクティブになり、襲いかかってくるツノウサギ。

 それに対しオレは可能な限り脱力し――


「『スラッシュ』」


 念じた結果、まったく力を入れていない腕が動いた。

 AIアシストにより体が定められたモーションを実行する。柄を握る左手に自然と力が入り、体のひねりとあわせて高速の横薙ぎを放つ。

 『スラッシュ』は見事にツノウサギの胴体に命中した。刀はそのまま胴体を通り抜け、ツノウサギの体力バーが一気に減って――


「――おっと」


 ギリギリで即死しなかったツノウサギの突進を、頭を後方に逸らすことで避ける。そしてツノウサギが着地した瞬間に、地面に縫いつけるように突きを繰り出してトドメを刺した。

 残念ながら今度は何もドロップしていない。


「……こりゃ色々と検証が必要だな」


 口から出たのは面倒くさそうな言葉。

 でもその実、オレの内心は喜びと期待ばかりであふれているのだった。



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