37:予想外の報酬
「やあやあ、お疲れハスキーくん」
納刀して残心するオレのもとに、ウィスタリアさんの声が届く。
振り返れば彼女が岩の段差を登ってくるところだった。そのまま近くまで来るとオレの足元に転がるドロップアイテムを覗き込む。
「ほほう、一匹でアダマント三つとは破格だねえ」
「アダマント……」
「聞き慣れないかな? 創作だと語尾を変化させてアダマンタイトとかアダマンチウムとか言われるやつだよ」
「ああ、めっちゃ硬いヤツですね」
「そうそう。名前の意味もそのまま『硬い』だからね。このゲームにおける最高の装備素材の一つだ」
そう言って彼女は鈍く光る三つの鉱石をアイテムストレージに収納する。
「しかし三つだと山分けできませんね」
「なに言ってるんだい。全部ハスキーくんのものだよ、これは」
「え、オレがトドメを刺したからですか?」
「違う違う」
彼女は手を振って否定する。
「ハスキーくんが言い出さなかったら、そもそもここには来なかっただろう?」
「それは――まあ」
「だからキミのものってこと。ま、もともと魔法使いは金属防具を装備できないんだけどね。だからもらっても使い道がないんだよ」
「そうなんですか?」
「金属装備をつけると魔法が使えなくなるって仕様でね」
困っちゃうよねえ、とウィスタリアさんは嘆息した。
「とは言え、魔法使いがガチガチに金属鎧着込んでたら格好つかないからね。しょうがないのかもしれない」
「現状のビキニスタイルも十分魔法使いっぽくないような……」
「いや、これはこれで格好いいだろう? どう?」
彼女はそう言って杖を立ててポーズを決める。
格好いいかどうかはさておき、目の保養ではある。
「さて、じゃあギルドに報告しに行こうか」
「あ、待ってください」
「ん? 何かやり残しがあったかな」
「はい。せっかくなんで――」
というわけで。
オレたちは再び被害を受けていた集落に立ち寄った。
そして村長宅に行き、ことの成り行きを報告した。グリーンノアとその取り巻きのグリュプスを無事倒したことを。
「ありがとうございます! 本当になんとお礼を言ってよいやら――」
「いいんだよ。これも仕事だからね」
しきりに頭を下げて感謝の意を告げる村長。
その後ろにはやっぱり子供が隠れていて、その視線はウィスタリアさんではなくこっちに向いている。
「よ。ちゃんと退治してきたぞ」
かがんで目線を合わせそう告げる。
子供は「うん」とうなずいて手を突き出した。
「なんだ、またくれるのか?」
「うん」
「ありがとな」
手のひらを差し出すと、そこに何かが乗せられる。
けれども予想に反して今度は飴玉ではなく――
「――羽根?」
金属質で光を反射するそれは、先程の戦いで見慣れたものだ。
そう意識するとアイテム名と説明が目前に浮かぶ。
【グリーンノアの羽根】
レアリティ:A 種別:素材アイテム
ネームドモンスター『グリーンノア』が武器として放つ羽根の一本。
武器防具作成の際素材に使えば完成品の重量を少し軽くする。
「これは――」
思わず声が出る。
想定より百倍はすごそうなものをもらってしまった。
「いいのか、こんなのもらって」
子供はうなずく。
そして消え入りそうに小さな声で「ありがとう、おにいちゃん」と言い、奥の部屋に逃げ去ってしまった。
いや、ありがとうはこちらのセリフなのだが。
過分なものをもらってしまったのではと思い、困惑しながら村長の方を見ると、なんだか微笑ましげな視線を向けられていた。
「我が子がお礼をしたのですから、私もそれ以上の礼を尽くさねばなりませんな」
そう言って彼が取り出したのは指輪だった。
三本の線が三つ編みのように織り込まれた指輪に赤い宝石がついている。
「これは我が集落に伝わっていたアイテムです。ぜひお役立てください」
「謹んで頂戴しよう」
ウィスタリアさんが指輪を受け取る。
そして受け取った瞬間驚きの表情を浮かべた。
「へえ――これはすごいね。本当にもらっていいのかい?」
「村で死蔵しておくよりはお二人の役に立つ方が我らの父祖も喜ぶでしょう」
「そっか。なら、ありがたく使わせてもらうよ」
ウィスタリアさんが指輪をしまって礼を言い、村長が再び頭を下げる。
そうして惜しまれつつも集落を後にし、アライバルでジュピトリスまで飛んだ。
――急に足元が石畳になり、周りの建物の建築様式が一変し、喧騒が耳を刺す。
いきなり時代が進んだみたいに感じるが、実際には時間移動ではなく距離移動だ。
ウィスタリアさんは近くに設置されたベンチに腰を下ろして、オレにその隣を促す。オレが座ると彼女は「くっふふ」と笑った。
「ハスキーくんのお手柄だったね。こんなイベントまであるとは思わなかった」
「いや、オレも別にイベントがあると思ったわけでは……」
せっかくだから集落の人たちにもグリーンノアの撃破報告をして安心させてあげたいと思っただけなのだが。特にアメをくれた子に。
そうしたらなんか色々レアなものをもらってしまっただけなのだ。
「そういや、そっちは何をもらったんです?」
「これだよ」
指輪を渡される。
受け取ると例によってアイテム説明が表示された。
【不死鳥の玉環】
レアリティ:B 種別:アクセサリー 耐久力:50
装備中にHPがゼロになる攻撃を受けたときHP1で耐えるが、代わりにこの指輪が砕ける。
「へえ、いい効果ですね」
納得し、指輪をウィスタリアさんに返す。
いや、返そうとしたのだが、彼女は受け取らない。
「必要なときに装備して使ってくれたまえ」
「いやいや、ウィスタリアさんがつけるべきでしょう」
「何を言ってるんだい」
「何を言ってるんです」
譲り合いの衝突。
「剣しか能がないオレより、知識と判断力のあるウィスタリアさんの命が優先されるべきでしょう」
「私はサポーターだよ。仮に一人生き残ったってできることなんか高が知れてる。その点、君が生きていれば何か起こるかもしれないだろう?」
「……むう」
確かにタンクやサポーターだけが生き残ってもアタッカーがいなければ基本的にはジリ貧だ。全滅を遅らせることはできても全滅という結果そのものはまず変わらない。
一理ある。
「わかりました。とりあえずオレが預かります。でも、ウィスタリアさんが生き残った方がいい場合はそっちがつけてくださいね」
「そんな状況あるかなぁ」
「全然ありますよ」
例えば謎解き要素のあるダンジョン、あるいは事前知識がなければ対処できない初見殺しなど、オレの剣なんか役に立たない状況というのもある。
ただ、比率的にはこっちの方が少なそうなのも確かなのだ。ゲームの戦闘って八割がルーティンだからな。だからいったんオレが預かっておくことに同意した。
「ま、何にしてもさ、レベルも上がりレアドロもして、予想外の報酬までもらって、実りある寄り道だったよね」
「ですね」
やはりゲームは寄り道が楽しい。
効率よく最短を遊ぶよりもオレの性に合っている。
……でも、ウィスタリアさんの最終目標はエリアボス『ア・バオア・クー』の最速攻略だったよな。
ちょっと不思議だ。彼女は効率厨には見えないし、最前線にこだわる人間特有の匂いもしないのだ。
けど、それなら――
――彼女は、いったいなぜ最速攻略を目指しているのだろうか。




