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03:キャラメイク?




 目を開くと、真っ白な空間にいた。

 なにもない。自分が何に足をついて立っているかもわからない。そこにあるのはオレ自身と、


『キャラクターネームを入力してください』


 という、眼前に浮かぶウィンドウだけだった。


「――ふむ」


 まあ、いつも使っている名前でいいだろう。

 ハスキー、と思考で入力する。

 ピコンと音がなって、ウィンドウが切り替わる。

 続いて表示されたのはアバターの姿とステータス。なるほどここからキャラメイクが始まるんだな。ステータスの項目自体はよくあるものばかりで、特に真新しいところはないが――


「んん?」



 ――――――

  STR:17

  VIT:18

  DEX:45

  AGI:28

 ――――――



 ステータスがすでに割り振られている……?

 自分で振れる余剰ポイントもなさそうだし、他のパターンへ変更もできない。普通、こういうゲームはプレイヤーに振り分けの権利があるか、さもなければ数種類のテンプレートから選ぶことができるものだ。だがそれがない。


 いや、もしかしたらレベルが上がってから振れるシステムなのかもしれない。

 そう自分を納得させて、今度はアバターをいじろうとしたのだが――


「嘘だろ……?」


 いじれるのは髪の毛と眉毛のみ。あとは申し訳程度に『化粧』なんて項目があるだけだ。いくらなんでもバグとしか思えないので、ウィンドウの上部に表示されていたヘルプボタンを押す。

 すると、ぽん、と可愛い音がして二頭身のデフォルメキャラが虚空から現れた。

 緑色の髪を背中で束ねた小さな女の子だ。


『サポートAIのキアシスです。何かお困りごとですか?』

「お困りごとです」

『それはすみません。いったい何がありましたか?』

「いや、実は、ステ振りもアバター造形もできなくて」

『ははあ、なるほど。その件ですか』


 うんうんと納得した様子を見せるキアシス。

 さてはよくあるバグなんだな。それで何度も言われ慣れているって反応だ。まあ何にしてもあっさり解決しそうでよかった――


『それは仕様です』


 ――っておい。

 待て待て待て。


「し、仕様……?」

『はい。アナザーワールドアライバルはあなた自身が異世界に行く体験を提供するゲームです。だからステータスもアバターもNORNでスキャンしたあなたの身体データを元に作っていて、変更はできません』

「い、いや、でもそれじゃあ、プライバシーとかがさ――」


 リアルの顔のままゲームをやるのはどうなんだ。知り合いと会ったら気まずくないか。ネットリテラシーとかそういうアレでもよくないのではないか。


『そういう方のための設定もありますよ。アバター画面の左下にあるプライバシーというボックスにチェックを入れてみてください』

「これか?」


 チェックボックスをタッチすると、ウィンドウ内のアバターが仮面をつけた。

 同時に選択可能項目に『仮面』が増える。試しに触ってみると、『仮面』『覆面』『ベール』『布マスク』『眼帯』など顔を隠すアイテムがずらーっと出てくる。


『ただしこちらを使う場合、顔に装備するアイテムが使えなくなりますので、あらかじめご了承くださいね』

「いやいや、それはちょっときつくないか? 実質縛りプレイじゃないか」

『ですよね。なので、わたし個人としては化粧をオススメします。うまく使うと全然別人みたいになれますよ』


 そう言われてもこちとら男子高校生だぞ。化粧のやり方なんてまったくわからない。


「……はあ」


 まあ、いいか。どうせゲームをやる知り合いなんてそう何人もいない。素顔のままだってそんなに困ることはないだろう。

 一応髪の色を灰色にして、全体的に少し伸ばす。

 名前のハスキーになぞらえて、犬耳めいた房も用意した。


『おお、なかなか格好いいですよ。惚れちゃいそうです』

「最近のAIはお世辞も言ってくれるのか……」


 嘆息しながら、アバターの設定を完了する。

 と、再びウィンドウ画面が切り替わった。


『初期装備を選択してください』


 これは迷わなかった。

 武器は日本刀。

 防具は道着と袴。


 決定すると、自分の服装が変化する。

 決定したアバターの姿が今ここに立っている自分の姿に反映されたのだろう。

自分ではよく見えないが、髪の毛も灰色になっているはずだ。

 腰に差された刀を抜いてみる。


 刃文は色気のない直刃で、反りは浅く、厚みがあってなんとも無骨な刀だ。切れ味よりも長持ちすることを意識した作り。これを打った刀匠の考えが伝わってくるようだ。

 そう思いながら眺めていると、武器データが表示される。


――――――――――――――――――――

 【日本刀・無銘】

 名もなき鍛冶師が鍛えた無銘の一振り。

 耐久力:∞

――――――――――――――――――――


「ふぅん――いいな。気に入った」


 再び鞘に収める。

 ハバキと鯉口が当たってチンと鳴る。


「なあ、これでもうゲームを始められるのか?」

『はい。このまま始めることも可能です。チュートリアルをスキップしますか?』


 ああ、そうか。

 本来はここからチュートリアルが始まるのか。

 どうしよう。今すぐフィールドに出てこの刀を振ってみたい気持ちはかなりある。あるが、ゲーマーとしてはチュートリアルをスキップするのも気が引ける。久しぶりにフルプライスのVRゲームを買ったんだ。味わいつくさなきゃもったいない。


 なら、折衷案と行こうか。


「最低限おさえておくべきことだけ教えてくれないか?」

『わかりました。ではまずはレベルの恩恵から。レベルが1上がるごとにステータスの補正値が上がり、スキルかアーツを一つ習得可能になります』

「やっぱりレベルが上がっても自分でステータスは振れないのか」


 どこかのステータスに極振りしたりはできないわけか。


『その代わりステータス全てが補正で底上げされますよ。なので、例えば同じSTRの人同士で腕相撲をした場合、レベルが高い方が勝ちます』

「ふぅん……で、スキルとアーツっていうのは?」

『スキルは常に発動するパッシブスキルです。【毒耐性】とか【剣術】とかですね。アーツは逆に任意で発動させるアクティブスキルです。【スラッシュ】とか【ファイアボール】とかですね。ステータス画面を開いてみてください』


 言われた通りステータス画面と念じると眼前にウィンドウが開く。


――――――――――――――――――――

 ハスキー Lv:1


 HP:90

 MP:10


 STR:17

 VIT:18

 DEX:45

 AGI:28


スキル:なし

アーツ:【スラッシュ】【アライバル】


武器:日本刀・無銘

防具:道着/袴

アイテム:アライバルウェッジ

――――――――――――――――――――


 ステータス欄には、いくつか覚えのない文字列がある。

 そう思ってキアシスを見ると、彼女はうなずく。


『【スラッシュ】と【アライバル】というのが入ってますよね。それが初期アーツです』


 ふぅん。

 【スラッシュ】はだいたい想像がつく。この手のゲームによくある、武器を横薙ぎする基本技だろう。とすると――


「【アライバル】っていうのはどういうアーツなんだ?」

『ご説明しますね』


 そう告げたキアシスの背後にマップらしきものが浮かぶ。

 そしてその各所に光点が明滅した。


『ゲーム世界の各所にはアライバルオーブというものが設置されています。【アライバル】は一度触った任意のアライバルオーブにワープする魔法です。また所持アイテムのアライバルウェッジを設置して使い切りのワープポイントを作ることもできます』

「なるほど」


 だいたいわかった。

 ソウルライク系のゲームによくある篝火的なシステムだな。

 察するに街の重要施設とか、ダンジョンの前とかにあるんじゃなかろうか。


『最低限おさえておくべきことはこのくらいでしょうか』

「ありがとう。助かった。あとはやって覚えるよ」

『了解しました。また何かあればヘルプボタンを押してください。すぐにわたしが参上しますので』

「ああ。そのときはよろしく」

『ぜひ気軽に呼んでくださいね。それでは、転送を開始します』

「頼む」



 オレの返答を受けて、キアシスが両手を合わせてむんむんとうなる。

 それに合わせて視界がにじみ、ぼやけ、色が変わって――






 ――気がついたときには、広い倉庫のような場所にいた。



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― 新着の感想 ―
ゲームの悪評を読んでいながら、どうして自分でステータスを設定できないことを知らなかったのだろう?悪評の大半はそういうものだろう?
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