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18/31

18:水着を買う






「なんか今すごい量のログが流れたな……」


 ボスを撃破した瞬間、レベルアップとかスキルの取得条件達成とか称号の獲得とか、一瞬で滝のようにログが出たせいでほとんど確認できなかった。


「いちおう確認しておくか」


 システムウィンドウを起動してログを見ようと思ったら、ピコンという音とともにメッセージが届いた。ウィスタリアさんからだ。


『おめでとう。キミならやれると信じてたよ』


 まだパーティは解除されてないから向こうにもメッセージが表示されたんだろうか。

 ひとまずメッセージを返す。


『おかげさまで。案外楽勝でしたよ』


 ということにしておく。

 減っていた体力ゲージはポーションを飲んで回復しておく。

 よし、これでバレない。


『言うねえ。さて、お願いがあるんだけど、いいかな?』

『なんですか?』

『そこを出てすぐの場所にアライバルオーブがあるから、それを開放してほしい』

『了解です』


 そう返事して、正面の大扉に向かう。

 入ってきた扉と同じように手で触れると自動で開いていく。

 キャッシュレスだったり自動ドアだったり、ファンタジーというのは思ったより便利な世界だ。よく高度に発達した科学は魔法と区別がつかないとか言うが、なるほど科学も魔法も利便性を追求すると同じ結果に至るのかもしれない。


「さて――」


 余計な思索はそのへんで打ち切って外に出る。

 アライバルオーブは確かに出てすぐのところにあった。そのまま手を置く。


『新しいアライバルオーブが登録されました』


 メッセージが浮かび、マップ上の光点が一個増える。

 んん? なんか点の数がやたら多くないか?

 そう思った瞬間、すぐ眼の前に人影が出現した。

 反射的に刀に伸ばしそうになった手を、途中で止める。見知った気配だったからだ。


「や。お疲れさま、ハスキーくん」

「驚かせないでくださいよ、ウィスタリアさん」

「ごめんごめん。パーティメンバーは開放したオーブを共有できるんだよね。おかげでショートカットさせてもらったよ」

「それはいいですけど……これからどうするんです?」

「ハスキーくんさえよければ、次の街のオーブ開放までやっておきたいな。時間は大丈夫かい?」

「それはまあ、はい」

「よかった。じゃあ早速行こうか」


 ウィスタリアさんは杖で前を指し示す。

 その先には小さな集落があった。多めに見積もっても二十くらいの建物しかなく、木の柵と土の外壁でかろうじて囲われている。


「……街というより村に見えるんですけど」

「あはは。あれは違うよ。目的の街ジュピトリスはもっとずっと先。砂漠を越えたところにあるんだ」

「砂漠……」


 言われてみると、集落の先辺りから急に植物の姿が減り、砂の大地が広がっている。


「ひとまずあそこで装備を買うよ。砂漠の横断には準備が必要だからね」

「はあ」


 砂漠横断の準備か。なんだろう。

 ラクダでも買うのだろうか。


「ちなみにラクダは買わないよ」

「…………」


 オレの考えることなんかお見通しらしかった。









「はぁいどぉもいらっしゃいませぇ」


 店に入ると、小麦色の肌をした店員の女性がすぐにやってきた。

 細目でニコニコして、どこか猫っぽい印象を受ける。この人もNPCなんだろうか。


「耐暑装備が欲しいんだけど、見せてくれるかな」

「それならこちらですねぇ」


 店の中の一角を案内される。

 そこに並んでいるのは――なんと、水着だった。


「あの、ウィスタリアさん」

「言いたいことはわかるよ。砂漠で肌を晒すのは本来厳禁だ。日差しで焼けただれちゃう。でもこれはゲームだからね」

「そう、なんですか……?」

「この先で重要なのは暑さ耐性の数値で、これは店売りの防具だと水着だけが持っているステータスなんだ」


 ウィスタリアさんは黄色いビキニの水着を手に取る。

 と、すぐさま装備が切り替わり、ローブ姿から水着に変身した。


「ふむ。いいね。これをもらうよ」

「まいどどうもぉ」


 ウィスタリアさんがギルドカードを取り出すと、カードが光って店員さんがうなずく。それで精算が終了したらしい。


「さあ、ハスキーくんも好きなのを選びたまえよ」


 水着姿でご満悦げなウィスタリアさんに促されて、オレも水着を選ぶ。

 最初に目についた黒い海パンを手に取ってみると、そのステータスが表示された。


――――――――――――――――――――


【サーフパンツ・黒】


 一般に流通している男性用水着。

 水に濡れても行動を阻害しない。

 ※水着装備は他の防具と合わせて装備できない。

 

 耐暑:30

 防御力:20

 耐久力:50


【試着】【購入】

――――――――――――――――――――


 試しに試着を選ぶと装備が切り替わって海パン一丁になった。


「うーん……」

「どうかした? 似合ってると思うけど」

「いや、当たり前なんですけど、初期装備よりは防御力あるんだなって……」


 しかし道着をきっちり着ているときより海パン一丁の方が防御力が高いというのは納得いかない部分もあり……。

 いや、ゲームではよくあることだけどさ。

 ビキニアーマーとかキリン装備とか、つまりはそういう感じなわけだよな。

 そんな風に自分を納得させて、オレも水着を購入する。今まで着ていた初期防具は装備ストレージに自動収納された。装備はアイテムとは別枠らしい。


「よし、装備も刷新したことだし、いよいよ砂漠に行くよ」

「え、消耗品とかはいいんですか? ポーションとか」

「その辺はリスポンした後暇だったら買っておいたよ」

「準備がいい……」


 そんな感じで店を出る。

 そして集落を抜けようとしたとき、視界の片隅に大きな生き物が映った。


 ラクダだった。

 人々が行き交っていてもまるで気にする様子もなく座り込んでいる。その近くには値段が書かれた木札が突き立ててあり、どうやらレンタルしたりもできるようだったが――


「ラクダは買わないよ。高いから」

「買わない理由それだったんですか……」

「本来ここに来るレベルならそれなりに稼げているはずなんだけどね。近道をした我々は運営が想定しているよりだいぶ貧乏なんだ」


 なんとも世知辛い話だった。


「それに馬やラクダは体力が設定されていて戦闘に巻き込むと普通に死んじゃうからね。私はベータ版のときに馬ロスになって二度と買うまいと決めたんだよ」

「……あの、もしやそっちが本音なのでは」


 オレがそう尋ねると、ウィスタリアさんは静かに視線を逸らした。



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