01:ゲームに誘われて
「一緒に『AWA』をやらないか」
ことの始まりは、下校途中に友人が口にした一言だった。
「えーだぶりゅえー?」
「『アナザーワールドアライバル』。最近出たばかりのフルダイブVRゲームだよ、ハッス」
「フルダイブかぁ……」
気のない返事をしたのは、オレがフルダイブVRゲームにいい思い出を持ってなかったせいだ。
ゲーム内のアバターを自分の体のように動かせる――という触れ込みに反して、現在流通しているフルダイブVRゲームは技術がまったく追いついていない。あらかじめパターン化した動きしかできなかったり考えてから動くまでにタイムラグがあったり、とにかくストレスフルなのだ。
それならいっそ、ヘッドゴーグルをつけてコントローラーで遊ぶ元祖VRゲームを遊ぶ方が何倍もいい。
「正直気乗りしないな。フルダイブゲームがちゃんとしたゲームになるのは、たぶん十年は先だと思うし」
「いやそれが、『AWA』は違うらしいぜ」
「ふぅん――?」
横を向けば、見慣れた友人の楽しげな顔がある。
「何が違うのさ、ヒバ」
「何もかもだよ、ハッス」
我が友人、小鍛冶火花は芝居がかったような口調と動作で語った。
「現実と見間違うほどの解像度、まったく新しい物理エンジン、嗅覚や味覚の実装――まるで本当に自分がゲームの世界に入ってしまったんじゃないかと錯覚するほどの出来らしい。毒舌で有名なVRゲーマーのナナセですら90点をつけてる」
「あのナナセが?」
そりゃすごい。
今までフルダイブでナナセがつけた最高得点は、確か15点だったはずだ。
「逆にその10点はどこで引かれたんだ?」
「ゲームシステムが不公平でダメって話だけど、こればっかりは遊んでみないとわからないだろ?」
「まあ、そうだな」
ううむ。
そこまで言われるとさすがに興味が湧いてくる。
「じゃあ今日の夜からやるか?」
「そうしたいところなんだが、今週末はうちのNORNが使えなくてな。すまんがハッス、先にプレイして感想を聞かせてくれ」
「――おい。最初からオレを人柱にする気だっただろ」
「まあまあ。クソゲーだったときには半分出すからさ」
そう。
オレたちは時々そういう買い方をする。
まず片方が買って、失敗したときは買わなかった方が金額の半分を補填するのだ。
ただし、ヒバはハズレっぽいゲームのときこそ率先して自分が買うという損な性格をしているので、AWAとやらに期待しているのは本当なのだろう。
「わかった。じゃあ一足お先に遊ばせてもらおう」
「一緒に遊べるよう、神ゲーであることを祈ってるぜ」
「ああ」
そこでちょうど家路の方向が分かれる。
ヒバが軽く手をあげ、オレは軽くうなずき、オレたちはいつも通りに別れる。
いつもより少しだけ軽い足取りで、いつもより少しだけ早足に。