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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

「二人の女子高生が、冬に廃病院に行き、肝試しを行う話」という怪談を話す男の物語

 ――それを見た女は大笑い。

 いくら自分に首ったけだからって、まさか本当に男が素っ裸で犬の真似をするとは思っていなくて――


 ――って、え? 『つまんない』って?


 そうか……ううむ……


 よし! 次は、怪談にしよう!

 大切な一人娘のためだ。

 今度こそ、満足のいく話をしてやる!


 コホン。

 では、行くぞ?


 これは、とある二人の女子高生の話だ。

 きっかけは、A子の一声だったそうだ。


「B美、肝試しに行くわよ!」

「……え?」


 冬休みに入った直後――初日の事だった。

 高校生活にも大分慣れて来て、部活にも入っていないB美は、冬休みの宿題を出来るだけ早く終わらせて、年末年始は、最近買ったもののまだ読めていない数冊の本を読んで、ゆっくりと過ごしたいと考えていた。


 いつもより少しだけ遅く起きたB美は、朝食を食べた後、自室にて、「よ~し! 頑張るぞ~!」と、大好きなジュースと菓子を机上に置いて、早速英語の課題に取り掛かろうとした所で、電話が掛かって来たのだ。


「A子ちゃん、今……冬だよ?」

「分かってるわよそんな事! あんた喧嘩売ってんの!?」


 「うう……」と、B美が声にならない声を上げる。

 B美は、A子の事が苦手だった。

 

 幼馴染の二人だが、性格は正反対だ。

 気が強くて強引なA子に対して、大人しい性格のB美。


 常に思い付きで行動するA子は、その度にB美を巻き込み、振り回している。


 幼馴染且ついつも一緒にいるので、周囲から、名前の一文字目を繋げて〝ABズ〟と呼ばれているが、B美からすると、複雑な心境だった。


 好きで一緒にいる訳ではなく、単なる腐れ縁。

 他に友達がいないから、仕方なく、という側面が強い。

 が、では、もしA子が自分に全く構わなくなったら……それはそれで寂しいと思う程度には、その存在を大切に思っていた。


 また、A子はA子で、他に友達がいるかというと、そうでもなく、高校進学時も、真面目だが学力の低いB美に合わせて、志望校のランクを下げた事から、もしかしたら、一見気が強そうなA子の方が、B美に対する依存度が大きいのかもしれない――が、本人もB美も気付いていない。


「冬の方が、他の人たちと被るのを避けられるでしょ!」

「あ、そういう事かぁ」


 どうやら、A子は、他のグループと鉢合わせするのを回避したくて、わざわざ冬に肝試しを行おうとしているらしい。


「そうと決まったら、今夜八時にあたしんちの前に集合。じゃあね」

「あ、ちょっと待――」


 B美が返事をする間も無く、電話は切れた。


「もう!」


 腹癒せとばかりに、B美は、動物の形をしたビスケット菓子の袋に乱暴に手を突っ込んで、適当に掴んだ象を取り出して口に放り込んで咀嚼する。


 こちらの都合はお構いなしのA子。

 いつもながら、どこまでも強引だった。


※―※―※


 その夜。


「ここよ!」

「うわぁ……」


 コートを着用した二人が自転車でやって来たのは、郊外にある廃病院だった。

 二階建てで、建物全体が蔦で覆われており、ほとんどの窓硝子が割れている。

 当たり前だが、灯りは一切ついておらず、深い闇に包まれ、全く人気ひとけが無い。


「ほ、本当に入るの?」

「当たり前でしょ! 何のためにここまで来たのよ!」

「うう……やっぱりそうなるよね……」

「安心しなさい! あたしには()()()()があるんだから!」

「それはそうだけど……」


 「ほら! 行くわよ!」と、スマホのライト機能で前方を照らしながら先導するA子に、「うう……」と、渋々B美が、同じくスマホのライトを恐る恐る周囲に向けながらついていく。


 肝試しをするには打って付けの場所だからだろう、今まで数多くの者たちによって何度も開閉されて、終いには開けたままコンクリートブロックで固定された入口の扉は、既に扉としての体を成していない。


「……ねぇ、どこまで行くの?」

「良いから黙ってついて来なさい!」


 砂や土――或いは、ガラスか何かの破片だろうか。

 普通の病院ではあり得ない、ジャリジャリとした感触を足の下に感じながら、二人は進んで行く。


(暗いよぉ……寒いよぉ……怖いよぉ……)


 口に出すと怒られそうなので、心の中で弱音を吐くB美。


 A子は「初めて来た」と言っていたのだが、その割には、進むべき方向に全く迷いが無い。

 インターネットで間取り、またはこの建物に対する肝試し体験談でも調べたのかもしれない。


 階段を上って左手に曲がり、最奥まで行き、突き当たった。


「着いたわ」


 扉を一つ開いて中に入ると、そこは――


「手術室よ」

「!」


 ――小さな部屋だった。


 部屋の中央には手術台があり、その頭上には、特殊な照明があった。

 A子によると、それは〝無影灯〟と呼ばれるもので、手術する際に手によって影が生じないようにする機能があるらしい。


「ここがゴールなの?」

「そうよ」

「じゃあ、帰ろっか?」

「バカね! すぐに帰ったら、肝試しにならないでしょ!」

「うう……もう十分だよぉ」


 一番近付きたくない〝手術台〟にスタスタと歩み寄り、その傍らに平然と立ちスマホを操作するA子を見て、数秒躊躇ったものの、〝A子の傍にいるメリット〟がデメリットを上回り、B美がおずおずとA子の近くへと歩を進める。


(何でかな?)

(この建物の中、ただでさえ寒いのに、この部屋は更に寒い気がする……)

 

 窓は、建物内の廊下で見た他のものに比べるとかなり小さいものが北側に一つある(小さくて、蔦で覆われている事もあり、月明かりはほとんど入って来ない)だけで、他と違って割れていない。従って、風は入り込まないはずだ。

 にも拘らず、どこからか出現した冷気が、じわじわと足許から首筋まで這い上がって来て、身体全体を凍らせようとして来るかのようだ。


「……ねぇ。この手術室、()()()()と思わない?」

「え?」


 唐突に、A子がB美に訊ねた。

 その目は、スマホの画面に向けたまま。


「ん~。別にどこもおかしいとは……。あ、でも、私、手術室って、もっと大きいかと思ってた。案外ちっちゃいんだね」


 〝人の命を救うための現場〟であるからか、B美の頭の中では、〝何だか広くてすごい場所〟というイメージがあった。


 ふと、A子が顔を上げて、B美を見た。


()()()()()()()、この手術室」

「!?」


 A子が調べたところ、手術室というものは、絶対に大きくないといけないという訳ではないが、一般的には、最低でも二十一畳以上はあった方が良い、とされているらしい。

 

 ――が。


「その半分くらいしかないかもしれないわ」


 確かに、言われてみると、かなり小さい気がする。


「でも、それだけでおかしいって言えるのかな? 特に変な物も置いてないし、窓もある普通の部屋って感じがするけど」

()()()()()()()()()()()()

「え!?」


 話を聞くと、欧米ではそういう場合もあるようだが、日本では基本的に、窓は無いようだ。

 日光が入ると、それが身体に当たって影が出来てしまうから、というのが理由だ。

 付け加えるならば、菌が入らないようにという視点から考えても、窓は無い方が良いだろう。

 更に、手術中の部屋の温度や湿度も大切なので、高度な空調を行う点からも、無くした方が良いのは道理だ。


「あともう一つあるわ。この手術室がおかしい理由」

「まだあるの!?」

「ヒントは、入口の扉よ」

「扉……」


 B美の脳内で、何かが閃いた。


「分かった! ドラマで見たのと違って、扉が一個だけだった!」

「正解よ。普通は菌が入らないように、二重になっているものよ。それなのに、一つしかなかった。これで分かったでしょ? あんたみたいな素人でも分かる事を、医療のプロであるはずの、この病院のトップが知らなかったはずがない」


(素人て! A子ちゃんだって素人でしょ!)


「手術って、何でもかんでもやれば儲かるものではないみたいだけど、上手くやれば、病院の収益に大きく貢献するみたいなのよね。だから、手術室は作りたかった。でも、出来るだけお金はケチりたかった。この部屋からは、そんな意図が透けて見えるわ。まぁ、窓を作った意図は不明だけど。無い方がコストは下がるから。でも、かなり小さいから、それ程お金は掛からなかったんじゃないかしら」


 「別にお金を節約するくらい、良いんじゃない?」と、B美が何気無く反応するが――


()()()()()()()()()()?」

「!?」

 

 暗闇の中、スマホ画面の光に照らされたA子の顔が、青白く不気味に浮かび上がる。


「最初は、重症感染症に罹った、とある男性患者だったみたい。そのまま放置すると死んでしまうけど、片足を切断すれば大丈夫と医者に言われて、手術したみたいよ。でも――」

「死んじゃったの……?」

「そう。()()()()でね。その後、何度も医療事故が繰り返されて、患者がどんどん死んでいったらしいわ。そして、とうとう――この病院は潰れた、ってわけ」

「………………」


 そう言って、再びスマホに目を落としたA子だったが――


「あれ? 圏外になっちゃったわ」

「え?」


 慌ててB美が自身のスマホを見て――


「本当だ! 私のも……でも、何で……?」


 そう呟いた直後――


「「!」」

 

 ――二人のスマホのライトが、同時に消えた。

 と同時に、スマホの画面も消える。


「何で急に!? しかも、ライトだけじゃなくて、画面まで!? 何で!? つかない! どうしよう!? 何も見えないよぉ!」


 突如襲い来る暗闇に混乱するB美とは違い、A子は冷静だった。


「落ち着きなさい。あんたの事だから、どうせ懐中電灯持って来てるんでしょ?」

「あ!」


 その声に呼応して、ショルダーバッグを開けたB美は、「そうだった! ありがとう、A子ちゃん!」と言いながら、取り出した懐中電灯を点灯させようとするが――


「何で!? つかない! 家で確認した時は、ちゃんとついたのに!」


 スマホのライト。

 スマホの画面。

 そして、懐中電灯。


 その全てが、光を失った。


(これって、偶然? そんな事ある?)


 パニックになったB美が、泣きそうになりながらA子に抱き着き、震える声を上げる。


「イヤだよぉ! 暗いよぉ! 寒いよぉ! 怖いよぉ! お家に帰りたいよぉ!」


 ――と、その時。


「しっ! 静かに!」

「!?」


 B美の身体を引き剥がしながら、A子が小さな声で、しかし鋭く言い放つ。


「……どうしたの、A子ちゃん……?」


 異常事態を告げる声に、B美の声も緊張で強張る。


 耳に手を当てて集中していたA子は、ポツリと呟いた。


()()()()()

「きゃ――」


 思わず悲鳴を上げそうになったB美の首に――


「――ぁうっ」

「あたし、『静かに』って言ったわよね?」


 ――スッと、A子のスマホが当てられて、B美は声を殺し、動きを止める。


 まるで刃物のような扱いに――


(もう! ナイフじゃないんだから!)

(って、そりゃ、ナイフを当てられるよりかは、スマホの方が百倍マシだけどさ!)


 と、内心でB美が一人呟く。


「ごめんなさい」


 B美が謝ると、A子はスマホを離した。

 首元を擦りながら、B美がA子に目を向ける。


「えっと……同じように、季節外れの肝試ししてる人かな? それって、何人いるの?」

「……一人よ……。まだ一階の端にいるけど、少しずつ階段に近付いて行ってるわ」


 これが、先述のA子の〝能力〟だった。

 A子は、()()()()()()()のだ。


 相手の人数、年齢、性別、場合によっては職業まで、ある程度は足音だけで判別する事が出来る。


 〝大勢の男たちに襲われる〟という最悪のケースを想定していたB美は、「良かった! ……って、全然良くないけど、まだマシだよね!」とほんの少しだけ明るく言った。


 勿論、お化けは怖い。

 ――が、人間も十分に怖い存在だった。


 B美は、近付いて来る者が、自分たちにとって脅威となり得るかどうかを更に確認しようとする。


「男の人? 女の人?」

「……多分、男の人……だと思うけど、分からないわ」

「そうなの? A子ちゃんにしては、珍しいね! じゃあ、大人の人? それとも、子ども?」

「……それも分からない」

「え!? それも!? A子ちゃん、もしかして今日、調子悪い?」

「うるさいわね!」

「うう……」


 小さな声で、しかしヒステリックに言われて、B美が呻く。


 息を一つ吐いたA子は、言葉を継いだ。

 努めて冷静になろうとしている様子が窺えるが――

 

()()()()()()()()……から、子ども……と言いたい所だけど、多分、足は結構大きいから、大人……のような気もする……」


 ――そんなA子の声が――


「でも、そんな事よりも、もっと重要な事があるわ。この、近付いて来る足音からすると……」


 ――珍しく震えて――


「……()()()()()()()()()()……」

「え!?」


 ――そう告げた。


「にも拘らず、()()()()使()()()()()()()()()()()()()〟のよ」


 B美の背中を悪寒が走る。


「そ、そうだ! つ、杖は? か、片足を骨折したりして、杖をついてるんじゃない?」


 一縷の希望を託してB美がそう問い掛けるが、A子はかぶりを振った。


「杖はついていないわ。あと、壁や手すりに手をついて歩いている音でもない。完全に、片足のみで歩いてる」


 嫌な予感がして、B美の身体が小刻みに震え始める。


「じゃ、じゃあ、ぴょんぴょん跳びながら進んでるんじゃ?」

「いいえ。片足跳びもしていないわ。普通、片足だけで進もうとしたら、片足跳びになるはずなのに。それもせずに、でも、()()()()()()()()()()()()()

「そんなの、どうやって……?」


(人間に出来るの、そんな事……?)


「あと、この音からすると、裸足で、水か何か――()()()()()()()()()()()()()()のよ」

「濡れて……? でも、雨なんか降ってなかったよね……?」


 小さな窓に視線を向けるB美。

 暗くてよく見えないが、少なくとも雨音は聞こえない。


「単なる肝試しのつもりだったけど、〝本物〟に出くわしちゃったみたいね」

「な、何言ってるの、A子ちゃん? たまたま、私たち以外にも、冬に肝試しに来た人がいたってだけでしょ?」


 笑おうとするB美だったが、頬が強張って上手く笑えない。


「ただの人間なら、正面の玄関から入って来るでしょ? この足音の主は、一階の端――建物内にいきなり現れたのよ? 割れた窓から侵入したような音もしなかったし」

「!」

「そう。まるで、()()()()()()()()()()()()()()()、突然出現したのよ」

「………………」


 B美は否定したかったが、情報が増えれば増えるほど、それは不可能であるように思えた。


「もう、二階に上がって来てるわ。こっちに近付いて来てる」

「!」


 B美にも、漸くその足音が聞こえるようになって来た。


 ……ぴちゃり……

 ……ぴちゃり……

 ……ぴちゃり……

 ……ぴちゃり……


 確かに、何かで濡れているかのような足音だ。

 ゆっくりと、しかし確実に迫って来る悍ましい音に――

 ――恐怖で身の毛がよだつ。


「と、途中で立ち止まって、帰ってくれたりしないかなぁ?」


 喉がカラカラで、何とか掠れ声でそう呟くB美を、少し目が暗闇に慣れて来たのか、A子が見詰める。


「B美、覚悟を決めなさい。戦うのよ!」

「戦うって、そんな……お化け相手に、どうやって?」

「分からないわ。でも、そうするしかないでしょ! とにかく、スマホで殴るのよ!」

「うう……」


 戦闘。

 まさか、最も苦手なことを、人ならざる者相手にしなければならなくなるとは、B美は夢にも思っていなかった。


 そうこうするうちに――


 ……ぴちゃり……

 ……………………

 ……………………


 ――足音は、手術室の扉の前で止まり――


「「………………」」


 二人が息を潜めていると――


「………………?」


 ――誰も入って来ず――


「……もしかして、帰ってくれたのかな?」


 B美がそう呟いた――

 ――次の瞬間――


「がはっ!?」

「!?」


 ――A子の身体が、()()()()で、貫かれていた。

 本来あるべき上の部分――胴体が無い、それのみで存在している脚によって。


「きゃああああああああああああああああああああ!」


 ――悲鳴を上げるB美に、A子が――


「……B美……逃……げ……」


 ――大量に吐血し、苦悶の表情を浮かべつつも、そう声を絞り出すと――





 ――って、え? 何? 『この話もつまんない』って?


 いやいや! 今、滅茶苦茶良いところだから、最後まで話させ――

 ………………

 ……分かった。じゃあ、この話は止めよう。


 それにしても、お笑い系、感動系、悲劇系が駄目だと思ったら、まさか怖い系も響かないとはな。


 『面白い話をしたら、言う事を聞く』って言われたから、頑張って話していたのに。

 え? そんな事一言も言ってない?

 ………………

 ……これが〝反抗期〟ってやつか……


 レイコ、俺は悲しいよ。

 思えば、最近は反抗的な態度を取る事が多くなっていたよな、お前。


 昔はあんなに喜んでいた〝パチンコの景品菓子〟も、最近は全然反応しなくなったしな。


 よし!

 そろそろ、ちゃんと言っておくか!


 レイコ。

 誰のお陰でここまで大きくなれたか、忘れたのか?

 俺がしっかりと〝躾けて〟やったからだろ?


 そりゃ、多少厳しく接した事もあったさ。

 でも、したくてした訳じゃない。

 お前のために、心を鬼にしてやってきた事だ。


 可愛いお前に対して厳しくする事が、あまりにも辛くて、それを紛らわせるために、ちょっと酒を多めに飲む事もあったが、俺も人間だ。仕方の無い事だったんだ。


 お前が小学生だった頃から、ずっと、俺はお前のために〝躾けて〟来た。

 確かに、ちょっと殴ったり蹴ったりする事もあった。


 でも、それも全て、お前のためだったんだ!

 そのお陰で、お前はこうやって、立派な高校生になれたじゃないか!


 え? 彼氏に対してした事、絶対に許さないって?

 あれだって、お前の事を思ってやった事だ。分かるだろ?


 いつか、そういう日が来ることは分かっていた。

 だから、俺は、いつお前が男を作っても良いように、中学入学と同時に、ベッドの上でのテクニックを仕込んでやったんだ。


 でも、お前の彼氏は、その事を知らなかっただろ?

 だから、ちゃんと、「うちの娘はベッドの上での〝トレーニング〟を、ちゃんとしてあるから大丈夫だぞ」と伝えるために、お前の彼氏がうちに来た時に、目の前で、どうやって〝トレーニング〟をしているかを、見せてやったんだ。


 あの程度で別れるなんて、大した男じゃなかったんだ。諦めろ。


 これで分かっただろ? 今まで俺がして来た事は、全てお前のためだったんだって。


 だから、そろそろここから出してくれよ。

 ここ、狭いし寒いんだよ。

 暗くて、見え辛いし。


 餃子やコロッケと一緒に閉じ込められている身にもなってくれよ。


 え? 絶対に駄目だって?

 何でだよ?

 

 じゃあ、せめて、俺の腕を返してくれよ。

 腕が無きゃ、酒も飲めないだろ?


 って、そういや、腕どころか、首から下が丸々無かったんだった。

 俺の身体、どこにやったんだよ?


 ああもう、分かった分かった!

 じゃあ、こうしよう!


 今まで朝昼晩飲んでいた〝酒〟は、今後は昼と夜しか飲まない!

 毎日行ってた〝パチンコ〟も、三日に一回しかやらない!

 お前の〝躾け〟と〝トレーニング〟も、週に一回しかやらない!


 これでどうだ? 満足だろ?


 って、おわっ!? 

 蹴るなよ、危ないだろ!

 こちとら身体が無いんだよ!

 ゴロゴロ転がって、頭ぶつけちゃうだろ!


 いてっ!

 ほら、ぶつけたじゃないか。


 ……って、え? 母さん?

 こんな所にいたのか。


 反抗期ってのは、悲しいもんだな、母さん。


 俺たちがあれだけ娘の事を思って行って来た〝躾け〟と〝トレーニング〟を、当の本人はちっとも感謝していない。その意義を分かって貰えない。


 でも良いさ。きっといつかは分かって貰える。

 そう、あの子が大人になった頃には、きっと。


 って、あれ?

 そうか、ここは……


 ……冷やす方……じゃなくて……凍らせる方……だったか……


 ……徐々に……意識が……持って……行かれる……


 ……レイコ……


 ……安心しろ……


 ……お前が……どんな事を……


 ……俺に……しようが……


 ……俺は……ずっと……


 ……お前の……事を……


 ……愛して……い……る……か……ら……な………………




―完―

※お餅ミトコンドリアです。


最後までお読み頂きまして本当にありがとうございました!


新しく、職業ものスローライフ系の作品の連載を始めました。


【異世界温泉旅館〝世界樹〟へようこそ~固有スキル【世界樹】でうっかり魔王城を破壊してしまった俺は、どのような傷や病気であろうと治す宿を世界樹内に作り、女魔王と共に経営しつつ、僻地でスローライフを楽しむ~】

https://ncode.syosetu.com/n7999kh/


ラブコメ・飯テロもありつつ、ほっこり・じんわり・またはコミカルな〝ヒューマンドラマ〟がメインの異世界温泉旅館経営スローライフです。


もし宜しければ、こちらの作品もお読み頂けましたら嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[良い点] スゴッ──なんとぉ、今回の新作はホラーだとはっ!!! ガンガン作風の幅をブッ広げてますね~ それも、モォ~実に何味も違うキョワさでっす………肝試しに行った手術室が現状となり果てた経緯やら…
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