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中編

「僕は前から知っていたんだ。クラリス嬢が兄様の呪いを全て肩代わりして受けているって。兄様が呪いを受けていた時、子供だったから仕方ないかもしれないけど、すごく泣きわめいていたのを覚えてる。だけどクラリス嬢はつらい様子を見せたら兄様が気にするからって、いつも我慢していたよね」



「パトリック様……」



「自分がそんなに大変な目にあっているのに、クラリス嬢はいつも僕にも優しかった。今も身代わりの魔導具なんてすぐに壊してしまえばいいのに壊さないのは……兄様の事を愛しているから?」



 記憶と違い、いつの間にか身長を抜かしているパトリック様が哀しそうな顔で見下ろしていた。



「愛して……。どうでしょう、確かに以前はお慕いしていましたが、ここ数年でかなり人柄が変わってしまわれたので……。身代わりの魔導具も、この苦痛があるのが当然になっていただけですし」



 エスコートされていない方の左腕を持ち上げると、この数年常につけていた呪いを受け取るブレスレットの鎖が小さく鳴った。



「じゃあ、婚約破棄するんだから、もう他人だよね? 呪いの身代わりをする必要も、立場でもない。でしょう?」



「そう……、ですね」



「それじゃあ」



 パトリック様は止める間もなくブレスレットを外して地面に落とし、思い切り踏みつける。

 ジャリッという音と共についていた魔石が割れて、魔導具としての機能を失った。



「あ……っ!?」



 ブレスレットを外して呪いから解放された私は、数年ぶりに楽に呼吸ができた。

 同時に常に張っていた気が緩んで足元がふらつく。



「おっと、気を付けて。クラリス嬢に頼られるのは嬉しいけどね」



 パトリック様が私を抱き留め、まるで愛しい人に向けるような甘い微笑みを浮かべた。



「そんな……、こんな不細工な私なんて……」



「それは呪いのせいでしょう? 本来のクラリス嬢はとても可愛らしい……いや、見た目は関係なくあなたは可愛らしい人だと思っています。僕がこんな事を言ったら生意気ですか? それとも不快?」



「い、いえ、嬉しい……です」



 パトリック様は私の見た目が変わって、セザール様が冷たくなった後もずっと優しかった。

 婚約破棄を宣言されたばかりだというのに、その弟であるパトリック様にときめくなんて、私ったらはしたない!

 そんな反省をしていると、私達がやってきた方、お茶会の会場から野太い悲鳴のような叫び声が聞こえてきた。



「あ、あの、もしかしてあの声は……」



「ふふ、クラリス嬢にはもう関係ない人だから気にしなくていいよ。それに馬車乗り場に到着したしね」



 私が戸惑っている間に、馬車乗り場の係の者に声をかけてボルジア伯爵家(うち)の馬車を呼んでくれた。



「ああそうそう、兄様の婚約破棄の書類が届いていると思うけど、もう一通の書類もちゃんと目を通してね。それじゃあ、またね(・・・)



 パトリック様は私を馬車に乗せると、笑顔で手を振って見送ってくれた。

 最後に言ったひと言の意味を私が理解したのは、家に帰ってからだった。

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