第六話 論破する藤宮君
「じゃあこうしよう!放課後に藤宮と田中でディベート対決!田中が勝てば藤宮は強制入部!藤宮が勝てば入部しなくていい!」
「それ俺に参加するメリットあります??」
メリットがリスクに見合ってないんだが。
すると、吉村先生はニヤリと口角を上げて耳打ちしてきた。
「藤宮......?君、私に借りがあるよね......?」
げっ......。
「仕事の手伝いやらなくていいから参加しなさい」
「......わかりました」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
”高校生がディベートしても意味なくね?”
去年末、ある同期の部員が退部するときに吐いていった言葉。
その一言は、当時三年生が既に引退し、それに伴い同期も一年生も辞めていく人が増えていき、孤独になっていた私の引き留める意欲を喪失させた。
何も言い返せなかった。
春休み明けに新入生を勧誘するために、私はディベートをするメリットをネットで調べ、暗記した。
でも――
誰も興味を示してくれなかった。
”そういう意識高いのはちょっと......”
”別に論破できても......”
私が一年生の時どうやって勧誘されたっけ。私は何が目的でこの部活に入ったんだっけ。
どれだけ考えても新入生が惹かれるようなディベートのメリットは思いつかなかった。
このままじゃ、廃部。
絶対藤宮君に勝って、今日の見学者にも入部したいと思わせるようなディベートをしないと......。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「なんでお前らまでついてきてんだよ」
「理のディベート見たいから部活さぼった!」
「私も藤宮君のディベート見たくて......!!」
守と天音に期待されても大したディベートができるわけじゃないんだがな。
大神は茶道部で来なかったらしい。
俺は田中先輩と向かい合うようにディベートの席に座る。
「両者、席に着いたな。ディベートの論題は何にする?田中」
論題を一方に決めさせるのは明らかに不公平だか、先生には逆らえない。
「私が決めていいんですか?では……」
田中先輩は少し考えた後、意を決したように立ち上がる。
「『高校生のディベートに意味はあるか』でお願いします。私は「意味はある」という立場でディベートします」
あくまで自分の畑で戦うってスタンスか。
それにしても……「意味はあるか」か。
おそらく「論理構成力が身につく」とかそこらへんで攻めてくるだろうな。
「では、ディベート始め!」
ぐだぐだやっても仕方ないし最初からフルスロットルでやるか。
「高校生でもディベートをする意味はあると思います」
「理由は何ですか?」
「将来役に立つ能力が育まれるからです」
「将来に役に立つ能力とは具体的には何ですか?」
「相手の主張を理解・分析する能力、相手の論証が十分な根拠を得ているか疑う能力、相手に伝わるように主張の構成や表現の選択を適切に行う能力。これらは社会に出て1番役に立つ能力です」
やはりそう来たか。まぁ妥当な主張だな。
だけど……
「そもそもディベートに興味を持つ人間はそれなりに論理構成力が高いですし、授業中のプレゼン等で表現力は培われます。相手の主張への理解力・傾倒力は日常会話で使いますし、個人の性格が大きく影響したりします。ディベートはあまり関係ないと思います」
「それは......!」
田中先輩が反論を組み立てる間も与えず、追い討ちをかける。
「僕がその証拠です。ディベート経験はなかったですが、去年三年生に全勝しました。田中先輩はその目で見ましたよね?」
自己陶酔のような主張だが、これも論拠の1つ。
続けて畳み掛ける。
「それに、その論点って自分へのメリットですよね。他へのメリットという観点で言えば、ディベートは社会的に価値のある結論を出すが目的で行われるはずです。ですが高校生という、専門知識のない素人が意見を交わしても大した結論・根拠も得られず、議論が平行線になるだけです」
田中先輩は言い返すことが出来ずに押し黙る。
反論はなさそうだが......
吉村先生の方を見るが、終了の合図をする素振りはない。
さて、どうするか。
......ん?
田中先輩の手が震えている。
いつもは負けそうでも果敢に反論する姿勢も
主張に乗る自身の熱い気持ちも
何も感じない。
”ディベートの意味”。
もしかして......。
―― 観客席 ――
天音は、初めて見る藤宮の一面に驚いていた。
「藤宮君、圧倒的ですね」
「そうだな。でも......」
守は沈黙する片方を一瞥する。
「それ以上に田中先輩が弱すぎる。俺でも、本気を出していない今の理に渡り合えるよ」
「そうですか......」
「このままじゃ面白くないよね」
「そんなことは......」
「大丈夫、安心して。理ならやってくれるさ」
【予告】第七話 大切なこと