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第4話 ヒマワリの種

 さて夏休みの休暇が終わってしまった。

 家の庭にはレッドハーブの他にヒマワリを育てていた。

 レッドハーブはもう収穫が終わって今はコスモスになっている。


「ヒマワリもだいぶ種になってきました」

「そうね、エルダ。この種も絞るんでしたよね」

「はいっ」


 うん。ヒマワリ油を採ろうとしていたのだ。

 これは香油ではないけれど、せっかくヒマワリを植えていたのでやってみることになった。


 夏の終わりごろ。

 重そうな頭を垂らしたヒマワリを回収する。

 そして一粒ずつ種を採って集めていく。


 そしてネジの装置がついている圧力容器を用意してもらった。

 これも領都にいるドワーフの鍛冶師が作ったものらしい。

 けっこうお値段がするので、回収せねば。


「ギュッて絞って」

「はいエルダ様」

「リーチェ、よろしく」

「頑張りますよ」


 リーチェが力こぶを作ってアピールをしていた。

 まだお嫁に行く気配がない。

 なんでももうしばらくお世話になる予定らしい。

 十八歳で辞める子も多いが二十三くらいまで残る人もいるそうで。


「おぉぉ、出てきた、オイルだ」

「これもオイルですか」

「そうだよ。でもこれは食用かな」

「食用オイルですか?」

「うん」


 油という概念はあるが、食用油という考えがどこまであるかは謎だ。

 普段は牛脂などを適当に使っている。

 あとラード。豚の油もよく見る。


「いっぱい採れました」

「はい、思ったよりたくさんできましたね」


 私もリーチェもニッコニコである。

 カメルは匂いがしないということで暇だったらしくお昼寝をしている。


「ではお芋、ジャガイモですね」

「はい、ご用意してありますよ」

「やった」


 さて私が調理場に行くと危ないので、見ているだけだ。

 ジャガイモを薄く切って細長くする。

 それを先ほどのヒマワリ油を火にかけたものに投入していく。


 ジュワアア。


 空気の泡がいっぱい出る。

 こうして油で揚げるポテト。


 ――フライドポテト。


「最後に塩を振ってくださいな」

「はいはい」


 リーチェにお願いをして、仕上げてもらった。


「いただきます」


 ちょうど、午後の夕方、おやつの時間を過ぎたくらいだった。

 今日はまだおやつを食べていない。

 ちなみに食べない日もある。


「美味しい」

「カメルも!」

「どうぞ」

「いただきまちゅ。――おいち!」


 グッドとどこで覚えてきたのか親指を突き立てる。

 まったくどこの親父だ。教えたの。


 うちに出入りしている業者というと限られるが。

 バレル商会の商会長かな、こういうこと好きそうだし。

 あのおじさん、無駄に明るいというか、なんというか。

 茶目っ気があるといえば聞こえはいいけれど、お茶らけているともいう。


「あら、おやつ?」

「はい奥様」

「私もいただこうかしら」


 お母様がどこからかやってきて、フライドポテトをつまんだ。


「あら、美味しい」

「ですねえ」

「この料理ははじめてだけど、これは?」

「あの、エルダ様が」

「またエルダが何かしたのね」

「まぁそうですね」

「いいわ。今度お茶会に出しましょう」


 ということで怒られるかと一瞬思ったけど大丈夫だった。


 それから一週間。

 うちで親しい貴族とのお茶会になった。


「なんですの?」

「フライドポテト?」

「温めた油にポテトを入れて作る料理ですって」

「変わっていますわね」


 みんな興味津々だった。


「あら、美味しい」

「芳ばしくて、サクサクしてて、中はホクホクね」

「ちょうどいい塩加減が絶妙で」

「ちょっとしょっぱいくらいが美味しいの」


 かなり好評をいただいた。


 それ以来、マリアランド領でのお茶会ではフライドポテトは欠かせないものとなった。

 布巾も用意されるが、手で摘まんで食べるというのも、オツなものだ。

 そういう意味で手軽であるとされ、重宝されたのだ。


 そのうち町の食堂などでも出されるようになり、マリアランド辺境伯領の名物料理のひとつにのし上がっていた。

 その出どころがエルダが発案したものだというのは忘れられていたらしい。


 まあ料理の広まりなんてそんなものだし、別に特許とかいうものでもない。

 いいんだ。美味しい料理が食べられれば。



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