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第1話 異世界転生

 普通も普通。なんの取り柄もない男子高校生だった僕。

 個性といったら、ちょっと野生の草花が好きなくらいかな。

 女子とは話もできず、彼女はおろか異性の幼馴染もいない。

 そんなある日、トラックにひかれて死んでしまう。


   ◇


「う、ここは?」

「天国だよ」


 薄い衣をまとった美少女が白い空間にいた。


「僕は死んじゃったんですね」

「そうだね! 生前は普通の子か。転生させてあげられるけど、何かスキルとか要望は?」

「あ、あの……」


 僕はもじもじとして、頬を赤くする。


「できればその、女の子になりたいです」


 草花が好きとか言っていたら、女の子みたいなどと言われていた。

 僕は女の子じゃないと反発したこともある。

 でも、それならいっそ女の子になりたい。

 草花を愛でるくらい自由でありたい。


「なに、そんなことでいいの?」

「はいっ」

「そっか、じゃあそれで。オマケで魔力最大にしておくね」

「ありがとうございます」

「ある程度、困らないところに転生させてあげるわ」

「それはもう、助かります」

「いいって、じゃあ、行ってらっしゃい」


 こうして僕は消えていき意識は途切れる。


  ◇


 それから五年余り経過したのだろうか。

 死んだ瞬間に転生するのか、時間経過や時間軸が同じとは限らないけれど。

 物心ついた「私」は、異世界に無事転生していた。

 前世の男子だった記憶も鮮明にあるものの、今の自分は女の子だという自覚がちゃんとあった。

 トイレだって座ってするのにも違和感はない。


 金髪碧眼の美少女だった。

 特に要望とかしなかったけど容姿、財産、家柄すべて恵まれていた。

 地方貴族というもので領地はないけれど、辺境伯様の下でお父様は文官をしていた。

 オーランド王国マリアランド辺境伯領の領都マリアランド。

 そこの領事館のすぐ目の前に家はあった。


「エルダ、今日もお庭観察?」

「はい、お母様」


 私はエルダ・バーグマン。

 お母様はシエル・バーグマン。


「エル姉様、エル姉様、見て見て」

「あら、カメルどうしたの」

「ちょうちょ、ちょうちょ!」

「本当、モンシロチョウだね」


 二歳になる妹、カメル・バーグマン。

 彼女も金髪碧眼で私をミニチュアにしたみたいな容姿だ。

 とてもかわいらしい。

 庭のホワイト・ハーブの上に白い小さなちょうちょが二匹ひらひらと舞っていた。

 今は春でお花が咲き誇っている。


「エルダがハーブを植えたいってせがんだのも、よかったわね」

「はいっ。もう少ししたら、オイルを取りましょうね、お母様」

「そうねえ」


 花の後はオイル採取だ。

 これも私が言い出したことで、薬効のあるハーブオイルはとても価値があった。

 蒸留器という機械が必要なのだけど、そんなものを持っている農家はほとんどないため、流通量が限られているのだ。

 なければ作る。

 スローライフの鉄則である。


 実は家の庭は広大というわけではなく、普通の家一軒分くらい。

 領都は塀に囲まれていて狭い。

 これでも家二軒分の面積があるうちの敷地はかなり広い方なのだ。

 元々は副騎士団長の屋敷だったとかで庭は何もない芝生のみだった。


 それを幼い私がこう言ったそうだ。


『お庭、お庭、ハーブ、ハーブ』

『なに、エルダはハーブを植えたいの?』

『ママ、植えたい!』


 とまあ幼い子供の言うことを真に受けて、今では立派なハーブ園になっている。

 隅には薬効があるとされる果樹が何種類も植えられている。


 私たち姉妹のほかに、お兄様がいる。

 ただし少しだけ年が離れていて、今丁度十歳の誕生日を迎えた後だった。


 お兄様は九歳から幼年学校に通っている。

 私たちも通う予定だ。


 九歳から十二までの三年間が幼年学校で、十二歳から十五歳までの三年間が高等学校となっている。

 いわゆる中学はない。

 貧しい家や職人の家系などは幼年学校のみに通う。

 裕福な商人と貴族や騎士団員などが高等学校へと進む。

 進学率は三十パーセントくらいだろうか。

 この六年間が私たちの学校教育だ。


 これとは別に王都アカデミーがあるけれど、こちらは実際の所、研究機関としての側面が大きい。

 アカデミーに入って二年間は授業中心だけど、研究も並行して行うそうだ。

 私はひそかに錬金術のうち薬師のアカデミーを狙っている。


「ホワイト・ハーブのオイルを採るわ」

「ええ、手伝いますね」


 メイドのリーチェが手伝ってくれた。

 リーチェは今、十八だったかな。もうそろそろ結婚してメイドは卒業だそうだ。

 メイドさんは幼年学校を卒業するとすぐ就職して十八には引退する。


 下の器具でぐつぐつ沸騰させてハーブエキスを煮る。

 上では蒸留して液体に戻った水は捨てて、沸点の違うオイルだけを集める。


「できた!」

「ママ、いい匂い、いい匂い」


 カメルがはしゃいでいる。

 うん、ハーブオイルはうまく分離出来て、とてもいい匂い。


「あら、すごいわ」

「エルダ様の言う通りでしたね」

「ええ、これはいいものね」


 お母様も絶賛のオイルが完成したのだった。

 こういうオイルも錬金術の材料となる。

 私のポーション作りはこれからだ。

 いっひひ、女の子になったんだから。

 草花を愛して、いっぱいお薬を作るんだもん。


新シリーズです。よろしくお願いします。

しばらく毎日投稿します。


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