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1手紙


引きこもりが死んで幽霊になっても、誰にも気付いてもらえない。


そんなこと、死ぬ前に考えもしなかった。

都心の四畳半アパート、一人暮らし。

彼女なし、友達なし、仕事なし。

高校卒業後、浪人生として上京した。一生懸命勉強したつもりが結果は惨敗。親に言い出すことができず、「大学に合格した」と嘘をついてしまった。

翌年も受験するが結果は惨敗。それから勉強する気を無くし、親が「友達といっぱい思い出作りなさい」と毎月送ってくれる仕送りを頼りに、バイトもせず部屋の中でスマホをいじり、ゲームに課金を続けて早四年。

そんな俺が死んでも、そりゃ誰も気付いてくれない。


それにしても死んで五日経っているのに、発見されないものか。

ベッドの上で倒れている自分は、もう顔が緑になって、腕は紫色になってウォーキングデッドのゾンビみたいになっている。畳は俺の背中から染み出た体液が染みこみ紫色が広がっている。

死体からは腐った魚の生ごみみたいな異臭がしているのに、住人誰も気が付かないって、普段からどんだけ臭かったんだ俺の部屋は。

死体の周りには、食べ終わったカップ麺、アマゾンの段ボール、飲みかけのトマトジュースがはいった紙パック、俺の小便が入ったペットボトル、PSP、PSPのゲームソフト、精液を拭いたティッシュなどが乱雑に広がっている。

近所からはごみ屋敷の住人と認知され、地域の小学校では「拾ってきたゴミを食べる妖怪が住んでいる」と噂されていたらしい。


しかし、どうでもよかったのだ。

自分が人にどう思われているとか。

自分が人からどう見えるとか。

親から嘘をついて仕送りをもらってひきこもり生活をしている自分が一般社会人からどう映るかとか。

俺の人生設計とか。

そんなことはどうでもよかった。

このアパートの中にいれば、自分は誰とも関わらないし、誰も自分に関われない。

必要なものはネット通販ですべて手に入る。

学生時代の友達のSNSをのぞいたり、同級生の名前をネットで検索したり、卒業アルバムを開いたりしなければ、同級生との差を実感して劣等感を抱くこともなかった。

毎年、受験の季節になると胸がほんの少しざわつくが、それ以外の季節は心穏やかに暮らすことができた。

もう俺の人生は手遅れだし、いつか嘘がバレてこの生活が続けられなくなったら首を吊ればいい。

そう思っていた。


そんな時に病気で死んだ。

胸が苦しくなって、息が吸えなくなって、視界が真っ暗になって死んだから、多分心臓発作だろう。

そして今、俺は玄関の扉の前に立っている。

外に出ることを非常に恐れている。

これは引きこもりが抱く外の世界への恐怖もあるが、なにより太陽の光が怖いのだ。

古今東西問わず、幽霊、妖怪、ドラキュラ、狼男、ミイラなど、闇の生き物たちは太陽が苦手である。

俺の中で、幽霊は太陽の光が当たった部分が火傷のように光り輝き「ギョエーーー!!」と叫び苦しみながら天に消えていくイメージがある。

別にこの世界に未練はないけれど、苦しみながら消えるのは御免だ。

天使が空から迎えに来るパターンでも、血を吸うために牛の体を持ち上げるUFOみたく光が俺を持ち上げるパターンでも、死神が迎えに来るパターンのどれで召されてもいいが、太陽光で燃えるパターンは化け物扱いされている感じがするので死に方としてはNGだ。

それでも、部屋の外に出たい。

死んで腐っていく自分の体を見ることに耐えられないし、死体の悪臭に耐えられないし、なによりこの退屈に耐えられない。

身体がないためスマホに触ることもできず、雑誌を開くこともできない。

やることがない。

それなら、生きている時は出られなかった外の世界へ行ってみようという気持ちになったのだ。


勇気を出そう。

もし苦しむことになっても、現世より良い来世になることを祈りながら消えよう。

足を扉の外に出そうとしたその瞬間。

カタン。

と音をたてて玄関の扉のポストから一枚の白いハガキが落ちた。

郵便配達が入れたみたいだ。

一人暮らしを始めてから五年間、誰からも手紙を受け取ったことがなかったのに、誰からだろう。

跪いて玄関のタイルの上に落ちたハガキを見ると、


結衣


と、細くてやわらかい字で書かれていた。

中学校三年生の時に付き合った女の子からの手紙だった。


(続く)


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