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 夕方、自分の部屋に入ろうとしたシオンは、入り口で立ち止まった。


「あの、如何でしょう? お気に召さなければ元に戻しますが」


「いや、いい。涼しげな雰囲気になったな」


 少し前から、部屋の模様替えを考えていた。侯爵夫妻に相談したら、「遠慮なくやって頂戴」とのことで、準備を進めていた。もう少し早くしたかったのだが、カーテンの準備に少し時間がかかったのだ。


 カーテンとクッションカバーを水色に変えた部屋は、一気に涼しげな印象になった。


 ガラスの器に、植物を入れて飾り、壁の絵も水のある涼しさを感じさせる風景画に変えた。


「凄いな、こんなに変わるのか」


 シオンはソファーに腰かけると、部屋を改めて見回した。


「絵も掛け替えたんだな」


「ええ。よろしかったでしょうか?」


「ああ、こういう絵もあったのか」


「ええ。保管庫には沢山の絵がありますね」


「そうだな。たまには部屋に飾らないと意味がないな」



 飲み物を手渡した後、私は大きい洗面器を部屋に持って入り、足元に置いた。そこへ水を入れ、レモンの汁を垂らす。


「足を浸けて下さい。ズボンの裾をまくりますね」


 そう言って、しゃがんでズボンに触ろうとすると「自分でやるからいい」と慌てて言われた。


 隣に濡れた足を置くタオルを敷いた。それから背後から団扇で仰いだ。


「天国だな」


 シオンはシャツの襟を緩めながら言った。


「それは良かったです」


「仕事の休憩中、こうして貰えるとゆっくりくつろげそうだ。いや、でも、何もしたくなくなるかも。まずいな」


「確かに。フフフ」


「ハハハ」


 シオンはご機嫌のようだ。

 しばらくすると足を水からあげて、タオルの上に置いた。私はシオンの前に膝を床に着けて、足はつま先立ちの格好で座った。そして自分の太ももの上にタオルを置いた。


「この上に片足を置いてください」


 太ももの上に置いたタオルを軽くたたいてそう言いシオンを見ると、驚いた顔をした。


「早くしていただけますか?」


 そう言うと、彼は足を置いた。タオルで足をくるんで拭き、


「では反対の足を」


 そう言いながらシオンを見ると、彼はなぜか赤い顔をしてそっぽを向いたまま足を出した。

 扇ぐのをやめたから暑くなったのかしら? 疑問に思いながらも足を拭き、新しい靴下を差し出した。靴は別のものを用意した。

 その後、体を拭くタオルを用意して、衝立の陰から扇ぎながら、着替えをして貰ったのだった。




 夜、寝る前に冷たい飲み物を用意してシオンの部屋に行った。

 シオンはソファーで寛いでいた。暑いので窓を開け、襟元も寛げているので、ドキッとしてしまう。


「他にご用はございませんか?」


 一通り済んだので声を掛けた。


「朝の続きだけど、一緒にいたくないとはどういうことなのだ? 旦那さんと上手くいっていないのか?」


 シオンがいきなり、真剣な顔で問いかけてきた。


「へっ?!」


 完全に油断していたので変な声が出てしまった。


「あ、あの私のことはどうでもいいですから」


「いや、良くない」


「はあ……」


「で、どうなっているんだ」


「いや、どうなっているかと言われましても」


 こちらこそどうするつもりか聞きたい。


「ベスは大丈夫なのか?」


「大丈夫ではないですけど、シオン様に心配されても」


「俺が心配すると迷惑か?」


「いえ、とんでもない。このこと以外でしたら喜びますが」


「はあ?」


「シオン様こそ、どうなさる、いや、やっぱり聞きたくない」


「???」


 私のよく分からない返答にシオンは困惑している。


「あ、あの。なんで結婚したくないんですか?」


「え?!」


「し、失礼しました。出過ぎたことを聞きました」


「それはいいが、大丈夫じゃないならどうするんだ?」


「ええっと、ただいま鋭意努力中で」


「何の?」


「好きになっていただけるよう。女性として認識していただけるよう」


「なんだって? 女性として扱ってくれないような男と結婚したのか?」


「結婚したというか、する予定というか、でもあちらは全くする気がないようで、どうしたらいいのかなあと」


「えっ? まだ結婚してないのか? なんだ、それなら大丈夫?……いやいや、ベスにそんなひどい扱いをするとは、なんて見る目がないヤツなんだ」


「はあ?!」


「?!!」


 私の上げた声にシオンがギョッとしたので、「お前だよ」と言いたいのを堪えて、慌てて答えた。


「えー、見る目がないというか、そもそも見る気がないようでしたから、顔も知らないと思います」


「なんだそれは! どうなってるんだ」


 こっちが聞きたいよ!!! 段々イライラしてきた。


「あの、私のことはいいですから。私のことより、自分の婚約者の心配してください。それでは失礼します」


「えっ、ベス!? ちょっと」


 シオンの呼び掛けを無視して、部屋を出た。自分の部屋に帰ると、青ざめた。

 どうしよう、御主人様にあんな言い方して。ああ、まずい。まさか、朝のこと覚えてるなんて、メイドのことなんてどうでもいいじゃない。

 いやいや、私を意識して貰うためにメイドになったんだから、私への関心が好奇心か親切心か知らないけど、心配してくれてるのだから、いい方向には行ってるのか? どうなの? さっぱり分からないけど、全力で拒否されてた頃よりは、ましにはなってるわ。女性として意識されてるかどうかは全く分からないけど。

 それにしても自分のやったこと、ちっとも気にしてないのね。シオン様のバカバカバカ!!!


 もうどうしたらいいか分からなくて、私は枕を抱えて布団の上を転げ回った。

 改めてシオンの今までの態度に腹が立ったり、自分が言ったことを後悔したり、シオンが白黒はっきりさせようと我が家へ行ったら、それはそれでどうしようと悩んだ。私がエリザベスなのがばれたら、もうシオンの側にいられないかもと思うと、やはりそれが一番怖かった。

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