一歩目 黒と白が初めて会う時
『世界は生まれながらにして不平等である。』
人間の場合、産まれ育つ環境に格差が存在する。
親の金、権力、性格
学校の先生、クラスメイト、環境
そして誰と繋がりを持つかで変わる。
動物の場合、進化のために様々な特徴を持った
子が産まれ生き残った個体のみが種を存続させる
弱きは淘汰され強きが生き残る。
自然の摂理ではあるが、弱者は足掻く事しか
許されず生き残ること、種を残す事は許されない
どんな人間にも夢を見ることは出来る。
夢しか見れない人間を多くが盲目だと馬鹿にする。
けれどそんな弱い人間は現実を見ると失明する。
先が見えないから、努力する事を諦めて
不確かな闇の向こう側に夢、光を妄想する。
盲目が故に見える幻に過ぎないが
弱者にとって唯一の生きる希望となり得るのだ。
そんな不平等で、理不尽な世界に産まれた
1人の少年、
彼は、産まれながらに目が見えなかった。
本来感じる光が見えず、それが当たり前だと
思っていた。
ちっぽけな自分を持ち始めて、
周りから父と母と呼ばれる誰かが
痛いことをしてくる、酷いことを言ってくる、
感じる痛みや言葉の言い方だけで判断している。
そんな日常を続けてどれくらい経ったか、
外聞を気にした夫婦は保育園に少年を入れた。
騒がしい空間に戸惑う、
目線に加わる哀れみ、好奇心、蔑み
色々な感情
怖い、怖い、怖い
目が見えないからこそ余計に恐怖する。
平らな場所ですら転んだりする自分が
知らない場所、環境に身を置かれ
何をするわけでもなく、何が出来る訳でもない。
ただ、純粋に恐怖する。
日常は変わらなかった。
目が見えないからこそ、良く聞き育った自分とは
違うことを覚えさせられる程の無邪気さ
殴られ、蹴られ、暴言を吐かれ、
一般的な虐めを受ける。
それを咎めるわけでもなく
哀れみと、蔑みの篭った目で見てくるだけの大人。
環境といい、目の障害といい、
最低最悪な状況で育っていると言っていいだろう。
少年が気づいた時には静かだった。
いつもの様に騒がしく無いと安堵の様な感情を
覚える。
しかし、それと同時に死も感じた。
恐怖は無い。
何度も、何度も感じたもの
何度でも、何度でも慣れないもの
・・・・・・・・・・
初めて見た色は白だった。
何もなく、何も聞こえない
けれど直感で少年は気づいた、死んだと
そこに現れる何か
少年は、あれが人の形かと興味を向ける
興味を向けられて戸惑う翼を持った人は
目の前の物珍しい目で見てくる少年に名乗った。
「私は神である、貴方の運命は悲惨なものでした
きっと誰よりも、不幸であると言わざる負えない」
少年はこれが神の姿かと興味を向けると同時に
達観した感性で答えた。
「そこまで自惚れては居ないよ
不幸であったのは事実かもしれない
運命や神様を恨んだこともある
けれど決して誰よりも劣っているとは思わない」
神は驚いた、僅か5歳という小学生にも満たない歳で
これほどまでに大人びているのかと
神は悲しんだ、それと同時に持ち合わせる幼さに
「あぁ、貴方はとても逞しい」
悲しみ、泣きながら神は言った。
何をしているか分からない少年は困った。
余計に神は悲しんだ。
涙を拭い神は言った
「貴方はこれからどうしたいのですか?」
何も無い空間で何をしろと言うのか、
そんな事を思ったが口にはしない少年
ふと自然に零れた言葉があった。
「僕は『幸せ』を知りたい、他にも色んな事を」
神は不思議な感情を知った。
子供が言う我儘のような欲求
すんなりと思い当たる感情があった。
『愛』
そんな感情は、神がただあるためだけに存在する
この白い空間では知り得ないものだった。
たまに少年のように障害も持ち、早く死んでしまった
者達がここに来る。けれどある1人の目が見えない青年以外に興味を抱いた事は無く、それ以外の人は嘆き、悲しみただ逝くのみ。
それらを知り、今持つ感情があるが故にもっともっと
悲しくなった。哀れみでも同情でもなく自分の事のように。
「君に…幸せを教えよう、願わくば隣に私がいるように
それ以外の知識は今から教えよう
そして幸せを教えるべく、知識を体験するべく
君のような子を受け入れるための世界に行こう」
「お願いします」
「そういえばお互い自己紹介をしていなかったね」
「私の名前はアルブ、白を意味する言葉だ」
「僕は………分からない、こいつやあればっかで、僕の名前は誰も言わないから」
「そう、なんだ………分かった私が君に名前をあげる」
「いいの?」
「問題無いよ、それに君にも名前があった方がいいんだ」
「神様がそう言うんだったら」
「それとアルブって呼んで」
「え、でも」
「私が呼んでって言ってるんだからいいでしょ?」
「分かったよア、アルブ」
「うんっ!それと、君の名前はノワールだ」
「のわぁる?」
「そうノワール、私のアルブと対になる黒を意味する言葉だよ」
「そうなんだ」
少し嬉しそうに拙い笑顔を見せるノワール
「さ、お勉強を始めようかノワール」
「お願いしますアルブ先生?」
「別に変えなくて良いよ」
「分かったよアルブ」
好奇心と興奮を抑えながらアルブの話しを良く聞く。
これから始まる世界での物語が幸せになると信じて。