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秋の接待  作者: 貴神
1/3

(1)秋の接待

今回は、或る男爵に異種が絡まれる御話です☆


BL色が強いです☆

或る秋の日の事。


夏風なつかぜの貴婦人と翡翠ひすいの貴公子は、久し振りに二人で接待に行っていた。


北部から東部へ訪れたファレンス男爵から、是非、


東部を治める異種と面会したいとの個人的な申し出を受け、北部からの珍客だった為、


夏風の貴婦人も同行したのだ。


本来ならば東部の領主で在る翡翠の貴公子だけに任せても良い接待だったが、


やはり一度くらいは直接逢って話しておこうと思った夏風の貴婦人は、


二人で面会する事にしたのである。


ファレンス男爵は東部の貸し屋敷を借り、暫く其処に居るとの事で、


夏風の貴婦人と翡翠の貴公子は、其の屋敷のサロンで男爵と面会していた。


話は専ら夏風の貴婦人とファレンス男爵だけで花を咲かせており、翡翠の貴公子は時折、


相槌を打ち乍ら黙って紅茶を飲んでいた。


其れは、いつもの光景だ。


東部の仕事の取り引きは、全て夏風の貴婦人が行っていた。


翡翠の貴公子は領主としての仕事はしていたが、


人と面会し乍らの取り引きには必ず夏風の貴婦人が同行していた。


其れは屋敷で留守番をするきんの貴公子から見ると、口下手な翡翠の貴公子に代わって、


夏風の貴婦人が代弁をしてくれているのだろうと思われた。


無論、其の考えは外れてはいなかったのだが、実は他にも重要な理由が在ったとは、


只の居候の金の貴公子には知る由もなかった。


面会時間が終わるベルが鳴ると、上機嫌に話していたファレンス男爵は実に残念そうに笑った。


「ああ、もう時間ですね。あっと言う間だなぁ」


二人を見送ろうと席を立つファレンス男爵は長身で、蜂蜜色の髪に碧眼と、


なかなかの二枚目の三十代の若い男だった。


「まだ暫く此の屋敷に居ますので、今度は是非、食事でも御一緒しましょう」


ファレンス男爵にしっかりと握手をされて、翡翠の貴公子は頷いた。


「今日は御二人に御逢い出来て、本当に良かった」


続いて、夏風の貴婦人の小さな手を握る。


「此方こそ」


夏風の貴婦人はにっこりと笑うと、翡翠の貴公子と共に帰路に就いた。









夕暮れには二人を乗せた馬車は、翡翠ひすいの館に着いた。


翡翠の貴公子だけ下車し、馬車は夏風の貴婦人を乗せたまま発車した。


翡翠の貴公子の帰宅に、執事とメイド、執事見習いのミッシェルが迎える。


あるじ様。おかえりなさいませ」


「おかえりなさいませ」


翡翠の貴公子は肩掛けを外してミッシェルに手渡し乍ら、執事の今日の報告に耳を傾けると、


「判った」


小さく頷いて、二階へ続く階段へと向かう。


すると丁度、階段から下りて来た金の貴公子と鉢合わせした。


「主~、御帰り~~」


にぱっと笑う金の貴公子に、


「ああ」


翡翠の貴公子は短く返事をすると、立ち止まらずに階段を上がって行く。


其の様子を見た執事は、いつもの落ち着いた口調でメイド達に言った。


「今日は、主様は御疲れの御様子です。手早く食事と湯の準備をして下さい」


「はい」


「はい」


メイド達が直ぐに指示された仕事に向かうと、執事も玄関ホールを出て行く。


残された金の貴公子とミッシェルは、目を丸くして互いに顔を見合わせる。


「なぁ。今の主の表情、判った?? 疲れてそうに見えた??」


金の貴公子が問い掛けると、ミッシェルは、ごにょごにょと答えた。


「いえ・・・・実は余り判りませんでした」


「だよな~~。主の表情って、いつも同じに見えるんだよな~~」


「で、ですよねー!!」


ああ、良かった!!


僕だけじゃなかったんだ・・・・!!


と内心、胸を撫で下ろす、ミッシェル。


「あんな無表情の主見て、よく疲れてるとか判るよな~~」


「ですよね!! やっぱり、ポフェイソンさんは凄いんだ・・・・」


意気投合する二人の会話通り、翡翠の貴公子は実に表情の乏しい男だった。


怒る事もなければ、殆ど笑う事もない。


いつも一本線を引いたかの様な表情をしている。


そんな無表情に近い翡翠の貴公子の表情が判るとは、執事のポフェイソン、


熟年の賜物と云うべき目利きであろう。


翡翠の館へ来て二年の金の貴公子には、未だ主の表情を読み取るのは難しく、


執事見習いを始めたばかりのミッシェルも、やはり同様に難しかった。









一方、太陽たいようの館では夜の帳が降りる頃、


帰宅した夏風の貴婦人を迎えた執事とチーフのファテシナは、


「夏風の貴婦人様は、今日は何か思うところが在る御様子ですね」


「其の様ですね」


しっかりと主人の表情を読み取っていた。


「赤ワインを御部屋に御持ちして」


「はい」


直ぐにファテシナがメイドに指示を出す。


普段、夜は麦酒をがぶがぶ飲む夏風の貴婦人だが、


何か考え事をする時は麦酒より赤ワインを飲むのを、執事もファテシナも、よく判っていた。


夏風の貴婦人は自室の更衣室でラフなワンピースに着替えると、居間に移り、


どかりと椅子に座って肘掛けに頬杖を着く。


テーブルを挟んだ向かいには既にらんの貴婦人が座っており、


いつもの御気楽声で話し掛けてきた。


「ねぇ~~、どうしちゃったの~~?? 何か、むかつく事でも在った~~??」


だが夏風の貴婦人はワイングラスを手に取ると、一口飲んで黙っている。


蘭の貴婦人はグラスには手を着けず、しつこく訊いてくる。


「ねぇ~~!! 主に逢ったんでしょ~~?? 主、どうだった~~??」


翡翠の貴公子に恋する三十六歳乙女の蘭の貴婦人は、


とにかく彼の話が聴きたくて堪らない様子だ。


だが夏風の貴婦人は蘭の貴婦人の質問は無視して、逆に問い掛けてきた。


「あんた、ファレンス男爵、どう思う??」


唐突な質問に蘭の貴婦人は桃色の瞳を丸くすると、うーんと考え乍ら答える。


「ファレンス男爵~~?? 少し前に私が一人で行った夜会に居た人~~??


蜂蜜色の髪の三十半ばくらいの~~??」


「そう」


「う~ん、結構イケメンだよね。あれで、まだ、独身でしょ??


夜会で貴婦人たちに凄い人気だったよ~~」


「そう。女うけいいのよね」


「ま~~格好いいとは思うけどぉ~~、主の方が全然格好いいよぉ~~!! ね~~!!


主の話は~~?!」


「・・・・・」


又しても蘭の貴婦人の問いには答えず、夏風の貴婦人はワインを一口飲む。


そして、ぼんやりと宙を眺めると・・・・


「臭うのよねぇ・・・・」


呟いた。


「臭う~~?? 何が~~??」


話が見えず、桃色の瞳をきょとんとさせる蘭の貴婦人に、


「私の長年の勘が働くのよ」


夏風の貴婦人はグラスに口をつけると、ぐびりと飲んだ。









秋に入ってからと云うもの、翡翠の貴公子は立て続けに外出していた。


秋は接待や会議が重なる事を、もう知っている金の貴公子は、


時折り女の処へ遊びには行くものの、夕方には戻って主の帰りを待っていた。


秋は外出が多いが、冬になれば翡翠の貴公子は屋敷に篭りっきりになる。


其れまでの辛抱だ・・・・と思いつつも、我慢が利かないのが金の貴公子であった。


連日、出払っている翡翠の貴公子に、不満たらたらの顔で金の貴公子は部屋から出て来ると、


廊下の窓拭きをしているミッシェルに声を掛けた。


「なー。主、今日は、いつ帰って来るのさ??」


ぽりぽりと後ろ頭を掻き乍ら言う金の貴公子に、ミッシェルは窓拭きを中断すると答えた。


「今日はファレンス男爵様との面会だけですから、夕方には帰っていらっしゃると思いますよ」


だが其の名前に金の貴公子は口を歪める。


「ファレンス男爵って・・・・又かよ?? 今月入って三度目じゃねぇ??」


意外と鋭い金の貴公子の言葉に、ミッシェルは頷いた。


「ファレンス男爵は北部から来られた方なんです。今月、来月と、


東部の御屋敷を借りているそうで、其の間に異種様との交流を深めたいと思われている様ですよ」


「成る程ね~~」


説明されれば判るが、それでも月に三度も同じ名前を聞くと、金の貴公子は些か鬱陶しく感じた。


それでも翡翠の貴公子は嫌な顔一つせずに面会しているのだから、


せめて自分は大人しく屋敷で待っていようと、金の貴公子も少しは自分を改めたのであった。









日暮れ前、翡翠の貴公子が帰宅すると、金の貴公子は待ってましたと云わんばかりに、


廊下で彼を捕まえた。


「主~~!! 久々に一緒に酒、飲もうぜ!! 酒!!」


だが翡翠の貴公子は、ちらりと金の貴公子を見ただけで、


「悪いが疲れている。今日は、もう休む」


静かにそう言うと、寝室に入って行ってしまった。


ぽつりと廊下に取り残された金の貴公子は、暫く、ぽか~んとした顔をしていたが、


「・・・・ちぇー。仕方ない、か」


後ろ頭に手を組むと、自室へ向かった。


最近の翡翠の貴公子は付き合いが悪かった。


「主、忙し過ぎ」


金の貴公子は不満一杯の声でぼやくと、自分の部屋へ入って、バタリと扉を閉めた。









翌朝。


翡翠の館に花屋が遣って来た。


「あれ?? 今日、花屋が来る日だったっけ・・・・」


内心、疑問に思い乍らも、ミッシェルが屋敷を出ると、門で受け取りのサインをする。


すると花屋から渡されたのは・・・・


「うわっ!! 凄い真っ赤な薔薇!!」


だった。


両手一杯の薔薇の花束だ。


しかも真紅に統一された、見るからに上質な薔薇である。


ミッシェルが花束を抱えて玄関に入ると、丁度、


朝食の為に翡翠の貴公子と金の貴公子が二階から下りて来た。


「うわ!! すっげー花束じゃん!! どうしたの、此れ?!」


目を輝かせて金の貴公子が駆け寄って来て、ミッシェルは花束を抱え乍ら、


もたもたと一枚のカードを差し出した。


「主様、ファレンス男爵様からです。此れ、どうしましょうか??」


翡翠の貴公子は暫し沈黙すると、抑揚の無い声で言った。


「カードだけ部屋に置いておいてくれ」


「かしこまりました」


興味無さそうに、さっさと食堂へ向かう翡翠の貴公子に、薔薇に見惚れていた金の貴公子は、


名残惜しそうについて行く。


そして此れが、ファレンス男爵からの執拗な贈り物の始まりだったのだ。









三日後。


翡翠の館に新たな贈り物が届いた。


「主様。ファレンス男爵様からです」


執事が執務室に、小さな白い小箱を持って入って来る。


デスクワークをしていた翡翠の貴公子が顔を上げると、


傍の長椅子で寛いでいた金の貴公子が逸早く立ち上がって見に来た。


「何?? 何?? 何?? 主、早く開けてよ」


「・・・・・」


金の貴公子に急かされ、翡翠の貴公子が黙って箱を開けると、蒼いフェルトのケースが入っていた。


其のケースを取り出し蓋を開けてみると、見事な金細工の翡翠の耳飾りが並んでいた。


其れを見た金の貴公子は感嘆の声を上げる。


「おおー!! 凄いじゃん!!」


こうした異種への贈り物は珍しくなかった。


異種の存在が確立されてくると共に、好意以外の贈り物で在る賄賂率も上がり、


特に太陽の館や異種の女たちの屋敷には、貴族、富豪からの贈り物は日常茶飯事で在り、


翡翠の館も例外ではなかった。


年々そう云った贈り物が後を絶たない事は金の貴公子も知っていたが、だが、それで考えても、


ファレンス男爵の贈り物は凄いと思った。


余程、北部の痩せた土地から東部、或いは南部へと脱したいのだろう。


翡翠の貴公子はケースの蓋を閉じると、机の端に置いて書類に目を戻した。


「如何致しましょうか??」


執事が訊ねると、


「礼状だけ書いてくれ」


抑揚の無い声で翡翠の貴公子は言う。


すると金の貴公子が目を輝かせて訊いてきた。


「何?? 何?? 主、要らないの?? なら、俺が貰っていい??」


「・・・・ああ」


翡翠の貴公子は顔を上げない。


金の貴公子はケースを手に取ると、中の耳飾りを指で摘み、うっとりと眺める。


「うわ~~、超豪華な耳飾りじゃん」


薄い雫の形をした金の繊細な模様の中に、翡翠の玉が一つ填め込まれている。


相当値が張る事は一目瞭然である。


昔から貰い癖の強い金の貴公子は、大変満足な顔で笑った。


だが驚く事に、ファレンス男爵からの贈り物は更に続いたのである。









耳飾りが届いてから、四日後。


ファレンス男爵から、今度は翡翠のブローチが届いた。


翡翠の貴公子は依然として贈り物には興味を示さず、


其の傍で金の貴公子が欲しい欲しいと鼻を鳴らした。


結局、贈り物は金の貴公子の懐に入り、金の貴公子は上機嫌だった。


「ファレンス男爵、いいな~~!!


こうなったら、もっと一杯、贈って来てくれないかな~~??」


贈られて来た高価な物が、そのまま自分の物になると思うと、


金の貴公子は段々ファレンス男爵の賄賂が嬉しくなってきた。


「うーん!! いいブローチだ」


金の繊細な模様の扇に翡翠が填め込まれたブローチを指で摘まんで眺め、


御満悦の表情の金の貴公子。


それから幾度も高価な装飾品が贈られて来たが、翡翠の貴公子は全く見向きもしなければ、


金の貴公子は目をらんらんにして歓んだ。









此の日は朝から雨だったが、翡翠の貴公子は面会に出掛けた。


濡れる窓硝子から小さくなって行く馬車を見送り乍ら、


金の貴公子は窓拭きをするミッシェルに問い掛けた。


「こんな雨の中、主、御出掛けかよ?? 会議??」


ミッシェルは窓を拭く手を止めると、答える。


「今日は、ファレンス男爵様との面会です」


其の名前に、金の瞳が真ん丸になる。


「おいおい、又ファレンス男爵かよ?? 贈り物だけじゃ駄目なのか??」


疑問符だらけの顔になる金の貴公子に、ミッシェルは真面目に答える。


「前にも言いましたけど、ファレンス男爵様は東部に来ている間に、


異種様と親睦を深めたいんだと思います。異種様と親しくなっておけば、


他の貴族と懇意になるより、ずっと東部や南部の議会に通され易いですから。


北部は、ずっと荒れていますから、多分、男爵様は移住を考えているんじゃないでしょうか」


「ふーん。其れで其のターゲットに、主はされちゃったのか」


「そう云う事になってしまいますね」


其れを考えると、金の貴公子もミッシェルも、何だか翡翠の貴公子が可哀想に思えてきた。


「何か、そう考えると、腹立つな。結局、俺たち異種をダシにしようって事だろ??」


急に不機嫌になる金の貴公子に、ミッシェルも肩を竦める。


「そうですよね。そう云う事になっちゃいますよね」


「主、何も言わないけど、本当は、うんざりしてるのかもな」


「そうですよね。此れで四回目の面会ですからね」


再び意気投合する二人。


翡翠の貴公子だけでなく他の同族たちも、きっと同じ様な目に遭っているのだろう。


南部のしろの貴婦人などは同族の中でも特に接待が多いと聞いていたが、


其れは異種な上に男うけする女だからだろう。


異種でコネをつくりたいと思う一方で、あばよくば女の異種と・・・・


と云う裏心と下心で賄賂を贈り、面会を求めて来る輩が大勢居るのかと思うと、同族の皆は、


よく耐えていられるなぁ・・・・と、金の貴公子は内心感心した。


しかも今回、翡翠の貴公子をターゲットにしているのは、同性で在る男爵だ。


賄賂を贈られて来るにも面会するにも相手が同性かと思うと、漸く金の貴公子は、


今の翡翠の貴公子の苦労が判った気がした。


相手が女性ならば面会も、それほど詰まらないものではないだろうに。


と・・・・思ったものの、相手が女性ならば翡翠の貴公子が喜ぶのかと考えると、


それはそれで違う様な気もした。


「あー、何か、もやもやするな~~」


こんな時こそ自分は女遊びがしたいのだが、生憎、今日は雨だ。


外へ飛んで行く気にもならない。


「主が帰るまで、大人しくしてるか~~。じゃーな、ミッシェル、窓拭き頑張れよ」


後ろ頭に手を組むと怠そうに歩き乍ら、金の貴公子は自室に戻った。

この御話は、まだ続きます。


ファレンス男爵から贈り物攻撃を受けていた翡翠の貴公子は・・・・。


少しでも楽しんで戴けましたら、コメント下さると励みになります☆

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