歪な狩人
私はゴブリンが住処にする森の近くに到着した。
森はさほど大きくはない。
しかしゴブリンの手によって、罠が多数仕掛けられていると思われた。
ゴブリンは、洞窟や森等の地形を利用し、身を守る習性があるからだ。
私は森の外周を一周してみた。
森を一周したのには理由がある。
包囲するためだ。
森の規模は最初の見立て通りさして大きくない。
包囲は十分可能だ。
ゴブリン達は出てこない。
しかし、この森にゴブリンがいるのは間違い無い。
私にそう教えてくれる者達がいるから。
ゴブリンが出てこない理由は簡単で、私の姿はゴブリン達に見えていない。
ただそれだけのことだ。
それは、姿隠しや変り身とかでは無く、単に今の私が幽体というだけのこと。
私の体は村にいる。
しかし危険が迫れば直ぐに戻れるので問題はない。
それに、護衛もつけている。
少しづつだが私は自身の記憶を取り戻している。
主に自身の目的と能力について。
だから私には同志がいることを思い出した。
今、私の体を守ってくれているのは同志の一人だった。
さて始めましょうか復讐劇を。
「聖女の法 LV2 兵士の蹂躙」
私の術の発動と同時に森を囲んで、白い人型のモノ達が音もなく立ち上がった。
白いモノ達は陰影も無くどこまでも白い。
皆等しく手には同じく陰影も出来ない白い剣を持ち、顔は目も鼻も耳もない。
只、口だけがあった。口の辺りが裂けており闇を覗かしている。
その裂け目は歪な笑いの様だった。
これから始まる蹂躙劇を心待ちにしているかのように。
哀れなゴブリン達の惨めな未来を嘲笑う様に。
それは復讐に燃える者達の暗黒の笑いだ。
白い兵士達は、先程私と契約を結んだ村人の魂達。
彼らは代償を知った上で、それでも復讐を望んだ。
だから私は聖女として彼らにその力を与えた。
私は幽体であることを利用し、戦場を俯瞰して見守る。
私は彼らの魂に責任がある。
だから最後まで見届けよう。
彼らの戦いを。
白い兵士達は森の中に入って行く。
罠に掛かる兵士が多数出るが物ともしない。
警報が鳴り、森の中は騒がしくなる。
鳥は危険を察知し、森から飛び立った。
ゴブリンが放った矢が一人の白い兵士の眉間に刺さる。
だけどその白い兵士は意に介さない。
歪な笑いを浮かべ距離を詰めていく。
そんな光景があちらこちらで見られた。
接近戦を仕掛けたゴブリンがいた。
5匹がかりで白い兵士一体に襲いかかる。
最も体格のいいゴブリンは、この群れのリーダーに違いない。
リーダーゴブリンを先頭に各々武器を白い兵士に突き立てる。
ゴブリン達の持つ武器は錆ていたり、刃こぼれしており、切れ味は最悪だと思われる。
この武器で殺された者は、さぞかし苦痛を味わっただろう。
私は静かに怒りを覚えるが、復讐の権利者は白い兵士達だ。
だから私は静かに見守る。
腹を背を脚を頭を脇を刺された兵士はやはり微動だにしない。
笑いを一層強くした。
白い兵士達による殺戮が始まった。
兵士は武器が刺さったまま、正面にいたリーダーゴブリンに白い剣を振るう。
リーダーゴブリンは驚き、剣を抜こうとするが抜けない。
他のゴブリン達も同様に武器が抜けず戸惑っている。
白い兵士に剣はゴブリンのリーダーの首を捉える。
しかしその剣も切れ味が悪く、首が4分の1切れただけだ。
とは言え頸動脈は斬れ、大量の血が吹き出す。
「グギャ!!」
悲鳴を上げるゴブリンのリーダー。
吹き出した血は白い兵士にも掛かるが、兵士が赤く染まることはない。
只々白い。
彼らは〝穢れなき白〟のままだ。
白い兵士は剣を再び振り上げ、
再び首を斬りつける。
そして、まるで木こりが木を切り倒す為、何度も斧を打ち込むかのように何度も剣を打ち付けていく。
リーダーは既に死んでいたが、白い兵士は空いた手で体を掴み倒れないようにしていた。
やがてゴブリンのリーダーの首が落ちた。
残り4匹のゴブリンは異様な状況に恐れを抱き、武器を捨て逃げようとしたがもう遅い。
いつの間にか6〜7人の兵士に囲まれていて、めった刺しにされていく。
ゴブリンの悲鳴があちらこちらで木霊する。
ゴブリン達は直ぐ戦意を喪失させ、逃げ出そうとするが、決して逃れられなかった。
白い兵士が何処からとも無く現れ、斬りかかる。
音の無い刺客から逃れる事は出来ない。
彼らには障害物も、距離も関係ないから。
運良く一撃で死ねるゴブリンもいなかった。
何度も何度も刺され、または斬られ、悲鳴を上げながら死んでいった。
当然ゴブリンの中には子供も居たし、赤子も居た。
しかし関係はない。等しく惨殺された。
やがて森から悲鳴が無くなった。
しかし剣を突き立てる音は止まない。
結局森から逃げ出すことが出来たゴブリンは居ない。
本来であれば森を浄化しなければならないが、白い兵士達が惨殺を持って魔を浄化した。
恨みで魔を相殺した。
やがて森はゴブリンだった血や肉、骨を飲み込み、新たな命に変わるだろう。
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村に帰った私を出迎えたのは、先程ゴブリンを倒した兵士たちだ。
ただし人の形はしておらず、球状になって浮いている。
私は彼らに告げる。
「あなた達は目的を達したわ。契約通り、これからは私にその力を貸して下さい」
その言葉に白い球達は輝きを持って答えてくれた。
「有難う、今より私達は同士です」
私は彼らを讃え、取り込んでいく。
今はただ眠って下さい。
戦いは続くのだから。
その意志が、恨みが、闘志が、魂が、全てが朽ちるまで。




