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明日の聖女  作者: 丁太郎
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とある村

 獣臭さで目を冷ました。

 夜明け前だろうか。

 日は登っていないが空は明るくなってきていた。

 鹿を倒した後、睡魔に勝てず、この場で寝てしまったことに思い至った。


 周囲を見渡せば狼だろうか、狼の死骸が周囲に転がっている。

 数えるのも面倒な程、周囲は狼の死骸だらけだった。

 寝ていた私を取り囲み、襲いかかった狼の成れの果てだった。


 狼の群れを殺したのは私が地に突き刺した棒である。

 私は棒を中心に結界を貼って眠りに落ちた。

 そして結界の中に入ろうとした狼は命を狩られた。

 それだけのことだった。


 眠ったことで少し記憶が整理されたかもしれない。

 多少の事は思い出した。

 私の出来ること。

 そして私の成すべきこと。

 徐々に過去の自分の事も思い出すかもしれないが、今わかっていることは少ない。


「自然の摂理なの。ゴメンなさいね」


 私は狼の亡骸に向かって謝る。

 強い者が弱い者の肉を得る。

 弱肉強食、世界に強いられた絶対のルールだ。

 ただし、私が狼から得たのは毛や肉では無い。


 改めて自身の状況を確認してみる。

 左手の実体は失われたままだ。

 不便ではあるが問題はない。

 それ以外は特に問題なさそうだった。

 ともかく人の居る場所を目指そう。


 私は棒を引き抜き、自然に任せ倒してみた。

 果たして棒は左手側に倒れた。


「こっちね……」


 進むべき方向が決まった。

 森には入らず、森の境を左手側に進むことにする。

 森の中は暗い。

 昨日の神の使いである青鹿は森から出てきた。

 となればこの森には神が住まうのだろう。

 そう思うと森に入りたくなるが今はその時では無い。

 今の私では足りない。

 そう私の中の何かが告げている。

 自身の事を含め、今は情報集めが先なのだろう。

 だから私は森を避けたのだった。


 暫く進むと道らしきものが見えてきた。

 そこだけは草が生えず土がむき出しになっている。

 轍と思われるくぼみもある。

 つまり頻繁に人や荷車の往来が有るということだ。

 どちらに進んでも、やがては村か町にたどり着くだろう。

 さて、どちらに進むべきか。

 しかし、今度は棒を倒すことはしない。

 道の左手側は元の方角に戻ってしまうから。

 先に進むなら右手側だ。

 私は右手に森を見ながら進んでいった。

 やがて道は森から逸れ、平野を進む。

 暫く進むと前方に煙が上がっているのが見えた。

 村か町だろうか?

 最低でもこの地の情報は得たい。

 やがて集落らしきものが見えてきた。

 しかし、集落の方より吹く風は、焦げた匂いが混ざっていた。

 焦げた木々と鉄の匂い。

 自然と眉間にシワを寄る。

 きっと私が出来ることは一つだけだろう。


 集落だった場所にたどり着いた。

 幾つもの建物が焼け落ちていた。

 火は未だくすぶっていてパチパチと音を鳴らしている。

 焼けているのは家々だけではない。

 肉の焦げる匂いも混ざっていた。

 見渡した限り生存者はいない。

 老若男女ことごとく殺されている。

 哀れな人々の死因は武器によるものだった。

 殺された上で火をかけられたのか。

 襲われた時間帯が火を使う時間帯だったのか。

 神か、魔物か、それとも人か?

 この惨状を生み出した者は3者どれも当てはまる。

 しかし、元凶は人で無い気がした。

 若い女の死体に貞操を奪われた様子が無かったからだ。


「運が無かったね」


 私は遺体の一体一体に祈りを捧げていった。


「そう、ゴブリンの群れに……」


 祈りの中で死者の声を聞いた。

 死者達は口々に無念を語ってくれた。


「あなたはどうしたい?

 還りたい? それとも……」


 私は無念の内に死んだ者達に問掛ける。

 これはとても重要な問い。

 その者の在り方を問うのだ。

 そして死者達の回答はほぼ一緒だった。


 私は最後の遺体の前に立った。

 少女の遺体だ。

 その遺体は焼けておらず、綺麗だった。

 首がより上が無くなっていたが。


 この哀れな少女の為に祈り始める。


「有難う。ありがたく使わせて貰うわ」


 少女は私の無くなった左手の代わりに自身の左手を使っていいと言ってくれた。

 もう使うことが出来ないからと。

 私は無くなった左手で遺体の左手を触る。

 すると遺体の左手は徐々に消え、

 代わりに私の左手が徐々に出現する。

 透明だった左腕が徐々に色を取り戻していく、そんな感じだ。


 私は左手の感じを確認した。

 元の左手に戻っていた。

 当然だけど遺体の少女と私の手のサイズは異なっていたし、色も違っている。

 私の生者とは思えない白さと違い、遺体の少女は日焼けしていた。

 生きていたら、さぞかし生き生きとし、健康的に見えただろう。

 しかし遺体の少女から貰った私の左手は私自身の白い肌で、サイズも切り落とす前の物と同じだ。


 そしてこの少女だけは他の者と違う選択をした。

 少女の魂は光となって輝き消えていく。

 流れに還ったのだ。


「母の身許で一時の休息を…」


 消えゆく少女の魂に祈りの言葉を与える。

 最後に少女が笑った、気がした。

 少女は逝ってしまった。


 さて、やるべき事が出来た。

 頼まれてしまったし、引き受けてしまったから。

 遺体達から声を聞き、村に起こった事態は把握できた。

 村は魔物に襲われたのだ。


 今より3ヶ月程前、この村より東へ2〜3時間程進んだ所にある森にゴブリンが住み着いた。

 村長は村から直近で冒険者ギルドがある大きな町に出向き、討伐依頼を出したのだが、逆にゴブリンの襲撃を受ける事になってしまったのだ。


「無念は晴らしてあげるわ」


 私はゴブリンの住処がある東の森に向かうのだった。

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