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5_14  今更何を言っているんだ

<<抗マラリア薬があるって!>>

「かもしれない!」


 

 上着をひっつかんで部屋から出た私の足元に、慌ててタヌキが追い付いてくる。



<<どこに!?>>

「ローワーガードルでのこと、覚えてる?」

<<どこだって?>>

「別荘地よ! マダマさまと一緒に行ったでしょ、植物園!」



 ついこないだまで遊んでいたところではないか。

なじみの薄い地名とはいえそれくらい覚えておいて欲しい。



<<植物園? まさか、キナの木があったのか?>>

「分かんない」

<<はぁ、分かんない?>>


 

 廊下を足早に歩きながら進んでいる途中で、タヌキは呆れたように足を止めた。



「だって私、キナの木なんて見たこともないし聞いたのも今日が初めてなのよ。植物園で実物があったって気付くはずないでしょうが」

<<そりゃそうかもしれないけれどさ……。じゃあなんであるかもしれないって?>>

「さっきの話を思い出してよ!」

<<さっきの話?>>



 タヌキが大きな頭をかしげた。

何で今日に限ってこんなにニブいんだ?

気が急いているというのに、なかなかこっちの意図を汲んでくれないことに苛立ってしまう。



「原住民が苦い木の水を飲んで、マラリアが治ったって話したでしょ?」

<<したよ、それが?>>

「マダマさまも小っちゃいころに、植物園に生えてる木の汁を飲んで苦くて苦くてびっくりしたって話してたのよ!」

<<……その二つの話が、一体どうつながるんだ?>>

「その時の木が、キナの木かもしれないじゃない!」


 

 タヌキは目を丸く開くと、ぽかんと口を開けた。

 


<<……それだけ?>>

「それだけよ」

<<何の根拠にもなってないじゃないか!>>

「ええ、そうよ。でもこのままにしてたらどっち道死んじゃうのよ!」



 ベッドに伏せて虫の息の少年は、もう周期で起きる次の発熱には耐えられない。

そう言ったのはタヌキ本人ではないか。



「じゃあ思いつく限りのことをするしかないでしょ!?」

<<でも……何の保証もないんだぞ!>>

「保証はないけど傍証ならあるわよ、考えてみてよ!」



 それは推論というにはあまりに薄弱な理屈だったが、とっさに頭に浮かんだことをそのまま口にした。

自分自身にも無理矢理に言い聞かせなければ、行動する気力はあっという間に雲散霧消してしまいそうだった。



「マダマさまのおじいさんの、前の王様があの植物園が作ったのは何のため? 医学でも農作物でもとにかく役に立つ植物の研究をするためでしょ?」

<<そうだろうな>>

「じゃあ海外からその植物を送ってくるのは誰?」

<<派遣された植物学者か、現地のプラントハンターってところ?>>

「そう、成果を上げないとまずい立場よね? 下手すると研究か仕事か、とにかく予算が打ち切られちゃうわ」



 自分がもし彼らの立場だったらどうする?

手当たり次第現地で見つけた試料を送るか? 

そんなことはできない、時間的にも運搬能力的にも制約があるはずだ。



「何の役にも立たない植物を送って後で怒られたらどうしようって思わない?」

<<確かに……>>

「本国に役に立つ植物を届けるのに、一番手っ取り早い方法は?」

<<……現地で利用されてる植物をそのまま送る>>



 主張している私の方でも漠然としていた推論に、タヌキが明確な結論を付け加えてきた。



「つまりは現地では役に立つ植物だって分かってたのよ!」

<<だから植物園に植えられた?>>

「でもこの国じゃマラリアがなかった! だから!」

<<マラリアの特効薬だってことは伝わらなかったか、忘れられて、単なる外国の植物だと思われてずっと残ってきた!>>



 喋っていてその気になってきたのか、タヌキはその場で足踏みした。



<<何の確証もないけれど……>>



 丸い目には活力と希望の光が宿っていた。



<<ありえない話じゃないな!>>

「でしょう」

<<試してみる価値はあるぞ!>>

「でしょう!?」



 ようやく賛同してくれたことに、私の声もついつい上ずってしまった。

が、廊下の窓の外を見てタヌキの表情が固まる。



<<ちょっと待った、もう夜だぞ>>

「そうね、時間が経っちゃったわね」

<<どうやって植物園からキナの木を送ってもらうんだ? あそこには馬車でも半日かかるんだぞ。それにキナの木をどうやって他の木と区別する?>>

「…………」



 私は返す言葉を失って、ため息をついた。



「そんなこと――――――」



 決まり切っているではないか。

今更何を言っているんだ、こいつめ。



「……知識がたくさんあると小難しく考えるクセがつくのかしら?」

<<なんだと、どういう意味だ>>

「一番手っ取り早くて確実な方法があるでしょ」

<<どうやって?>>


 

 ええい、じれったいな。

説得している時間が惜しい、私はタヌキを小脇にひっつかんだ。

柴犬より小柄なタヌキの体格がこういう時にはありがたい。

 


<<どうするんだよ!>>

「夜通し馬車を走らせて、ローワーガードルの植物園まで行って、私たちが皮はいで持ってくるのよ!」

<<なんだと!?>>




次回は明日追加……できると良いな!

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