5_9 お菓子と豚の皮
翌朝……もとい、昼近くになって。
「いやー、ちょっと飲み過ぎたわ」
二日酔いで痛む頭を抱えつつ、例のゴージャスな馬車に送ってもらって家路についた。
<<二人でボトル5本も開けるからだ>>
「あなただって昨日より丸々して見えるわよ」
好き放題おつまみをむさぼったタヌキの動きも鈍い。硬い毛も普段より脂ぎって見える。
「でも最高だったわねぇ、お酒も料理も」
<<俺、あのうちの子になりたい>>
などと楽しい思い出にひたっているうちに自宅についた。
「伯爵家の娘ともあろうものが、どういうつもりだ!」
待っていたのは、親父の金切り声だった。
無断外泊の上に朝帰りまでしては流石におかんむりの様子だ。
最近機嫌が良かったから油断していた。
「しかも……もしかして酔ってるのか!?」
「いやー、良いワインはごくごく飲めて……のど越しから全然違ったわ」
「お前は一体何を言ってるんだ!」
「あいたた……大きな声出さないでよ。二日酔いに響くから」
「お前は一体何をやっているんだ!?」
怒りでプルプルと手を震わせまで始めたが、正直付き合っている余裕はなかった。
一刻も早く酔い冷ましの水をあおってからベッドで寝てしまいたい。
「だいじょーぶだいじょーぶ、王子様の命ならちゃんと助けてきたから」
「はぁ!?」
「これ大公夫人に書いてもらった感謝のお手紙。というわけで部屋で休みます、お休み」
便箋を手に玄関ホールに呆然とする父親だけ残して、私は自分の部屋に引きこもった。
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
結局その日は一日中だらだらと過ごして、トパースに小言を言われながら過ごした。
反省して次の日こそは活動的に過ごそうと心に決めて、早起きをする。
「マシュマロを作りましょう!」
<<マシュマロ?>>
使用人に頼んで厨房を貸してもらうことにした。
相変わらず朝は眠そうなタヌキが、まだ頭が回らないのかあくび混じりに返してきた。
「お礼とお見舞いついでに、マダマさまにお土産に持っていこうと思って」
<<ふぅん。なんでマシュマロ?>>
「あなたがこの間簡単に作れるって言ってたじゃない」
<<ああ、そんなこと言ったっけ?>>
タヌキは小首をかしげたが、必要なものを次々と数えだした。
<<まず砂糖。それから卵白。コーンスターチがあればいいけど無いなら強力粉でも良い>>
「オッケー、全部揃ってるわ」
<<あと豚の皮>>
「豚の皮!?」
マシュマロと全く関係なさそうな単語が飛び出してきたぞ!?
「そんなもんマシュマロに使うの?」
<<ゼラチンの材料にするんだよ>>
「ああ、ゼリーみたいなやつだっけ?」
<<どうせこの世界じゃゼラチン生産の工業化なんかしてないだろ。板ゼラチンなら売ってるかもしれないけど、どうせならゼラチンから作ろう>>
ということになった。
トパースに頼んで出入りの肉屋までおつかいしてもらって、豚の皮を買って来てもらう。
「豚の皮って結構迫力あるわね!」
紙に包まれて、3つ並んだ毛穴が特徴的な分厚い豚皮が届けられてきた。
「? なんか文字が書いてあるけど」
<<牧場で識別に入れた焼き印が皮に残ってるんだろ>>
「うおぉ、生々しい……」
いかにもガーリーなマシュマロのイメージとはかけ離れた野性的過ぎる材料に、思わずたじろいでしまう。
「ま、まあ良いわ。それでこの皮をどうすれば良い?」
<<まず適当に切ってお湯にかける>>
「どれくらい?」
<<あんまり火にかけると溶けて脂と混じって良くない。透明なコラーゲンの層が見えてくるくらいで良い>>
とりあえずコンロにかけた鍋でお湯を沸かしてから、皮を放り込んだ。
なんとなく皮全体がぷっくりとふくらんで透明感が出てきたところで引き上げる。
「あちち……」
断面をよく見ると確かに皮目の下に、白い脂と透明なコラーゲンの層がはっきりと別れて見えた。
<<で。皮と脂の部分を剥がす>>
「手がべたべた……」
<<それくらい我慢しろ>>
ナイフを片手に格闘すること十数分。
多少形が不格好だが、寒天のようなコラーゲンの板が剥ぎ取れた。
<<そのコラーゲンを刻んで>>
「ふむ」
<<新しい小鍋にかけて溶かす。沸騰させないように。砂糖をたっぷり入れて>>
言われた通りにする。
小鍋の中で溶けたコラーゲンと砂糖とが混じり合って、見覚えのあるゼラチンの形になっていった。
<<んでメレンゲを作る。泡立て器で卵白を泡立てながら砂糖を入れて>>
「ふむふむ」
<<ツノが立つまで固まったらゼラチンを少しずつ入れながらとにかく泡立てる>>
「了解……って、結構きついわこれ!」
手でメレンゲするだけでも結構大変なのに、ゼラチンが加わると更に抵抗が増してくる。
時々泡立て器から手を離して休まなければならなかった。
「ハンドミキサーの作り方は知らないの?」
<<悪いが俺の専門外だ>>
「思ったんだけどお菓子作りって基本フィジカル勝負よね」
<<パティシエの腕力はすごいらしいぞ>>
悪戦苦闘しながら、とりあえず小鍋一杯分のゼラチンをどうにか泡立て終わった。
強力粉をまぶしておいた金属のパットに入れる。
冷めて固まるのを待つこと十数分。
「おお、本当にマシュマロだわ!」
覚えのある白い弾力のあるお菓子ができあがった。
パット一杯分の大きさのマシュマロとはなかなか豪気だ。
ナイフで適当な大きさにカットする。
柔らかすぎて形が不揃いになってしまったが、初めてにしてはなかなかのものだろう。
「ちょっと味見を……ホフホフ」
口に入れてみる。
打ち粉に使った強力粉がちょっとべたつくのと混ぜ方が足りなかったのかダマができているのが玉にキズだが、クニュクニュと歯を押し返してくる感覚は確かにマシュマロそのものだ。
<<分け前をくれよ>>
「ほい」
待ち構えていたタヌキに切り分けた一つを投げてやると、見事に空中で口でキャッチしてみせた。
次回は今日中にもう一回追加します。
それから感想を頂きありがとうございます!
お返事はできていませんが全部読んでいます。とても励みになります!




