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4_2 通された部屋

 とりあえず部屋に荷物を置くことにした。

タヌキを連れて、別荘のスタッフに部屋まで案内してもらう。



「こちらがロナ様のお部屋です」

「ありがとう。はぁー……。なんというか、圧倒されるわねぇ」


 

 用意してもらったゲストルームは、オーナーの趣味に合わせてきらびやかなとなっていた。

絨毯から壁紙、カーテンや椅子の布張りに至るまで色鮮やかな高級品が惜しげもなく詰め込まれている。


 圧巻なのは部屋の奥に『でん』と置かれた巨大なベッドだった。

私が全身を投げ出したとして、縦に寝転んでも横に寝転んでもどちらでもまだまだ余裕がありそうなキングサイズのダブルベッドだ。

ご丁寧に天蓋つきのベッドカーテンまでついている。王侯貴族の寝室に備えられていた、と言われたら誰もが納得しそうなシロモノだった。



「毎晩これで寝るの? なんだか気後れして疲れが取れなさそう……」

<<俺の寝床まである!>>


 気の利いたことに、ベッドの脇には藤製の四角いバスケットに真新しいブランケットが敷かれている。

タヌキが近寄って具合を確かめていた。高さも広さもあつらえたようにぴったりだった。



「はぁ……。何も言っていないのにここまでしてくれるなんて、一流のサービスは違うわねぇ」

<<うちの寝床より高級品だ、これ>>

「あん? あなた私が作ってあげた寝床に何か文句でもあるの?」



 そうこうしているうちに、使用人たちがてきぱきと荷物を運び入れていく。

乗ってきた馬車とは別便で送ってもらっていた鞄や旅行用の木箱たちだ。

私が指示する間もなく、部屋に設けられた家具や収納スペースのそれぞれぴったりの場所へしまいこんでしまった。

あっという間にゲストルームは私専用の居室になってしまった。



「それでは私どもは控えておりますので、御用があればお申しつけください」

「あ、はい。どうも……」



 あまりの手際の良さに、使用人たちが引き上げていくのを半笑いで見送るしかない。



「トパースを連れてこなくて良かったわ……。あの子自信喪失になっちゃうかも」



 ついつい自分付きの侍女と手際を比べてしまった。荷物運びと収納のプロである彼らと比べても仕方のないことだが。



「すごっ、洗面所も高級ホテル並みだわ。うへえ、トイレも水場もきんきらきん……。使い辛そう」



 部屋の奥のバスルームを確かめていると、思わず変な声が出てしまった。

こんなところまで彫金や七宝で飾り立てなくても良いだろうに。



「ん?」



 当然のように全て完備してある歯ブラシやら洗顔具やらのラグジュアリーが、何故か全て二つずつ置かれていた。



「もともと二人用の部屋なのかしら?」



 首をかしげながらベッドルームに戻ると、窓辺に置かれた一人用のソファに深々と背中を預ける。

自分で思っているより長旅で疲れているようだ。鉛が入っているかのような体をソファは実にしっかりと受け止めてくれた。

そのまま一瞬寝入ってしまいそうになるが、『コンコンコン』というノックが聞こえてきて慌てて体を起こした。



「? どうぞ。 どなた?」



 ドアを開けて入って来たのは意外な相手だった。



_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/



「マダマさま?」

「あれ? レセディ?」



 開いたドアから顔を見せたのはマダマ様だった。



「何か御用?」



 てっきり自分の部屋で休んでいるものだとばかり思っていたが、何かあったのだろうか。

だがきょとんとした顔で、マダマ様は軽く首を振った。



「ここがボクの部屋だって案内されてきたんです。荷物だってこの通り」

「えっ」



 マダマさまが言っている端から、背の高い女警護官……ベリルが旅行鞄を運び入れてきた。

それに続いて別荘の使用人たちも次々荷物を持ち込んできた。



「あら、ここもしかしてマダマ様が泊まる部屋だったの?」



 道理で豪華過ぎると思った。確かに一国の王子様にはふさわしい部屋だ。

手違いで先に案内されてしまったが、私が泊まる部屋は別にあるのだろう。



<<えっ、じゃあこれは?>>



 目新しい寝床の寝心地を確かめていたタヌキが声を上げる。

言われてみれば確かにおかしい。マダマさまがペットを連れているかどうかなんて事前にすぐ分かることだ。



<<それに部屋のダブルブッキングだなんて初歩的なミス、こんな手際の良い使用人たちがするか?>>

(言われてみればそれもそうね……)



 疑念を頭をかすめるが、誰にだってミスはあるということだろう。



「あの、ちょっとちょっと」

「何か?」



 会話をそ知らぬ顔で聞き流しながら、マダマさまの荷物を広げているベリルに声をかけた。

彼女とはもう顔を合わせて三度目だが、まだその威圧感には慣れない。じろりと見下ろされるとついたじろいでしまう。



「もしかして泊まる部屋、間違えてない?」

「いいえ、殿下がお使いになる部屋はこちらで間違いありません」

「あ、そうじゃなくて。私が他の部屋に移るんでしょう? 良いわ良いわ、スタッフさん呼んで荷物運んでもらうから」

「いいえ、ロナ嬢のお部屋もここで間違いございません」

「「えっ」」



 私とマダマ様、別々の口から同じ驚きの声が漏れた。



「大公夫人からはお二人はここで寝泊まりするようにと」

「「なっ!」」



 またもハモってしまう。



(あちゃー……)

<<ここまでするか>>

「き、聞いてませんよそんなの!」



 頬を染めてマダマ様は抗議を始めた。

どうやらこの旅行の間に私と無理にでもくっつけようという大公夫人の思惑は聞かされていないらしい。



「一緒に泊まるって、同じベッドで寝るんですか!」



 強引すぎる身内の手口に振り回されている王子様は、巨大なダブルベッドを見て耳の先端まで真っ赤になった。



「そ、そ、そんなのってないです! ここはレセディに譲りますから、ボクには狭くて良いから別の部屋を用意してください!」

「『それだけは絶対にするな』と大公夫人から申し付けられております」

「えぇっ!?」

「『禁を破れば石抱きの逆さ張り付けの恰好で裸吊りのお仕置きじゃ!』とも」

「そんな猟奇的な組み合わせで!?」



 エクストリーム過ぎる体罰を受けて天井にくくりつけられるマダマさまを想像して、あの夫人ならやりかねないなーと思ってしまった。



「ベリル! ねぇ、お願いですから!」

「申し訳ありませんが、私は大公夫人の意向に従います。職務ですので」



 マダマさまの泣きそうな顔を意に介さず、女性衛士ベリルは荷物を丁寧に仕分けてしまう。



「それではご夕食までごゆっくりお過ごしください」

「……」



 不安そうな王子を残して、そう言って女警護官は出て行ってしまった。

次回は明日朝8時に追加します。

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