【第三章】第三十部分
「そうだわ。どうやって手に入れたのか、わからないけど、これはアタシにとって、とても大切なものと感じるわ。腰巻きにはちょっと小さくてあまり隠せないけど。」
立ち上がった吉宗は刀を大上段に構えて、宗春を頭から打った。
「グエエエエ~!!」
断末魔の悲鳴を上げながら、宗春の姿は瞬時に消滅した。
「アタシ、晴れて征夷大将軍の座を勝ち取ったわ、エイエイオー!」
吉宗が勝ちどきを発した直後。
「見事である。先ほど伝達した通り、紀伊従三位大納言吉宗は正式な征夷大将軍に任じる。」
武家伝奏は声高らかに宣言した。何かに満足したのか、堂々たる表情に高貴さが表れていた。
いつの間にか武家伝奏や幕府要人、吉宗の父親たちは戻っていて、少々ざわついていた。
吉宗は宗春が落としていった印籠を自慢げに高々と掲げた。
「吉宗よ、よくやった。ワシの歴史は守らたぞい。」
家康の声が吉宗に届いた直後、吉宗は再度ブラックアウトした。
場面は再び現実世界に戻っていた。
「アタシは将軍よ。二股の恋なんてプライドが許さないわ。それに将軍は恋より生徒会よ。徳田さんに恋人の地位を禅譲するわ。」
「そうか。たしかに将軍は唯一無二の存在。残念だけど、ボクは生徒会では副将軍に専念するよ。でも気持ちは変わらない。いつまでも待ってるよ。」
御台は生徒会長室をあとにした。フラれた割にはスッキリとした表情である。
吉宗が御台の背中を見送ったあと、残されたH前と市香は歯噛みしながら睨み合っていた。
「上様、あたしを選んでくれたんだね~!」「将軍様!お市を指名してくれたのね!」
「上様はあたしのものだよ~!」「将軍様はお市をソバに置いてくれたんだよ!」
H前と市香は取っ組み合いのケンカを始めた。しかし、ふたりの顔はほころんでいるように見えた。




