【第三章】第十八部分
「もう、どうしてこんなことになったのかしら。」
「上様。生徒会長室は仕方ないよ。でも教室での関係は維持されてるんだから、落ち着いて渡心君と話せばいいよ~。」
「それもそうね。でも・・・。」
吉宗は次の言葉を続けることができなかった。押し込められた言葉はブラックホールのような心の闇を開闢させた。
吉宗が懸念した通り、翌日の教室でも、空気は重かった。
「御台くん、なんだか元気ないわね。風邪でもひいたのかしら。」
「なんでもないさ。気にしないでくれよ。」
正面を向いたままでトークするふたりは、心の中で自分を追い込んでいた。
空気の色は灰色の濃度を深くしていく。
「生徒会で何かあったの?」
「う。そ、そんなことはないよ。それにしても徳田さんは将軍じゃないのに、なんとなく似てるような気がして、話がしづらいんだよな。不思議だ。いや、ボクがそれだけふさぎ込んでいるということか。市香ともギクシャクしたままだし。これもすべてボクのせいだ。」
額にシワを寄せて御台は机に突っ伏してしまった。
「御台くん、大丈夫?保健室に行って、破廉恥なバレンチノでもする?・・・、アタシ、なんて、はしたないことを言ったの!」
吉宗も机の板に張り付いてしまった。
「上様・・・。」
H前もかける言葉を失ってしまった。昼間の教室は真っ黒なカーテンで遮蔽されたかのようであった。
御簾の間では、綱吉から吉宗たちの重かった空気情報が宗春に伝えられた。
「さあ、いよいよワタクシの出番ですわ。どこまでも続く赤い絨毯を敷いて待っててくださいな、将軍吉宗様。ホーホホホッ。」
数日後の教室の朝。入室した吉宗には生徒がずいぶん少なくなったように感じられた。
「あれ?布切れ王子は今日も来てないの。昨日も生徒会長室に来てないし。おたすけえ、何か聞いてないの?」
「あたしは知らないよ~。ウワサでは家に引きこもってるらしいよ~。」
「ウワサって、市香ちゃんから聞いたの?」
「そうだったかな~。なんだか記憶があいまいで~。あたし、今日は早退する~。」
「おたすけえ、までおかしくなっちゃったの!?」
その後、H前から吉宗への返信はまったくなかった。吉宗から声を掛けるのをためらうのは当然としか思えなかった。
結局、放課後の生徒会長室は吉宗ひとりであった。生徒会室の広さが何十倍にも感じられた。




