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【第三章】第十七部分

眉を吊り上げた市香が暴れて御台を振り切った。親の仇でも見るような目つきである。

「渡心御台、何やってるのよ。妹にセクハラとかサイテーじゃないの?」

「将軍は一部始終を見てただろう。これのどこがセクハラなんだ?」

「「ジーッ。」」

H前と市香は、御台の両手をなじるように睨んでいる。エサを取られそうになって唸る大型犬のようである。

「お兄ちゃん。自分のセクハラ体勢を客観的に判断してよ。」

「はあ?いったい何を言ってるんだ。ボクはフラットな壁に腕を預けているだけだよ。強いていえば壁ドンだ。」

「それは違うよ~。あたしたちのレギュラーポジションを奪ってるんだけど~。」

御台の大脳は手の平から伝達されたビミョーに柔らかい感触を認識した。適度なソフトタッチの柔軟さとは真逆の戒厳令で、目の前が真っ赤に染まった。

次の瞬間、吉宗が悲鳴を上げた。

「きゃああ~!アタシの両胸が渡心御台にモミモミされてるわ~!渡心御台がセクハラ副将軍だと判明したわ。女子ばかりの生徒会にとってはキケン因子になるわね。でもさっきのは、アタシが魅力的過ぎて魔が差したのです、と百回土下座するなら、心の広い将軍として、渡心御台の不埒な罪を倹約してあげなくもないわ。」

「今のは偶然の事故だよ。不埒な行為とは根本的に違うよ。」

「盗っ人武田薬品とはこのことよ!」

「上様、ちょっとニュアンスが違うよ~。」

「些細なことはどうでもいいわ。素直に謝れば許すと言ってるのに、どうしてわからないのよ。」

「わからず屋はそっちだろ!」

「なんですって!もうアタマに来たわ。もう渡心御台のことなんて知らないわよ!フンだ。」

「こちらこそ、心の寛大さを倹約してしまった狭量な将軍に従うなど、願い下げだね。それは今の話だけではないよ。そもそも倹約ってこと自体が心の狭さから出てきている政策じゃないのか。ボクには生徒に何かを強要すること自体、肯定できるものじゃないよ!」

「ひどい、ひど過ぎるわ。悲しくなっちゃうじゃない。ここから出て行ってよ!うう。」

強い口調の退去命令であるが、吉宗は涙ぐんでいる。大泣きしそうなダムを辛うじて抑えているのが手に取るように伝わる。

「わかったよ。倹約令が適切に運用されているかどうかを監視するためにここにいるんだけど、そこまで言うなら甘んじて受け入れることにするよ!」

 御台は席を蹴とばすように生徒会長室を出て行った。その勢いで舞った埃はいつまでも残って、宙を漂っていた。


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