【第三章】第十六部分
宗春は御簾の間で、実に上機嫌で真新しい扇子を振って、きれいな顔に風をぶつけていた。
「ワタクシの狙い通りですわ。これで学校は一体感を失い、混乱に陥り、やがて責任追及の矛先は将軍に集中するのは必定。面白いことになってきますわ。」
一方、放課後の生徒会の中では、市香が吉宗にベタベタしていた。
「将軍様、お市が身の回りのお世話をします。モミモミ。」
「それはお世話じゃないわ、タダのセクハラよ!」
それを横目で見ているH前。心の中で、火柱が燃え盛って、仁王のようになっていた。
「日常的なモミ行為はあたしには完全禁止してるのに、どうして市香には許してるんだよ~。差別だよ~。もしかしたら上様は市香のことが好き?上様のつぶらな瞳はまんざらでもなさげに見える、つまり上様はロリコンなの~?」
H前の中の仁王は、勇猛な顔に似合わず、涙を流していた。
御台は、こうした三人の異様な雰囲気に対して、いたたまれなくなっていた。
御台は市香に近づいて、目線を合わせずに声をかけた。言いたいことを抑えるのは難しいという思いが肩を揺さぶっている。
「市香、生徒会の手伝いはほどほどにして、帰宅した方がいいんじゃないか。」
「うるさいよ、お兄ちゃんは命令ばかり。お市はお兄ちゃんのメイドじゃないんだよ。お兄ちゃんが帰りたければ先に帰ればいいんだよ、大キライ!」
「うっ。そんな。」
御台はしばし絶句したあと、吉宗の方を向いた。土下座でもしながらの方がいいかもしれないという思いが頭をかすめる。
「将軍、うちの妹から離れてくれないか?」
「アタシは何もしてないわ。市香ちゃんがなついてきてるだけだし。」
市香は両手で左右の胸を独占してモミモミしている。吉宗は苦虫を嚙み潰したような表情である。
「むしろ、引き剥がして欲しいんだけど。」
「そ、そうだね。市香、そんなはしたないことは止めるんだ!」
眉間に深い溝を掘った御台が、市香の腰を触って揺すった。市香はおもちゃのビックリ箱のように、声が喉から飛び出した。
「お兄ちゃん、超絶セクハラ、ドメスティックバイオハザード!」
「バイオレンスだろ。」
「中学生にはどっちも同じよ!」




