【第三章】第十五部分
吉宗が倹約令緩和したとはいえ、それが生徒たちに受け入れられたのは、御台が吉宗側の副将軍に就任したからであった。
「御台様のお陰で、暴君吉宗が現実路線に政策転換したわ。」「さすがは御台様!」「将軍吉宗も少しは反省したのかしら。」
もっぱらこういう評判で、吉宗の支持率は回復軌道にあった。生徒会ではH前と市香の吉宗への好意が忠誠心を引き連れて、雰囲気がよくなっていた。
特進クラスの御簾の間では、眉根を吊り上げた宗春が四つ葉クローバー柄の扇子を叩いていた。
「どうして、忌々しい吉宗が復活したんですの。いったん大政奉還しながら返り咲くとは、ポイ捨て詐欺ですわ!こうなったら、倹約令の真逆を行く作戦を実行しますわ。ワタクシの本気を見せて差し上げます。綱吉さん、今度こそ、ワタクシのために働いてもらいますわ。」
「わかったにゃ。全力でできることを可能な範囲限定でやるにゃ。」
「一見のみ頑張るように見えるのは気のせいかしら。」
「こうして相手に心の迷いを起こさせるのもドS的でいい感じにゃ。」
「何かおっしゃいましたか?」
「何でもあるけど、ないにゃ。」
「ホントに訳がわかりませんわ。」
かくして、宗春の倹約令対抗作戦が展開された。宗春は新しい扇子の調達を綱吉に命じていた。
綱吉は中庭で、画板を体の前に吊してそこに大量の札束ならぬ商品券を並べている。
「は~い。刀狩りで困ってる生徒はこの商品券で、武装するにゃ。」
堂々と綱吉が生徒ひとりひとりに賄賂を渡していた。
本来ならタダより高いものはないワケであるが、配布しているのがネコ将軍本人であるので、もらっても安心との見方が徐々に拡大した。
商品券額面は半端ない金額であり、受領した生徒は、それまでの倹約精神の反動もあり、メイク道具爆買いに走った。この『過度に武装しなさい』というコンセプトの結果、『ケバいメイク女子』が続出した。ケバいメイクと言えばひと昔前のヤマンバ流法である。
ヤマンバ生徒はやがて軍団となった。不思議なもので、外見が派手になると、それは内面に影響を与えて、思想的に急進派グループを形成した。
一方、倹約に慣れた者はヤマンバ軍団とは相容れず、友人関係が破綻して、生徒たちは分断されていった。両者グループはぶつかり、裏町で跋扈するチンピラ同士のケンカのように、ひどく悪くあさましくなっていった。




